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サルも人間も縄張り争いに必死だ

僕は長い間分からなかったことがある。それは企業等の組織で成功を収めた人が、政治の世界に飛び込むことだ。なぜなら多数のライバルとの熾烈な競争に打ち勝ち、企業に利益を落とし、スズメの涙のほどの給料で必死に稼いできたカネは、莫大選挙資金で消えることになるだろうし、築き上げてきた地位・名誉も、新聞、雑誌、ネットなどの媒体にボロクソに叩かれて失うことを知りながら、あえてそうしたフィールドに乗り込むからだ。

都会の駅周辺には、必ずと言っていいほど、ファストフードや牛丼屋のチェーン店が立ち並んでいる。僕は仕事帰りのある日、牛丼屋に立ち寄り、中国人とおぼしき店員に迎えられながら、メニューを選び、黙々と牛丼を食べていた。突然、店内の中央から怒鳴り声が響き渡り、そちらの方に目を向けると、何やら中年の男性が店員に文句を言っているのが分かった。

「おい、おまえ!牛丼を持ってくる順番が違うだろーが!オレは隣の奴よりも早く来て、注文も済ませているのに、なんでオレの方が後なんだよ!外に車を止めてあるから、遅れてレッカーで運ばれたらどーすんだよ!弁償しろよ!オレはここの常連だぞ!」と言っていた。怒鳴られた女性店員は、泣きながら謝っていたけど、中年男性は怒りを抑えることが出来ず、顔を真っ赤にして、怒鳴り散らしていた。それを見かねた店長が、何度も頭を下げた後、料金を弁償し、男に渡していた。男は直ぐに怒りをどこかへ引っ込めて「ここは、常連を大切にする良い店だな。これからも使うからな」と満足そうだった。

きっと彼が怒った理由は、順番を間違えられたことが直接的な原因でもなければ、時間のロスが原因でもないだろう。それは牛丼屋という自分のテリトリーで、大切に扱われなかったことが理由ではないだろうか。だからこそ、料金の払い戻しという特別扱いをされたことで、満足げに帰っていったのだ。

チンパンジー社会は、僕達人類とは異なり、厳しい階層社会を形成している。アルファオス(ボス猿)が、全ての食物とメス猿を独占し、アルファオスは他のオス猿が許可なしにメス猿と性交することを厳しく罰する。そして他のオス猿は、社会的順位を認識していることを証明するために、頻繁に屈従的な「あいさつ」をする。それは一連の速くて短い、あえぐような「オフォ・オフォ」という音声であり、「パント・グラント」と呼ばれる行動である。またメス猿は、優位のオスに腰をさしだす。オスは性器を検査したり、そのにおいをかいだりする。このような行為は「プレゼンティング」と呼ばれ、服従の姿勢を証明するものだ。

このように、チンパンジーは厳しい階層社会で生活している。では長期的に秩序が保たれているかと言えば、そういうわけでもなく、頻繁にクーデターや権力闘争が起こりえる。でもこうした闘争は突然生じるわけではなく、きちんと前触れが存在するのだ。それは、他のサル達がアルファオスに対し、一連の「あいさつ」をしなくなるということだ。これは現状の社会的順位に不満があることを意味するもので、階層の変化を望んでいることを表している。きっと牛丼屋の中年男は、店員から「あいさつ」が足りなかったことに腹を立て、必要以上に暴れていたのではないだろうか。彼にとって、牛丼屋での自分の地位は、アルファオスであり、まさしく自分のテリトリーを意味するのだから。

企業で働く人達にとって、職場は戦場であり、チンパンジー組織さながらの階層社会を形成している。だけど、人間社会の政治ゲームは、チンパンジー社会とは比べ物にならないほど複雑だ。男性社員は、直属の上司を追い落とすために、階層構造をジャンプして、海外で働くさらに上位の上司に対し、直属の上司がいかに無能かということをメールで逐一報告をしているかもしれないし、女性社員は、色仕掛けで上司を取り込み、気に食わない社員を一掃しているかもしれない。人類はサル以上に権力が魅力的で、様々なモノをもたらしてくれるということを知っている。そしてその組織が大きければ、大きいほど権力も大きくなり、自分の支配下におけるモノも増加することを認識しているに違いない。

政治家になるということは、その国の行く末を支配できる権力を手に出来るように見える。そして巨大な権力を握ることが多くのことをもたらしてくれることは歴史が教えてくれている。中世以前の人口密度の高い都市文明においては、もっとも上の階級に属する男性は、ほどんど常に、何百人という女性からなるハーレムを持ち、何百人という子供を持ってきた。つまり、男性にとっては、権力を握ることは自分の遺伝子を大量に残せるチャンスが増加するわけであるし、女性にとっては、優れた遺伝子を獲得出来るチャンスであるわけだ。もちろん、日本では一夫一妻制度を採用しているので、あからさまなハーレムを作ることは無理だ。だけど、政治家の女性問題が頻繁に取り立たされていることを考えれば、権力が異性を惹きつける要素であることは簡単に分かる。

こうしたことを考えると、政治家になるということは、莫大な権力を握ることを意味し、僕達の遺伝子に予めプログラムされていることなのかもしれない。だから国をよりよくするということよりも、自分の遺伝子を、出来るだけ価値が高い状態で後世に残すことを目的にしているかもしれないのだ。そうでなければ、多くの国民が理解に苦しむ政策や利権を重視した法案などが可決されるわけがない。企業での組織内争いも、政治家の階層ゲームも、所詮動物園のサル達の政治ゲームと何ら変わりはないのだ。

参考文献

あなたのなかのサル―霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源
画像を見る
政治をするサル―チンパンジーの権力と性 (平凡社ライブラリー)
画像を見る利己的なサル、他人を思いやるサル―モラルはなぜ生まれたのか
画像を見る
利己的な遺伝子 <増補新装版>
画像を見る

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