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就職難は、少なくともミスマッチの問題ではなさそう

 さて、ツッコミどころに事欠かない妄言といえば昨今では原発がらみが多いですけれど、トンデモの罷り通る元祖とも言うべきは雇用や経済分野でしょうか。とりわけ近年は、雇用の問題から何とかして雇用主を免罪すべく、「雇用主以外の何か」に原因を求める言説が盛んに称揚されてきました。超・買い手市場の元で主導権を握っているのは誰なのか、人事権を有しているのはどこなのか、最も影響力を行使しうる立場にいるのが誰なのかは考えるまでもなさそうですが、そこは何とかして守りたいものがあるのでしょう。自身が「雇われる側」の人間であっても、「雇う側」の目線で物事を語ることで、エグゼクティヴ気分に浸っている人も多いように見えますし。
「就活負け組」はコミュニケーション能力が欠如している(週刊プレイボーイ)

8月4日、今春に大学を卒業した約55万人のうち、およそ5人にひとりにあたる10万人以上が進学も就職もしていない「進路未定者」であることが、文部科学省が公表した学校基本調査でわかった。

人材コンサルタントの常見陽平氏によると、こうした状況のなか、今年は深刻なある傾向が見られるという。それが学生たちの“就活格差”。常見氏はこう説明する。

「内定をいくつも取る“内定長者”の学生と、まったく内定を取れない“無い内定”の学生、その2極化がますます進んでいるのです。環境の変化により、企業はますます厳選採用をしていて、実際、求めている人材のレベルも上がっています。でも、企業が欲しがる学生のパターンなんてどこも似たり寄ったり。だから、一部の学生に内定が集中してしまうのです」

その割合は、勝ち組が2〜3割で、負け組が7〜8割という。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏も、学生の格差拡大の傾向が年々強まっているとうなずく。
 
「結局、どんな業界も学生に求めるのは『机を並べて一緒に仕事ができそうか』とか『マジメに働いてくれそうか』といった点。ひと言で表すなら『コミュニケーション能力がある学生』ということ。でも、厳しいことを言わせてもらえば、今の学生の多くはこれがほとんど崩壊しています」
 雇用問題を巡る疑わしい主張の一つに「ミスマッチ」論があります。就職難の原因は、採用する側と就職する側のミスマッチが問題なのだと、まことしやかに語られているわけですが、果たして本当にそうなのでしょうか? もしブラック企業と「ホワイト」企業があって、学生側にもブラック企業に就職したい人もいればホワイト企業に就職したい人もいる、しかるにブラックを望みながらホワイトにしか出会えない学生や、反対にホワイトを望みながらブラックにしか出会えない学生が多数いるというのなら、それは確かにミスマッチの問題と言えます。一方で学生の大半が「ホワイト」企業を望んでいるのに求人を出しているのはブラック企業ばかりだとすれば、それをミスマッチと呼ぶことは出来ないはずです。

 非正規雇用を望む人もいる、と真顔で言い張る人もいます。それはまぁ人それぞれなのですけれど、実際の需要と供給の多寡を無視すべきではないでしょう。たとえば8割の就業希望者が「年金受給年齢まで働ける仕事」を必要とし、残る2割が「一時的な仕事」を必要としているとして、この場合は確かに非正規雇用を望む人もいるには違いありません。しかし求人がそれに釣り合うかどうかは別問題で、求人の6割が「一時的な仕事」で、「年金受給年齢まで働ける仕事」が4割しかなかったとすれば、必然的に「年金受給年齢まで働ける仕事」を巡る熾烈な争いが発生するわけです。その分だけ「一時的な仕事」には空きが出ますけれど、この「空き」に「年金受給年齢まで働ける仕事」を望む人を当てはめることを以て「ミスマッチの解消」などと考えているのなら、欺瞞もいいところですよね。

 あまり鵜呑みにすべきではない人々の語ることではありますが、「内定をいくつも取る“内定長者”の学生と、まったく内定を取れない“無い内定”の学生、その2極化がますます進んでいる」「企業が欲しがる学生のパターンなんてどこも似たり寄ったり。だから、一部の学生に内定が集中してしまう」「どんな業界も学生に求めるのは『机を並べて一緒に仕事ができそうか』とか『マジメに働いてくれそうか』といった点。ひと言で表すなら『コミュニケーション能力がある学生』ということ」だそうです。この辺は私も同意せざるを得ないところで、結局のところ採用側が欲しがる人材はどこも変わらないわけです。どこでも「コミュニケーション能力」の一言に集約されてしまう、同じタイプの人材しか必要とされていないのです。

 これがもし、企業側で「コミュニケーション能力の高い人」だけでなく「コミュニケーション能力の低い人」のニーズもあるのなら、ミスマッチ云々も成り立つのかも知れません。コミュ力の高い学生をコミュ力の高い学生を求める企業へ、コミュ力の低い学生をコミュ力の低い学生を求める企業に引き当てていけば、まぁミスマッチの解消と言えないことはないでしょう。しかるに、どこの企業もコミュニケーション能力の高さを追い求めているのなら、就職難の原因となっているのがミスマッチなどでないことは明らかです。主導権を握っている側が多様性を失っている以上、マッチングによって解決できる問題などたかが知れています。

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 こちらは日経新聞からの切り抜きですが、新入社員の今と昔の姿が描かれています。企業側の選別基準が十数年で随分と変化してきたことが一目でわかります。ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれたほんの十数年前は、日本でも多様性を認める形で採用が行われてきたはずなのに、今やスーツの色から髪型に靴まで、規格に合わせた人だけが採用される時代になってしまったようです。少しでも規格から外れた人には機会がない、コミュニケーション能力という統一規格の基準を満たさなければどの企業からも歓迎されない、そういう状況に拍車が掛かるばかりであるとしたら、いよいよ以てミスマッチ云々などと寝言を抜かしている場合ではないと思います。

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