- 2016年11月08日 12:50
新元素「ニホニウム」を発見した 理化学研究所──科学者が語る"研究を成功させるチームの条件"とは?
2/2森本:113番元素の発見を目指すプロジェクトが始まったのは2003年ですが、その前段階として長い研究の歴史があるんです。
元をたどると、まず1985年に、重い元素を作る実験をしようということで、森田先生がGARISを造りました。その後、本格的に新しい元素を合成しようとなったのが2001年。ただ、いきなり113番を作ろうといってもそれは無理です。そこで当時すでに発見されていた108番から112番を合成する実験を再現することから始めて装置の条件などを1つひとつ突き詰めていって、いよいよ113番を作ろう、となったわけです。
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1985年とは、31年前から取り組まれていたということですね。森本先生、羽場先生、加治先生の中でも、役割分担はあるんですか?
森本:あるようでないですね(笑)。もちろん、羽場さんは亜鉛からイオンを取り出しやすくする試料を準備する、といったように、それぞれ担当していたことはありますが。
「待ち」の間のモチベーション維持はどうする?
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新元素発見の研究は、年単位の研究になることが分かりました。「待ち」の時間が長くて、結果はすぐには出ない。その間、モチベーションの維持が大変ではないかと思うのですが。
森本:いやいや、ただ実験の結果を何もせずに待っているわけではないですから(笑)。例えばその間に、加治さんは119番以降の新元素発見を目指すためにGARIS-Ⅱの設計開発にあたるなど、実験をやりながら次の準備をしているんです。今使っている装置の改良もありますし。また、各自、113番発見以外の実験もしていますしね。
加治:あまり「待っている」という感覚はありませんでしたね。
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それでも延べ575日実験して、113番元素は3つしか見つからないわけですよね? 最初の113番元素が見つかるまでにも79日かかっていますし。その間、「ダメなんじゃないか?」みたいにはならないんですか?
森本:確かに1個めが出てくるまでは、「本当に来るのかな?」という思いはあったかもしれません。標的に当てるビームの速度や分離装置の設定はこれで合っているのか? とか。でも、1個出てくれば、1個めの条件を忠実に再現すれば必ず来る。みんな不安はなかったと思いますね。
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そうした条件は誰が決めるのですか?
森本:それはグループで話し合ってですね。すでに108番から112番の元素の合成には成功していましたから、みんななんとなく「こういう条件だろう」とわかっているんです。
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なかなか結果が出ないと「条件を変えてみようか?」とはならないんですか?
森本:条件は絶対に変えちゃダメなんです。今回は約600日実験を行って3個の113番元素が出たわけですが、最初から200日に1個の確率で出るなんてわからないんです。200の出目があってその中に当たりが1つだけあるサイコロをコロコロ転がすようなものですが、100日、200日やって来なかった時、「サイコロがおかしいんじゃないか?」と思って替えたら、目がないサイコロを振り続けることになるかもしれない。当たりがあるサイコロだと思ったら、もう1回当たりが出るまで振り続けるしかないんです。
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先ほど「役割分担はあまりない」とのことでしたが、日の当たる仕事、日の当たらない仕事というのはやはりあるかと思います。そういう時に「自分はこんな仕事はやりたいくない!」みたいになることはないんですか?
森本:裏方的な仕事はもちろんありますよ。例えばビスマスの標的は、薄いカーボンの膜にビスマスを載せてセットするんですが、それも自前で作り、週に一度は交換するんです。そういう地道な作業もシフトを組んで行うのですが、誰1人「こんな仕事はしたくない!」なんていう人はいません。
加治:どの仕事も、それがないと実験が成り立たない大事な仕事ですからね。
森田先生のリーダーシップで風通しの良いチームを作れた
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先生方のモチベーションの源はどこにあるのでしょう?
