- 2016年11月09日 09:00
議事録で判明!豊洲「盛り土」が「空間」に化けた理由
1/2ジャーナリスト 藤野光太郎=取材・文
「いつ、誰が?」の奥に「ナゼ?」がある
東京都が豊洲問題の自己検証報告書・第2弾をまとめ、11月1日の記者会見で小池都知事がこれを公表した。今回は1回目のような単なる事情聴取ではなく、行政監察に基づく内部聴聞である。
同報告書が明らかにしたのは、「盛り土ではなく地下空間を設ける方針決定の場は2011年8月18日の部課長会議」「決定責任者は当時の部長ら8人」「地下空間の設置を最初に提案したのも当時の部長である可能性あり」といった新事実だ。
都が特定した責任者は、当時の市場長を務めた岡田至東京都歴史文化財団副理事長と後任市場長の中西充副知事、宮良眞新市場整備部長、管理部長だった塩見清仁オリ・パラ準備局長、土木部門担当部長2名(前任と後任)、建築部門担当部長2名(同)の計8名である。
会見で小池都知事は、退職者も含めた当該幹部らへの懲戒処分等を予告し、今後も追及の余地があることを匂わせた。
前回(http://president.jp/articles/-/20464)の記事前半で、「汚染対策に伴う変更がなぜ隠蔽されたのかが、いまひとつ腑に落ちない」「犯人探しに振り回される一方で、この奇妙な隠蔽劇の理由と背景はいまだに不明」と指摘した。「いつ、誰が?」の奥に「ナゼ?」があるからだ。
実際、今回の報告書で都の責任者が具体的に名指しで断定されはしたものの、盛り土をやめて、それを隠蔽することになった理由と背景については、いまだに明確には理解されていない。会見の翌日からNHKもやっと「なぜ盛り土を行わなかったのかという動機の解明に至らなかった」(11月2日)と報じ始めているくらいだ。
本連載の目的は、当初からまさしくその理由と背景の解明である。
1日の記者会見における質疑は、処分対象者とその内容に関するものが大半だった。「ナゼ」についての質問は一度だけである。どうやら会場にいた殆どの記者は、小池都知事が説明で触れた重要な言葉を聞き流してしまったようだ。
小池都知事は説明の中で大要、次のように述べているのである。注意したい言葉を拾い出して繋いだものを、便宜上「A」と「B」の2つに分けておく。
A.「土対法に対する対策として」「最初は盛り土を全面的にすると言っていた」「次に、同じ土対法で」「モニタリングを設けていた方がいいのではないかとだんだんシフトし」「地下空間にするかどうかは」「建築や土木といった技術系がリードする形で進めていった」
B.「そして、今後どうするのか」「まず、この地下空間の問題について、なぜそういう事態が起こったのか。この都庁のガバナンスの問題、マネジメントの問題ということを」「解き明かしていくことが今後の東京大改革と私は標榜しております」「地下水のモニタリング、来年の1月の半ばにはその結果が出てくる」「大気で、水銀が出てきた」「こういった環境面での安全性の確認、食の安全性、水の安全性の確認ということは引き続き行っていく」「安全性の確認は市場のプロジェクトチームが進める」「一方で」「平田先生を座長とする専門家会議の声、分析、評価を確認しながら」「5W1Hではないですけれども、その点についてはかなり絞り込みができた、特定ができた」「ロードマップ」「は、近々ご報告、そしてお伝えしておきたい」
Aのキーワードは、「土対法」「最初は」「次に」である。これは「盛り土と地下空間のミステリー」の《回答》そのものだ。
同じくBは、「ガバナンス」「東京大改革」「専門家会議」「5W1H」「ロードマップ」である。ここには、小池都政がどこまで都民と共に歩み続けられるかの《岐路》が隠されている。
繰り返しになるが、本稿の目的はAが物語る“地下空洞”の謎解きだ。
「豊洲が汚染地域に指定されるかも」という懸念
豊洲新市場の予定地は、周知のように東京ガスのガス製造工場跡地を東京都が買い取ったものである。ガス製造工程では、ベンゼン、シアン化合物、ヒ素、水銀、六価クロム、カドミウム、鉛など人体に有害な物質7種が生成され、土壌や地下水が汚染される。
土壌汚染地は全国に数多あり、その跡地は様々な用途に転用されているが、巨大消費者を擁する東京ガスの工場跡地として国内最大級の汚染土壌とされる豊洲に「食の卸売市場」を移そうとした都の判断が問われている。
豊洲新市場の建物下に怪しく広がる“地下空洞”が見つかった直後、筆者は開示された議事録の内容確認から取材を始めた。その内容の詳細と経緯を知らねば何も始まらないからである。
まずは、盛り土を提言した専門家会議(正式名称は「豊洲市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」)の1年間にわたるやりとりだ。便宜上、小池都政で新たに設置された専門家会議と区別するため、当時の会議を旧専門家会議、現在の会議を新専門家会議と呼称する(いずれも平田健正座長)。
旧専門家会議は、有害物質や水質、土質、環境保健の分野から各1名、計4名の学識経験者で構成され、豊洲における食の安全・安心を確保するための土壌汚染対策を提言するために設けられた。同会議は、2007年5月19日から翌08年7月26日まで開かれ、結論として「豊洲新市場の敷地全体に4.5mの盛り土をする」ことを東京都に提言する。石原慎太郎都知事・比留間英人市場長の時代である。
9回にわたって開かれた旧専門家会議の議事録を読むと、全体を通して通奏低音のように東京都の担当者と専門委員との間で意識されていることがあった。専門委員や都の担当者らのやりとりに数回出てきた「土壌汚染対策法(土対法)」である。
同法は、有害物質を残すそうした工場が移転後、重金属類や揮発性有機化合物などによる土壌汚染や地下水汚染が跡地再開発で問題になるため、その対策として整備された環境省所管の法律で、2002年5月に制定・公布され、翌03年2月15日に施行された。
旧専門家会議で強く意識されていたのは、その土対法と、同時期に環境省で審議されていた同法の改正(2008年5月参院通過、09年4月公布、10年4月施行)にまつわる、関係者たちの「心配事」である。
「心配事」とは、端的にいうと、ユルユルの法律(詳細は後述)である土対法の改正によって、豊洲予定地が汚染地域に指定されるかもしれない、という懸念である。議事録には、そうした類の発言が散見される。
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