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19歳が開発した「スマートガン」の可能性

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By GEOFFREY A. FOWLER

 サンフランシスコで開かれるテクノロジー業界の会合では通常、銃を見ることはない。そもそもこの町では、2015年を最後に銃器店が姿を消した。だが2月のある晴れた朝にパレスホテルで行われた会合は違った。エンジニア、ベテラン警察官、IT企業投資家、銃整備士という珍しい組み合わせの参加者が集まり、その一部(ほとんどが警察官)は人目につく形で銃を携行していたのだ。

 筆者も参加した同会合は「スマートガン」に関する国際シンポジウムだ。オバマ米大統領は今年1月、銃の事故に関する統計を挙げ、「携帯電話は正しい指紋でなければロック解除できないのなら、銃にも同じことができるのではないか」と問いかけていた。シンポジウムの共同スポンサー、ロン・コンウェイ氏が待ち構えていた質問だ。

銃の世界のザッカーバーグ

 コンウェイ氏は、初期のグーグル、フェイスブック、エアビーアンドビー(Airbnb)を支援したことで知られるテクノロジー業界有数の影響力を持つエンジェル投資家。同氏の「スマートテック・チャレンジズ財団」は、銃器の安全技術開発を促す資金として150万ドルを支出している。

 コンウェイ氏はシンポジウムで、解決策があると宣言。近くに座っていたカイ・クラファー氏(当時18歳)を、「銃の世界のマーク・ザッカーバーグだ」と紹介した。クラファー氏が住むコロラド州は、人口に比べて不釣り合いに銃乱射事件が多い。

 クラファー氏は過去4年を費やし、グリップ部分に指紋センサーを埋め込んだ拳銃を設計した。2014年にスマートテック・チャレンジズからの支援金を勝ち取ったため、マサチューセッツ工科大学(MIT)への入学を延期している。同氏が立ち上げた新興企業「バイオファイア」は、実射できる試作品を数カ月前に製作したばかりだ。うまく動けば、「iPhone(アイフォーン)」のようなロック解除機能を持つ最初の銃になる。

クラファー氏が開発した銃は事前登録した指紋でしかロック解除できない
クラファー氏が開発した銃は事前登録した指紋でしかロック解除できない
Photo: Matt Nager for The Wall Street Journal


 コンウェイ氏は「銃業界には革新する気がないらしい」ことにいらだっていたと話し、「銃会社にやる気がないのなら、私のところにその意欲と能力のある若いイノベーターがいる」としている。同氏の財団は銃の安全技術を扱うイノベーター15人を支援してきた。このうちクラファー氏は若さという点で際立っている。

 これまでもコンウェイ氏はテクノロジー業界で若い才能を見いだしてきた。「ショーン・ファニングとショーン・パーカーが19歳だった時にナップスターに投資した」ほか、「19歳だったマーク・ザッカーバーグと一緒に働いた。こうした創業者にはオーラがあり、カイには完全にそれがある」という。

 コンウェイ氏が指摘する通り、銃業界にスマートガンへの情熱は見られない。全米ライフル協会(NRA)は公式には反対していないが、この協会を推進派と呼ぶのは言いすぎだろう。NRAの広報担当者はこう述べている。「NRAは銃器の新技術の発展に反対しないが、高価で信用できない機能を政府が義務付けることには反対する。例えば、発砲前にグリップがユーザーの指紋を読み取る機能だ」

バイオファイア社の銃の試作品を構成する部品
バイオファイア社の銃の試作品を構成する部品
Photo: Matt Nager for The Wall Street Journal


 銃メーカーの団体である全米射撃協会(NSSF)の顧問ラリー・キーン氏は、スマートガンの運命は市場が決めるべきだと考えている。だが、「既存の技術と同程度に信頼できるスマートガンを作る際の技術的課題は誰も克服していない」とみており、アイフォーンと違って拳銃は、「自己防衛のために使おうとしてそれ(指紋センサー)が動かなかったら、不便ではすまない。死んでしまう」と述べた。

 スマートガン技術の現状に関するキーン氏の見方には反論しがたい。コルトが1999年に製作した試作品「Z40」は、無線周波を出すリストバンドをした者だけがロックを解除し発砲できる拳銃のはずだった。だが同年に行われたウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)向けの実演で発砲が失敗、コルトは計画を中止した。スミス・アンド・ウェッソンは01年のボイコットを受けてスマートガンの開発をやめた。独アーマティックスの拳銃「iP1」は14年に発売されたが、1800ドルという価格は同等モデルの約6倍だった。リストバンドと暗証番号によるロック解除には12秒かかった。仕入れをした2店が脅迫を受けたため、店頭に並んだのはほんの1週間ほどだった。

銃を構えるカイ・クラファー氏
銃を構えるカイ・クラファー氏
Photo: Matt Nager for The Wall Street Journal


 スマートガンを巡る政治力学は出だしでつまずいたためにややこしくなった。ニュージャージー州では02年、スマートガンの技術が州司法長官の承認を受けた場合、州内で販売する銃をスマートガンに限定する州法が成立した。新たなモデルが登場すれば法律が適用されると懸念した銃擁護派らは、銃メーカーの研究を思いとどまらせようとしてボイコットをちらつかせた。スマートガン推進を狙った法律が逆効果になった格好だ。

 スマートテック・チャレンジズによると、銃の安全管理が不適切だったために起きた若者の自殺や暴発による殺傷は年間約2万件に上る。この人数は、効果的な技術があれば減らせる可能性がある。シートベルトは受け入れられるまでに数十年かかったが、自動車事故を劇的に減らした。新しい安全技術もすぐには導入されないだろう。政治的、技術的課題も少なくない。だが銃に生体技術を導入することは、自動運転車が暴風雨の中を走るほど難しい課題では全くない。それに、技術の大きな進歩は普通、業界の内側からは生まれない。

銃乱射事件がきっかけ

 クラファー氏は回路基板を作ったりソフトウエアを書いたりして育った。高校生だった12年7月に、コロラド州オーロラで12人が死亡する銃乱射事件があった。オーロラはクラファー氏が現在も両親と住むボルダーからわずか56キロほどの町だ。

 事件を受けてクラファー氏は銃がもっと安全にならないかと考えた。乱射事件について学ぶなかで、身元を認識する技術では次のオーロラを防げないことに気づいた。他の大規模な銃撃事件の大半と同様、犯人が合法的に銃を購入していたためだ。

 そこで、防ぐことのできる死に意識を切り替えた。米国では年間3万3000人が銃で死亡するが、そのうち62%は自殺だ。多くの者、特に若者は、自分のものではない銃を使っている。毎年約25万丁の銃が盗まれている。最新の統計では、ロックされておらず、弾が装填(そうてん)された銃のある家に住む子どもは170万人いる。クラファー氏は「毎日、乱射事件に匹敵することが起きている。1カ所で起きていないというだけだ」と話す。

開発に取り組むクラファー氏
開発に取り組むクラファー氏
Photo: Matt Nager for The Wall Street Journal


 クラファー氏は銃による事故について、技術で解決できる問題だと考えている。自身初のモデルは高校での優勝を逃したが、13年の国際科学フェアに出品したモデルは1位タイを取った。スマートガンについて大それた計画はもっておらず、賞金の4000ドルは研究ではなく新しいバイクに充てようと思っていた。だがフェアのスポンサーだったインテルの社員からスマートテックの支援金について聞き、応募した。

 同財団は1年後に5万ドルの支給を決め、クラファー氏に予算と開発計画を提出するよう要求した。企業の予算など書いたことがなかったクラファー氏は1カ月の延長を求めた。新興企業が誕生した。

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