- 2016年11月08日 12:50
新元素「ニホニウム」を発見した 理化学研究所──科学者が語る"研究を成功させるチームの条件"とは?
1/2「水兵リーベ、僕の船…」とブツブツ呟きながら必死で覚えた思い出のある人も多いのではないでしょうか? そう、中学高校の理科の教科書に必ず載っていた元素の周期表です。この元素周期表に、日本人が発見した新たな元素が記載されることになりました。元素番号113番。その名も「ニホニウム」です(正式な確定は2016年11月8日以降)。新元素の発見は、日本初のみならずアジア初となります。
この歴史的な快挙を成し遂げたのが、特定国立研究開発法人 理化学研究所 仁科加速器研究センターの森田浩介グループディレクターが率いるチーム。実は新元素発見に至るまでには、長い長い研究の道のりと、気が遠くなるほどわずかな確率の実験の繰り返しがあったのです。
新元素発見までにどのような苦労があり、森田さん率いるチームの面々は、何をモチベーションにその苦労を乗り切ったのか? また、こうした研究を成功させるのに必要なチームの条件とは? 森田グループの中心メンバーとして新元素発見に挑んだ森本幸司さん(写真中央)、羽場宏光さん(写真左)、加治大哉さん(写真右)の3人にお話を訊きました。
新元素は人工的に作られたもの
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まず、とてもシロウト的かつ不躾な質問で恐縮ですが、そもそも新しい元素を見つけることが、なぜ大事なのかを教えていただけますでしょうか?
森本:ははは。そこからですね。元素はモノの根元なので、それがどういうものからできているのか、どういうものがあるのか、を研究することは研究対象としての"自然"を理解する上で、一番基本的なことです。今回発見した113番元素の寿命はわずか0.002秒と極めて短いので、現時点では人間の生活に直接関わることはありません。しかし、それは別として、まずはどんな元素が自然界にあるかを知ることは、純粋に興味深く、また未来の科学の発展のためにも意義のあることなのです。
リンク先を見る仁科加速器研究センター 超重元素研究グループ 超重元素分析装置開発チーム チームリーダー 森本 幸司さん
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自然元素は元素番号92番のウランまでで、93番以降の元素は全て人工的に作られたものだと聞いています。それが何番まであるかはわかっているのですか?
森本:理論的には「何番まであるだろう」という予想は存在しますが、それは1つひとつ実験して確認しないと、本当にあるかないかはわかりません。
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人工的に作られたものなのに「発見」なのでしょうか? 自然界のどこかにはあるということなのですか?
森本:113番元素のように重たい元素は、寿命が極めて短いので地球上には存在しません。宇宙のどこかの、元素が作られている現場で、一瞬存在することはあるかもしれないですね。
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ニホニウムは「一瞬」の寿命の元素なんですね。
400兆回の衝突でできたのはたったの3個
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113番元素はどのように発見されたのですか?
羽場:元素の種類は原子核の中の陽子の数で決まるので、天然の元素の原子核同士を融合させればより重い元素ができます。113番は、元素番号30番の亜鉛の原子核を、83番のビスマスの原子核にぶつけて融合させる方法で発見しました。2003年9月から実験を開始。1秒間に2.4兆個の亜鉛ビームをビスマスに24時間、79日の間当て続け、ようやく2004年7月23日に最初の113番元素合成に至ったのです。
画像を見る仁科加速器研究センター 応用研究開発室 RI応用チーム チームリーダー 羽場 宏光さん
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80日間、待ったのですか?
羽場:ええ。その後も実験を行い、2005年に2個め、2012年に3個めの合成に成功。最終的には延べ575日で3つの113番元素の原子核を発見しました。衝突の回数は全部で400兆回にのぼります。
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575日、24時間、毎秒2.4兆個の亜鉛ビームをビスマスに当て続け、できたものは、たったの3個なんですか?
