日本から米国への留学生が減っている理由
世界的にトップクラスの水準にある米国の大学・大学院には、世界中から留学生が集まってきます。留学生に人気があるのは、ビジネスマネジメント、エンジニアリング、リベラル・アーツ、コンピューターサイエンス分野の学部です(図-9の左側)。NGO、NPO的なソーシャルサイエンスという学問も、最近では注目されています。

図-10、左側のグラフは、米国への国・地域別留学生の推移を表しています。
かつては日本がトップだったのですが、2000年になる直前に中国に抜かれ、続いてインド、韓国、今では台湾にも抜かれてしまいました。
理由は二つあります。まず一つは、かつての日本から米国への留学は、企業派遣が多かったこと。しかし、多くの会社が企業派遣をやめてしまいました。なぜなら、派遣された社員が戻ってきても、勉強してきた人間を優遇する制度が整っておらず、留学しても昇進、昇級のパターンが変わらないので、嫌になって2年以内に退職してしまう場合が多くあったためです。お金をかけて米国に派遣しても意味がなくなってしまったのです。
もう一つは、今話題になっているTOEFLの試験です。ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)に入学するには、TOEFLで一定のスコアを獲得することが求められます。
TOEICが英会話力やリスニング力をテストするのに対し、TOEFLでは英語力と論理思考をテストします。
日本人は、論理思考と英語の組み合わせが苦手で、TOEICでは高得点が取れても、TOEFLで高いスコアを取ることが非常に難しい。そのため、留学するのに必要な水準をクリアできる人が激減しています。

留学生比率、MIT27.2% vs 東大1.7%
図-10の右側に示したように、米国の主要大学は、留学生比率が非常に高いです。MITの27.2%に対し、東京大学はわずか1.7%です。外国人教員比率も、米国では3割を超えている大学が珍しくありません。世界中から教授を招聘し、また世界中から優秀な学生が集まってくる土壌があるのです。
一方、東京大学の外国人教員比率6%というのは、ほとんどが教養学部の語学の先生です。こういう状況ですから、国際競争力が高まるはずがありませんね。
多額の寄付金により大学の競争力を高める
米国の大学には、功成り名を遂げた卒業生が母校に多額の寄付をする伝統があります。この寄付金を基に、大学基金を設立します。ハーバード大学は、一時4兆円ほどの基金を持っていました。リーマンショックの後にガクッと減って、今はおよそ2兆1000億円です(図-11)。以下、基金の額が大きい順に、エール大学、プリンストン大学、テキサス大学、スタンフォード大学、MITが続きます。
実は、この基金だけで、大学を経営できるのです。基金の年間運用利益が、ハーバードの場合はだいたい年間10%くらいです。リーマンショック前の水準で言えば4000億円。全員の授業料をゼロにしても経営が成り立ちます。
しかし、ハーバードはあえてそうしません。貧乏だけれど傑出した能力を持つ人間は、授業料をただにする 。一方、お金持ちの子女には高額の授業料を払ってもらう。両方を組み合わせて、学生のクオリティを維持しています。さらに、集めたお金の大半を使って世界中から優秀な先生を集めることで、ますます競争力を高めるというやり方をとっています。

(次回へ続く)

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