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人としての尊厳を保つためには、必要なのは財源であるという事実。「痛み苦しんで死にたくない」という感情論と現実論の、どちらでもない最適解とは? - やまもといちろう

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お金持ちと貧乏な人とでは
病気になったときの救われ方に大きな差が出る。
人工透析のような高コストな治療はいずれ
「自己負担増も仕方なし」という流れに

しかしながら、それ以上に問題となるのは治療や薬の保険収載です。保険収載とは、保険適用されることを目的に薬が薬価基準に収載されることを指しますが、先進医療・治療は特に医療機関にとって保険での治療となる場合は自費よりも医療費が安く抑えられる結果、「保険収載されたら赤字」という逆ザヤを産んでしまうことになります。

高額の医療機械を入れて自費治療で稼ごうと思った医療機関が、その医療機器分の利益を上げる前に先進医療が準一般化してしまい保険収載されて自費治療よりも単価を大きく抑えられ涙目、みたいなことは往々にしてあるわけです。

難病に長年苦しんでおられて、ようやく先進医療の発達で光が見えてきた患者さんがたや、国民にとって良かれと思って保険収載にまでコマを進めてきた当局とは裏腹に、海外での治療実績を引っ提げて高額の自費医療で稼ごうと思っていた真面目な医療機関からすると「やってられん」となってしまいます。この辺は、まあしょうがないんですけどね。

突き詰めると、人間誰しも病気になる、それは間違いない。でも、その病気になったときの救われ方は制度によって病気ごとにかなり異なるのであって、蓄えたお金で対応しようにも金持ちと貧乏でまた差が大きいとなれば、いろいろ差し障りはありましょう。

そこへ、この「治療や薬の保険収載」の問題が効いてきます。際どい言い方をするならば、高額の医療費が必要な特定の疾病の方々は、その費用を払えなければ死を余儀なくされます。完全に健康保険での助成が打ち切られることはないまでも、応分の負担をと言われたときに負担できない患者さんやご家族は「制度に見捨てられた」と思うかもしれません。

しかも、以前に本稿「“人工透析患者を殺せ”論は想像力の欠如に他ならない。健康保険制度を不公平感なく持続可能なものにするためには!?」でも解説しました通り、人工透析のような慢性疾患で治療自体が高コストな治療については、いずれいくらかの自己負担増は仕方のないものという流れになっていくでしょう。

しかしながら、これが欧米のように「一定の年齢以上で助成を切る」「自費で払えない人はペインクリニックへ」と言われても、人工透析が必要な患者さんは痛みをコントロールするまでもなく多臓器不全など別の症状を起こして死んでしまいます。実質的に尊厳死政策をとるようなものなので、やはり何らかの受け皿を用意しないまま自己負担を引き上げていくような「撤退戦」には望ましくない不幸な実例がたくさん積み上がることになるのです。

「どう死ぬか」「その死をどう受け止めるか」と
今こそ哲学的に考えなければならない。
それは社会保障全体の議論として避けてきたツケ

今後は、治療や医薬品に対する”費用対効果”で保険適用が打ち切りになるケースはどうしても出てくるわけですが、治療“実績”という意味では常にゼロとなるペインコントロールの治療や薬をどのように処遇するべきかという議論は、日本のみならず海外でも大きな議論を呼ぶ問題です。

また、日本では特に癌性疼痛と非癌性疼痛では助成に幅があり、長期の疼痛との闘いになる関節痛やリウマチその他非癌性疼痛は患者にかなりの我慢を強いるものとなります。 もちろん、早くお迎えが来れば楽ですから助成しましょうというわけではなく、ADLが下がり本人の力ではどうしようもない状態であるにもかかわらず痛みに耐えて日々を過ごさなければならない高齢者に対して、もう少ししてやれることはないのか、と思い悩むのです。

それもこれも「金の問題であるから、社会が衰退局面であり財源が足りないので仕方がないのだ」と言われればそれまでなのですが、せっかく経済大国である日本に生まれて、その人生の最期を痛みと苦しみの淵で悶えるような社会であってほしいか、と言われるとやはり悩みます。終末医療と言われると、胃ろうも含めたチューブだらけの寝たきりを想像することも多いかもしれませんが、それ以上に、かなり根源的なところで「人としての尊厳」を改めて問われるような気がしてならないのです。

突き詰めれば、社会として、また患者さん本人ないしご家族として、「人がどう死ぬか」とか「死をどのように受け止めるのか」などの哲学の問題と向き合うことが求められます。それはいままで、社会保障全体として議論そのものを避けてきたことのひとつです。

健康だったころのように自由に動けなくなったとき、また、自分自身なりの考えがもてなくなったとき、考えを他人に上手く伝えることができないとき…老いと病、あるいは避けられない運命に直面して、何をぬくもりとし、誰に支えられて最期を迎えるべきなのか、考えを整理しておかなければならないのでしょう。

私個人としてはこの辺のことを考え出すと悩みが深すぎて「死ぬときぐらい、安心して死なせてくれや…」と言いたいところはたくさんあるのですが。

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