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人は権力に遊ばれているだけなのかもしれない

人は「権威」や「権力」と呼ばれる類のものと共存している。例えば企業内においては、上司がそれに当たるだろうし、家庭内では妻がそれに当たるかもしれない。誰もが少なからず「権威」や「権力」に服従しているのだ。

映画「es(エス)」では、1971年にアメリカのスタンフォード大学で実際に行なわれたスタンフォード監獄実験を題材にして、人間がいかに「権力」や「権威」というものに支配されるかを教えてくれた。知らない方の為に簡単にストーリーをご紹介しておくと(ウィキペディア参照)

新聞広告によって募集された男達が、ドイツの大学地下に設置された擬似刑務所で、囚人と看守の役を2週間演じ続ける実験が行なわれる。この実験の存在を知った主人公の男は取材と報酬目当てで囚人としてこの実験に参加する。

という内容だ。よりリアルティを出すために、監獄施設において、囚人役は番号で呼ばれたり、問題を起こせば罰を受けたりする。当然罰を与える方も実験に参加しただけの一般市民である。この実験の目的は、普通の人が「権威」や「権力」を付与されると、意識的か否かに関わらず、どこまでその力を使用してしまうのかということを調査することであろう。

映画では実験当初、看守も囚人も遠慮がちに日々を過ごしていたのだか、時間が経つに連れ、看守役の被験者はより看守らしく、囚人役の被験者はより囚人らしい行動をとるようになり、ついには死者を含む多数の死傷者を出すまでに至る。人がいかに「権力」や「権威」と呼ばれるものに支配されやすいかが証明されたと言えるだろう。ちなみに実際のスタンフォード実験では、暴力沙汰が起こり、囚人役の人間が恐怖を感じ、外部の人間に助けをもとめたことから、予定より短い期間で中止され、死者をださずに事なきを得た。

また権力に対する心理学的実験では「アイヒマン実験」が有名であろう。これも戦争時の残虐行為やナチスによるユダヤ人のガス室送りを筆頭に、組織に属する人はその組織の命令とあらば、通常考えられないような残酷なことを行なってしまうということを証明するための実験だ。

僕らの社会は少なからずヒエラルキー制度を採用している。人類は皆平等であるというスタンスを取りながらも、ある一定の組織に属せば、権力を支配する者とされる者に分けられ活動している。これは無意識のうちに「権力」や「権威」といったモノに、人が支配されてしまうということを知っているからこそ出来上がった制度であるかもしれない。なぜなら一定程度の階層社会でなければ、意思決定スピードは失われ、組織全体が危険にさらされてしまうからだ。

つまりこれは人類が生きるために必要不可欠なものであり、祖先から受け継いだ遺伝子なのかもしれない。

チンパンジー社会では、人類よりもさらに厳しい階層社会で生活している。ボス(アルファオス)になると、食べ物、メス猿など全ての必要なものを独占することが出来る。そして、群れのサル達はグルーミング(毛づくろい)や食べ物をアルファオスに献上することで、メス猿とのセックスやさまざまなサービスを受けることが許されるのだ。

しかしながらアルファオスは常にアルファオスでい続けられるわけではない。若く逞しいサル達が虎視眈々とその地位を狙っているからだ。アルファオスはその地位を守るために、自分のライバルになりそうな相手には、敬意を払い、グルーミングを積極的に行なったり、親切にしたりする。こうしなけば、最後に地位を追われるときに殺されてしまうリスクすらあるからだ。ここでも「権力」の取引が巧みに行なわれている。

人間社会もこれと同じであろう。一度企業に属すことになれば、「権力」や「権威」に支配された上司に敬意を払い、いつか訪れる自分の出世をもくろんで、仲間で群れながら、時に愚痴を言い合い、時にクーデターを起こし、その「権力」を相手から奪うのだ。

僕らが権威や権力に弱いことはあらゆる場面で見られる。例えば、医者に掛かるときに、僕らは「診療」というサービスを購入した客であるにも関わらず、愛想笑いを浮かべ、必要以上に相手に敬意を払い、診察終了時には、診察前より疲れがたまっていることもあるかもしれない。

またマスメディアで著名な人が使用している商品だと聞くと、それだけで価値が高いような感覚を覚え、必要以上に高額な商品を購入してしまっていることもあるかもしれない。

こうして考えていくと、僕たちは「権力」とか「権威」といったものに縛られているだけなのかもしれないのだ。きっとなくなるかことはない戦争や民族紛争もそうであろうし、虚無感だけを与えてくれる政治家の派閥闘争、そして教育現場ではいじめの問題など、例示をあげればキリがないほどだ。結局僕たちは「権力」というものに遊ばれているだけなのかもしれない。

参考文献
影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか
画像を見る
服従の心理
利己的なサル、他人を思いやるサル―モラルはなぜ生まれたのか
画像を見る

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