- 2016年11月08日 08:30
【読書感想】期待はずれのドラフト1位――逆境からのそれぞれのリベンジ
2/2「仰木さんから学んだことはたくさんありますが、一番大きかったのは何かが起こったあとの対応の仕方でした。内野手のエラーやピッチャーの継投によってピンチになることがあります。いくらプロ野球選手でもミスをするもの。そんなとき、だいたいの監督は「なにやってんだ!」と激怒します。そして、グラウンドにいる選手もベンチも、思考停止状態になるのです。コーチもみんな、指揮官の怒りが収まるのを待つ。すべてが止まってしまうから、次の一手が遅れてしまうのです」
しかし、名将と呼ばれる仰木監督はそうではありませんでした。
「ことが起こった瞬間に、すぐに手を打ちます。相手よりも先に指示を出して、選手たちを動かしていました。一呼吸置いてから、ひとりで怒る(笑)。仰木さんは反応ではなく、対応をしていました」
仰木さんは感情をいったん脇に置いて、次の一手を考える。どんなに優れた指揮官でも大きなミスが出たときにはなかなか冷静でいることはできません。だから、多くの監督がベンチで叫んだり、椅子を蹴りあげたりするのでしょう。
「監督が怒ると選手は畏縮します。仰木さんは怒っていることを悟られないように、知らん顔をしていました。だから、選手はベンチに気をとられることなく、プレイに集中できました。仰木さんを見てから私は、想定外のミスが起こったときには『対応しよう』といつも心がけています」
これって、簡単なことなんだけれど、実際にその状況になって、「反応」よりも「対応」を先にできる人って、ほとんどいないんですよね。
そして、リーダーの「機嫌」に、みんなが引きずられることになる。
この話を知っても、仰木さんのように振る舞うのは難しいと思います。
でも、知らないよりは、知っていたほうがいいし、少しでも意識することによって、状況をマシにすることは可能なはず。
仰木さんだって、後でひとりで怒っているということは、怒っていないわけではなくて、自分のその場の感情を押し殺して、「対応」を優先しているのだから。
プロ野球のように、自分で考え、練習して「個人の力」を発揮することが求められる世界では、指導する側だけの責任ではないのです。
中根仁さんは、東北高校の後輩だった佐々木主浩さんのことをこう評しています。
「佐々木は自分が師匠と認めた人の意見しか聞きません。相手が先輩でもコーチでも、「聞き流す力」がありました。野球に関してはものすごく頑固。彼の場合はそれがよかったのでしょうね」また、中根さんはスカウト、コーチとしての経験から、こんな話をされています。
中根さんは引退後、横浜でスカウト、コーチを務めました。コーチになってから、その選手の考え方が成長に大きな影響を及ぼすことを痛感しました。いくら能力があっても、考え方の悪い選手は途中で伸びなくなってしまうのです。
「最初にいくらいい成績を残しても、頭が固くて意見を聞かない選手はそれなりのところで止まってしまいます。自分で思っている通りにやれないのに、現状を変えることもできない。これが数年続くとトレードに出されたり、ユニフォームを脱ぐことになったりします。アドバイスを聞かないから、周囲から人が消え、チームで孤立することになります。やっぱり大切なのは頭の柔軟さです」
意見を聞いても、それを取り入れるかどうかはその選手の自由ですが、新しいことを受け入れることで客観的に状況を見ることができるはず。しかし、うまくいかない選手は情報を遮断し、自分だけで考え、落ち込み、せっっかくの長所までなくしてしまうのです。
一方で、人の意見を聞きすぎる選手もいます。Aコーチに言われたことを試し、同時にBコーチにアドバイスを求める。そのうちに、投げ方や打ち方を忘れる人もいるのです。
「あまりにも自分の考えがなさすぎるのも問題です。ちょっと試しては元に戻し、また別のことに手を出してしまう。1ヵ月ごとにバッティングフォームが変わる選手もいました。不安だから誰かにすがるのでしょうが、それでうまくいった人は見たことがありません。自分の真ん中にしっかりとした芯がないと、おかしな方向に行ってしまいますね」
どちらのタイプの人も、心当たりがあるなあ。
僕はどちらかというと、前者の「情報を遮断してしまう」方向に行きがちなのです。身につまされます。
人の意見に耳を傾けないと伸びないけれど、振り回されすぎてもいけない。
どっちなんだよ!って言いたくもなりますが、結局「本人のバランス感覚と指導者との縁」なのでしょうね。
自分は「ドラフト1位」なんて縁がない人生だけど、という人にこそ、「沁みる」一冊だと思います。
他人の評価はともかく、自分にとっての「ドラフト1位」は、自分自身なのだから。