加治:原子核は大きさが1兆分の1cmとあまりにも小さく、ほとんど衝突しないんですよ。たとえ衝突しても融合する確率は極めてわずかですし。1兆分の1cmの的を狙うのは不可能だから、とにかく大量の亜鉛ビームをビスマスに当て続けるわけです。
画像を見る仁科加速器研究センター 超重元素研究グループ 超重元素分析装置開発チーム 仁科センター研究員 加治 大哉さん
森本:1つの元素の大きさが野球場くらいだとすると、原子核の大きさは100円玉くらい。本当にスカスカの世界です。野球場の中にある100円玉にもう1つの100円玉を投げてくっつけようとする作業なので。それはまあ、そもそもなかなか当たらないですよね(笑)
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「113番元素ができた」というのは、何をもってわかるのですか?
森本:検出器内に運ばれてきた新元素の陽子が113個あれば、できたことを証明できるのですが、とても数えられません。そこで新元素がα崩壊を起こすこと、つまり「元素が壊れていくこと」を利用して証明しました。
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元素は壊れていくんですね。
森本:はい。113番元素の場合、検出器の中で、極めて短時間に4回のα崩壊を起こしているのを検出できました。
つまり、113→111→109→107→105という順番で崩壊していったわけで、これにより113番元素ができたことを証明したのです。
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なるほど、そうやって証明するんですね。
新元素発見は国の科学技術力が世界最高レベルであることを示す
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113番元素を発見する上では、装置の開発も重要だったと思うのですが?
森本:もちろんです。高性能の装置がないと絶対に見つけられない。装置の技術がカギを握ります。この実験では、線型加速器RILAC(ライラック)で1秒間に2.4兆個もの亜鉛原子を光速の10%にまで加速し、ビスマスの標的に照射。気体充填型反跳分離器GARIS(ガリス)を用いて、113番元素を計測上妨害となる粒子から可能な限り選り分け、検出しました。
順に言うと、
・亜鉛のイオンを取り出す技術
・それを高速で加速し、亜鉛ビームを安定して照射する技術
・標的にたくさんの亜鉛ビームを当て続ける技術
・できたものを選り分ける分離装置の技術
・分離したものを検出する技術
・検出したものを電気信号処理して解析する技術…、と
必要な技術は幅広く、それぞれの装置が世界トップクラスでないと実験を成功させることはできません。
これらの装置は全て研究者が自ら設計。製造も国内メーカーが行いました。
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まさに「純国産」ですね。
羽場:ええ。最近の新元素の発見は、まさに発見した国の科学技術力が世界最高レベルであることを示します。こうした研究は、立派な加速器や分離器があってこそできるものですから。新元素発見は、冷戦時代にアメリカとソ連が国の威信を賭けて競争し先行し、その後、ドイツのグループが107番から112番までを連続して発見しました。
113番は、そのドイツと日本が競い合って、日本が勝利したわけです。その後、アメリカとロシアが手を結んで、114番以降118番までを次々と発見したと報告しているのですが。いずれにせよ、113番の発見により日本の科学技術力の高さを示すことができたのではないかと思います。
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新元素の発見にはそうした側面もあるのですね。
加速器グループと実験グループが協力しあって研究
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今回の新元素発見の研究は、どのようなチーム体制で行われたのですか?
森本:まずは大きく、加速器を開発してビームを出す側のグループと、そこから出てきたものを分離・検出し実験するグループに分かれます。我々は後者のグループ。森田浩介先生がグループリーダーです。今回の研究は、加速器グループと我々実験グループが協力しあって成功させたものです。
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全体で何人くらいのメンバーが関わったのですか?
羽場:実験グループについては、2003年に実験を始めてから13年の間にいろいろなメンバーが出たり入ったりしていて、全員で48人となります。森田先生がグループリーダーとしてチームを牽引し、私たち3人の他に所内外の研究者、大学の先生や学生さんに協力いただきましたから、かなりの人数にのぼりますね。
研究成果が出ると、論文を書いて実験グループで責任を持って発表します。だから新元素の命名権は我々実験グループに与えられています。
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そういうふうに決まっているんですね。
- ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
- 日本のチームワーク力の向上を目指す。



