記事

トランプ以後は「人権」がタテマエになる

■トランプ的「ホンネ」の前では「人権」が語れない

トランプ次期アメリカ大統領は、当選後日がたつにつれビジネスマンとしての現実主義者の顔を見せ、オバマケアの容認など、当初危惧されていた過激な孤立主義・保守主義の側面は若干トーンダウンされたようだ。それは株価などにも現れているらしい。

だが僕は、「トランプ以後」は、決定的に何かが変わっていく気がしている。

それは、リベラルがリベラルとして理想を容易に語れなくなったということであり、理想の理念の代表格である「人権」ですらその波には逆らえず、トランプ的「ホンネ」の前ではこれまでのように無防備に理想主義としての「人権」が語れなくなってしまった。

何しろ、女性の人権をある意味代表する「ヒラリー」が敗北してしまった。ヒラリー氏の背景には「女性」よりも既存権力層である「エスタブリッシュメント」の影が大きく、アメリカの有権者の半数以上は、「女性」という人権の側面よりも「エスタブリッシュメント」へのアンチとしてヒラリー氏を捉えた。

ヒラリー氏がいくらエスタブリッシュメントだろうが90年代より権力に近いところでいただろうが、ヒラリー氏がヒラリー氏としてまず位置づけられるのはこれまでは「マイノリティとしての女性」というあり方だった。

ましてや、一方のマイノリティ代表としてのオバマ氏が、全体としては戦後大統領のなかでは有数の業績と支持率を残したと思われるだけに、いよいよこの次はヒラリーによって「女性」の立場が代弁されオバマの遺産を正統に継ぎ、アメリカのリベラルあるいは世界のリベラルをより一段高い位置に押し上げるだろうと、世界中のリベラルは(またそれを体現する世界中のマスコミ人は)すっかり想定していたのだ。

それが、「ブルックリンからマンハッタンに憧れていた若者」(トランプ氏)が大統領になってしまった(前回の僕の記事参照→http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakatoshihide/20161112-00064353/)。極端な階層社会のなかでルサンチマンにまみれた成り上がりトランプが、「人権」代表ヒラリーを押しのけてトップになってしまった。

それはつまり、人権のもつ理想主義や高い理念が、ある意味「タテマエ」として排除され、それが世界レベルで表に出てしまったということだ。

■トランプ的「ホンネ」(ヘイト)

日本ではこれまで、こうした反理想主義あるいは反リベラルの声は、主として「2ちゃんねる」で語られたり、政治的に過激になる場合は「ネトウヨ」として括られていた。

たとえば僕の仕事の領域である「子どもの人権」についても、それほどあからさまではないものの、2ちゃん内ではストレートにはなかなか尊重されない。

「子どもの人権」という考え方を2ちゃんねらーは皮肉ったり攻撃するのではなく、「人権」という言葉にくっつく正統主義・理想主義に反発する。

ジンケンという正当性があれば、それに伴う複雑な問題がなかなか注目されない。その「複雑さ」とは、「弱いものがさらに弱いものを叩く」というマイノリティー同士の諍いや、ジンケンという表象で見えてくる(顕在化された)弱者ではないまだ顕在化されていない潜在的な弱者(サバルタン)の問題など、多角的だ。

だから理想主義者や人権主義者の一部は、こうした複雑さを捨象することなく取り組んでいる。リベラルな理想主義者を自認する僕も、潜在化されたサバルタン問題を中心に、ここ20年地道に現場支援に取り組んできた(現在取り組む問題では貧困問題の中のPTSDや高齢ひきこもりなど)。

だが一方で、既存の「人権」問題はどうしても既成事実化してしまったことは事実だ。そのマイノリティ性はいつのまにか社会問題の中心となり、現在進行形の別の問題の当事者からすると、社会問題の中心の既存マイノリティ問題よりも、自分たちが日々直面する苦しい問題のほうが重要だと感覚的につかんでいる。

その既存問題が女性の人権問題であり、現在進行形での苦しい問題が、階層社会や貧困や「職がない」という問題だ。その、既存の理想主義を否定するときに使われたのが、トランプ的「ホンネ」(ヘイト)だった。

■混沌とした問題を整理する「哲学」がない

ヘイトは醜い。また、ヘイトすることで弱い者を叩いている。だからこれからもヘイトは排斥されていいと僕は思うのであるが、ヘイトをある意味「営業トーク」的に使用したトランプ氏的あり方が支持された以上、当選後に氏がトーンダウンしたことも含めて、既存のリベラルや理想主義者は、それぞれの「言葉づかい」を検証する必要がある。

トランプは営業トークだとわかっていながらも、氏が主張するプアホワイト救済や違法移民排除などはかなりの説得力があった。特に違法移民排除などは、その「排除」という姿勢と既存の人権主義はどうバランスをとるのか。トランプ=反人権だけでは説得力をもたない。

つまりは、トランプの発言も過激で困ったのものだが、既存リベラルの立ち位置も「古い」のだ。いまは従来のリベラルや人権やましてや左右対立などはすでに超えており、その混沌とした問題を整理する「哲学」がないという状況だ。

タテマエとなった「人権」は2ちゃんねらー以外にも説得力を失い、日本ではだから無党派層が最大勢力になっている。が、現在進行形で苦しむ人々は、貧困層の中の被虐待体験の子どもたち(あるいは18才を超えたポスト虐待世代の若者たち)も含んで今日も大量に生産されている。

現在のところ、これを位置づける哲学はどうやら存在せず、既存リベラル・人権主義が古くなり、トランプ氏的排外主義・孤立主義がオモテに出ている。ここはやはり、「思想」が必要で、ポストモダン哲学のような「大きな哲学」の流れが求められていると僕は思う。★

※Yahoo!ニュースからの転載

あわせて読みたい

「ドナルド・トランプ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。