- 2016年11月10日 08:30
【読書感想】同時通訳はやめられない
2/2武田氏の話をまとめると、第2次世界大戦では通訳者(台湾・朝鮮出身者、日系アメリカ・カナダ人も含む)も戦犯として起訴された。信じられないことに死刑になった人もいる。起訴・有罪の理由は、捕虜・現地住民の虐待・拷問・殺傷、通訳しなかった(捕虜の発言を上官に伝えなかった)、虐待や拷問をしていた部署に所属していたなどである。「上官の命令で通訳しただけ」は通じなかったのだ。また、一般に通訳は「黒子」に思われているが、戦争の場では、直接捕虜に接し、上官の「悪魔の言葉」を伝えるため、「可視性」があるのだという。戦争時の通訳は、諜報・情報、プロパガンダ、捕虜の対応、休戦交渉、占領、戦犯裁判などにおいて、きわめて重要な役割を担う。と同時に大きなリスクも負う。複数の言語を解することで、敵からも味方からも信用されず、スパイ、裏切り者の烙印を押されがちである。
ちなみに、ヒトラーの通訳をしていたパウル・シュミットは「自分は、ただ通訳をしていただけ」と主張し、戦犯として起訴されることはなかった。一方、ナチスの親衛隊で、「アウシュビッツの会計係」といわれたオスカー・グレーニング被告(94歳)の裁判が2015年に行なわれたが、「自分は収容者の財産を記録し、没収に関わっただけで、虐殺には直接関与していない。すべて上官の命令に従っただけだ」と主張したが、有罪となった。
日本のB・C級戦犯の裁判は、海外の旧植民地(45か所)で行なわれ、5700件中4403人が有罪となった。そのうち、台湾人は190人で全体の4.3%にあたる。これに朝鮮半島出身者148人が続く。台湾は戦後主権を回復しているので、台湾人は理論的にも法的にも「日本人」ではないにもかかわらず、戦犯として裁かれた。さらに190人中21人が死刑、うち11人は通訳者だった。多くは暴力行為に直接関与したというより、捕虜への尋問に関わっていたにすぎない。インド洋のカーニコバル島のような遠い南洋の島でも、戦後戻ってきたイギリスによって、台湾人通訳者が1人処刑された。
なんで通訳がそんな目に……と、これを読むと思うのです。
戦時下では、「良心に従って、酷い命令は通訳しない」なんていうのは無理でしょうし。
でも、現実問題として、「通訳」というのは、言葉が通じない現場の人々の矢面に立つ存在であることも確かなんですよね。
サッカー男子日本代表のトルシエ監督の通訳だったフローラン・ダバディさんの大きなアクションは、トルシエ監督が乗り移ったかのようでした。
「通訳していただけ」という理屈はわかっていても、目の前で自分たちに具体的な指示を口にしていた人に「責任はない」と割り切れるかどうかは、なかなか難しい問題ですよね。
スポーツの通訳ならまだしも、戦争で多くの人が、その口から出された命令で犠牲になっていたとすればなおさら……
通訳というのは、ものすごくハードで、デリケートな仕事なんだなあ、と思い知らされます。
有名人に会えたり、収入が高かったりしても、ずっと続けていくのは、かなり消耗しそう。
国際シンポジウムなどに出席していると、日本語にしてもらっても、わからない話は、やっぱりわからないな、なんて落ちこむことも多いのですけど。