加治:もちろん「新しい元素を見つけたい」というのが一番大きいです。それに向かって、加速器側のメンバーも頑張って、亜鉛ビームをたくさん出せるよう工夫してくるんですね。そうなると、「これだけ加速器側のメンバーが頑張ってくれているんだから我々も頑張らないと」となる。こうしたことでもモチベーションを掻き立てられます。
森本:「受けきれないからビームをちょっと弱めてください」なんて言ったら、実験側の負けを認めることになりますから(笑)
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チーム内で、実験のやり方などについて対立することなどはないのでしょうか?
羽場:それはないですね。「これは違うんじゃないか?」と思ったら、当然、意見を言います。そのあたりは、50人近いメンバーをまとめ上げ、風通しの良いチームを作った森田先生のリーダーシップのおかげだと思います。
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企業などでは「本当はこちらが正しいと思うけど、相手のほうが役職が上だから言えない」みたいなことも起こりがちですが、チーム内でそういうことは起こらないんでしょうか?
羽場:科学の世界では、意見がきちんと科学技術的な根拠やデータに基いていて、リーズナブルなものであれば、どんな立場の人が言うことであっても受け入れられます。最終的に目指すゴールは1つですから、明らかに間違った方向に進んでいると思う時は、チームの誰もがしっかり自分の考えを言いますね。
113番元素はどのようなチームだったから発見できた?
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研究チームを作る時に重要なことはどんなことだと思いますか? もっと言うと、どのようなチームだったから113番元素の発見という大きな仕事ができたと感じていますか?
森本:チームのメンバーは、たくさんいるわけではありません。メンバーになり得るのは、それぞれが独立した研究者としてしっかりした実力を持っている人です。そうした人たちにきちんと力を発揮してもらえるよう、ある程度各々が自由にやりたいことができる環境を用意しなくてはならないし、一方で、その人たちの能力がチームとしての目標にうまく組み合わさっていけるような状況も作らなくてはならない。この両方ができていれば良いチームになるのだと思います。
羽場:今回の113番元素発見の研究は13年かけてやりましたが、我々はこの研究だけをやっているのではありません。これ以外にも、重い元素の性質を総合的に理解したいという思いがあり、各自がそれぞれ面白いテーマを設定して研究をし、論文を書いて評価されている。それぞれのやりたいことを伸ばしていける環境を作れたのがよかったのではないかと思いますね。「この研究だけに専念しなさい」と言われたら、ついてこなくなる人も出ていたでしょう。
加治:お二人がおっしゃったとおり、「やりたいことをやらせてくれる」ことが一番重要だと思いますね。それと風通しが良いチームで、自分が考えたことに対して親身に相談に乗ってくれるメンバーがいることも大切です。
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そのようなチームだったからこそ、113番元素の発見という大きな成果をあげることができたわけですね。今後、チームにメンバーとして迎え入れるとしたら、どのような人に来てほしいですか? もちろん研究者としての実力を備えていることは大前提ですが。
森本:自分で「これがやりたい」という興味の対象を持っていて、それをしっかりと追求していける人。その上でグループの目標に貢献してくれる人ですね。
羽場:我々が研究している新元素は、まだ何の役に立つか全くわからないものです。しかし理研には、そのような基礎研究を存分にやらせてくれる環境があるし、加速器や分離器をはじめ、施設や設備にも恵まれています。そういうものを使って、純粋な科学的興味を、目を輝かせながら探求したい人に来てほしいです。
加治:目の前で起こっている現象に対して素直に向き合い、そこで何が起きているかについて疑問を持てる人ですね。また、新元素の研究では、事象自体が起こることが稀なので、数少ないチャンスをどのように捉えるかを考える事が大事になってきます。そのために、既存のものを組み合わせてでもいいから、いろんなアプローチを考えられる人がメンバーにいると心強いです。
これからも未報告の新元素の発見を進めていく
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最後に、今後の目標について聞かせてください。
森本:119番、120番と、まだ未報告の新元素の発見を、どんどん進めていきたいですね。また全てが新たな挑戦となり、世界的な競争も激しいですが、自信はあります。核図表を埋めていくことで見えてくる新しい世界があるはず。そう信じています。
(執筆:荒濱一/撮影:尾木司)
- ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
- 日本のチームワーク力の向上を目指す。



