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ぼくらはそれでも肉を食うー人と動物の奇妙な関係 ハロルド・ハーツォグ著

僕はシーシェパードが捕鯨船に対し、「環境保護」を名目として、爆薬をしかけたり、衝突したりと危険行為に及ぶニュースを見聞きするたびに疑問に思っていた。さらにこうした暴力行為も、反捕鯨、反イルカ漁、反アザラシ猟の世論が強い国からは賞賛されることさえあるし、多くの有力者からこうした活動に対し、援助資金を集めてさえもいる。

さて著書は、「人類動物学」なる新たな学問分野によるもので、事例を紹介しながら一般向けに書かれている。簡単に言えば、「人類動物学」とは、動物に対する人間の態度を研究対象とした学問である。僕たちは国によって、または個人によって、動物に対する価値観が異なる。例えば、イヌをペットとして飼う人もいれば、1人の家族として人間と同じように扱う人もいるだろう。でも中には食肉として扱う人もいるのだ。日本という国では、イヌを食べることは一般的ではないし、ある意味タブーとさえ言えるだろう。そういう文化で育った僕達にとって、それを食べるという発想自体に嫌悪を感じる人もいるかもしれない。でも考古学的証拠によって、人間は何千年もイヌを食べ続けてきたことが分かっている。

アステカ人達は食肉専用の毛なしイヌを作り出したし、北米インディアン部族の多くは普段からイヌを食べていた。さらにアジアではイヌが大人気で、毎年1600万頭のイヌが消費されている。誰よりもイヌを沢山食べるのが中国人で、なかでも子イヌのハムがいちばん人気だ。韓国も、長いイヌ食の伝統を持つ国だ。韓国では、中国と同じように、イヌ肉に医療効果があると信じられている。

さて、僕達はこうした他国の文化を受け入れることが出来るだろうか。実は僕自身が中国に訪れる機会があった際、こうした文化に直面することがあったのだが、イヌを食すことは出来なかった。誤解のないように言えば、基本的にそうした文化で育った人が、イヌを食べることには全く嫌悪感を抱かないし、その文化を尊重すべきだと考えている。ただ、日本という文化で育った事で、イヌに対する価値観の相違によって食すことが出来なかったということだ。

多くの日本人は(鯨を常食としていた世代は特に)、反捕鯨団体に嫌悪感を抱いているはずだ。他国から鯨を食べるのは残酷で、野蛮だし、頭が賢い動物を食べるなんてどうかしているなんて批判を受ければ、文化の違いを理解しないことに対し、怒りを覚える人もいるだろう。でもイヌやネコを食べることを文化としている国に対する理解は出来るだろうか。

さてまた、本書では実験動物として扱われているハツカネズミや野良ネズミに対する事例を紹介している。動物愛護の観念が強い人からすれば、病気や薬品の研究のためと言われても了承出来ない人もいる。こうしたことを実に注意深く、慎重に論議している。

ここで個人的な考えを言えば、僕はどんな動物であれ、特定の国や地域で食肉として扱う文化があるのであれば、それを尊重するべきだと思っている。さらに人類の生命に関わることであれば、動物実験についても推奨する立場だ。もちろん、むやみやたらに、動物の命を奪うことには反対だし、いたずら、遊び、密漁によって命を奪われた動物の話を見聞きする時は、怒りを覚える。だからこそ、アニマルライツ(動物の権利)は、ある側面では非常に大切な概念であるし、ある側面では非常に馬鹿げたモノであると言えるだろう。

少し話を戻して、鯨を食べることについて、もう少しだけ意見を述べていきたい。欧米では、牛、豚、羊等、様々な肉を食べる。調理法も見事で、素晴らしい食文化を構築している。これは長い歴史の中で洗練された結果であろう。例えばフレンチレストランでは、はらわたや贓物を丁寧に煮込んで、臭みを取り除き、素晴らしい料理に変身させている。スペイン料理では、イベリコ豚の生ハムを提供される機会があるだろう。豚にどんぐりを食べさせ、味に深みを与えることを考えたことは尊敬に値する。

でも日本では長い間、牛や豚などの獣肉を食べなかった。だから昔の日本人は欧米人のそうした文化について、野蛮だといった。人は自分の知らない文化に直面すると、慌てたり、理解できなかったりする。でも今や僕達の食卓には、当たり前のように牛肉や豚肉が並んでいる。これは日本人が欧米文化を理解した結果ではないだろうか。

なぜ牛や豚はよくて、鯨は食べてはいけないのだろう。牛や豚に比べて、鯨は賢いから食べてはいけないと言われることもある。でも牛も豚も鯨も1つの生命であることに違いはないではないか。人間は罪深い生き物で、何かを食すことで、生命を維持している。菜食主義だから、自分は何も殺していないという人もいるが、草や木にも同じように生命はあるのだ。人間はすべからく、こうした罪を背負いながら生きているのだ。

だからこそ、様々な文化に対し理解し、無用な殺生ではない必要不可欠な食に対しては許容されるべきではないかと思うのだ。もちろん僕のこうした考え方が正しいと言う気もないし、賛成すべきであると言う気もない。ただ本書が動物に対し、人間がどのように向き合っていくべきかを問いかける興味深い書物であることだけは確かだ。

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