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全米初の違法薬物の合法的注射施設、シアトルで開設か。ハームリダクション運動家のシロ・マーフィーに聞く

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政治なんてクソくらえ。モットーは「私たちがやらなくて、誰がやる? 今やらなくて、いつやるの?」

E・G:施設の開設を阻んでいるものはありますか、それとも円滑に開設までこぎつけると考えていますか?

S・M:特に障害になっているものはないと思います。私たちの活動を阻害するのは、「うちの近所ではやめてくれ(”not in my back yard”略してNIMBY)」というNIMBYな人たちであるのが常ですが、この計画に関しては「うちの地区に開設してほしい」というコミュニティーもあれば、「うちの地区はよくわからない」というコミュニティーもあれば、同じコミュニティーでも「是非に」という人と「いらない」という人がいるところもあります。ですから、それらの意見を参考にして、最適な場所を考えていくつもりです。

薬物使用に関して、これまでわれわれが見落としてきてしまったのが、薬物を取り巻くスティグマ、そして思いやりの欠如です。多くの薬物使用者が他者から「お前は悪いやつだ」「恐ろしいやつだ」「やめるべきだ」と口々に言われはするけれど、「ありのままのあなたを愛している」という言葉をかけてくれる人は誰もいないということです。

人は愛されているとより良い選択をします。思いやりを寄せられるとより良い選択をします。われわれは彼らが愛され、大切にされることを望んでいます。われわれのプログラムに参加して、本当に久しぶりに存在を認められて泣き出す人が大勢います。わたしにしてみれば、政治なんてクソくらえだ。人びとが必要としているものは愛であり、誰もが愛されるべきなのです。だからわれわれのモットーは「私たちがやらなくて、誰がやる? 今やらなくて、いつやるの?」です。

もうウンザリなんだ、友人を失うのも、友人が苦しむのも、辱めや残酷な仕打ちを受けるのも。

E・G:なぜ今なのでしょうか?

S・M:私はもう自分の友人や愛する人たちを過剰摂取で失うのは嫌なのです。友人が大型のごみ収集容器の中でパニックを起こしたり、C型肝炎に感染したり、細菌に感染したり、自分の体を痛めつけたりするのは、もう嫌なのです、不必要なことなのです――薬物をやめるべきだと言いながら、一方で解毒施設を閉鎖したりする行政のやり方にはもうウンザリなのです。思いやりがある最もすばらしい人たちが、辱めや残酷な仕打ちを受けるのも、もう嫌なのです。だから、死にかけている人や苦しんでいる人がいること、政府は何兆ドルも薬物との闘いに投じているのに逆に人々を苦しめる結果になっていることを、みんなに理解してもらう必要があると思います。今こそみんなで立ち上がり、「だめだ、今注射をするな、ここで注射をするな」というべきなのです。

E・G:すでに資金は確保できているのですか?

S・M:われわれの組織は、計画を実行するまで資金を調達しません。まずは実行し、それから答えを探すのです。

E・G:合法的薬物注射施設の実現に向けて、大きく前進しているように見受けられます。実際に薬物を使用している人たちが、薬物使用者組合などの形で議会への働きを行っているのですから。現在の運動で、組合はどのような役割を果たしていますか?

S・M:アライアンスに実際にこの計画を持ちかけたのは、アーバン・サバイバーズ・ユニオン(マーフィーがシアトルで設立した薬物使用者の全国的な組合)です。両者は常に連絡を取り合い、協働しています。多くの会員が「ごみ捨て場は(注射するのに)安全な場所ではない」と言っています。この問題には長く取り組んでいます。ポートランドとシアトルにとって、バンクーバーはとても身近な場所です。そこでは10年前から合法的薬物注射施設が運営され、たいへんな成功を収めています。

吸引用パイプの支給によりC型肝炎、HIV感染や膿瘍のリスク激減。

E・G:吸引用のパイプを配布することがなぜハームリダクションの一環といえるのか、説明してもらえますか?

S・M:利用者がしょっちゅう来ては「これは知っておいてくれ。自分が注射器を使うのは、パイプが手に入らないからだ」と言います。そこでわれわれは考えて出た答えは、「それはとてもばかげたことだ」です。つまり、安全な方法を選びたいのに手に入らないから危険な方法を使っているというのなら、われわれが入手できるようにすればいいではないかということです。そこでわれわれは利用者たちと話し合い、ちょっとした調査をしました。大多数の使用者は、もしパイプの提供のようなサービスがあったら、注射を減らすと回答しました。だから提供を始めたのです。実はちょうど今、この事業の効果を調査しているところなのですが、成功しているのは明らかです。われわれは可能な限り吸引を続けてほしいと思っています。吸引で薬物を摂取するようになった人は、吸引を継続し、注射する可能性が低くなります。また、(注射から吸引に)戻りたい人にも提供しています。吸引ならば、C型肝炎への感染の可能性がきわめて低くなり、HIVへの感染や膿瘍のリスクは皆無だからです。

E・G:ポートランドでは、注射器の交換をしている団体が(不衛生な注射器使用や使いまわしのリスク削減のため)パイプを提供することはありません。あなたの非営利団体は、ポートランドに支部がありますね。プロジェクトの一環として、ポートランドでも吸引パイプの配布を計画しているのですか?

S・M:われわれのプログラムでは、それぞれの地域の薬物使用者がサービス内容を決めるというやり方をしています。ポートランドでも、薬物使用の当事者たちと話し合い、サービスが必要かどうか考えていますが、まだ具体的な結論には至っていません。彼らが望めば可能性はあります。

ホームレスの人が住む橋の下に自転車で注射器を届ける配達サービスが効果

E・G:あなたがたの注射器交換は1対1の交換ではありませんね。(ポートランド地域で交換を行っているマルトノマ郡の窓口や支援団体アウトサイド・インは使用済みの注射器を持ってきた人に清潔な注射器を渡すという、交換スタイルを採用しているが、マーフィーの団体では、注射器を持ってこなかった人にも注射器キットを提供している。)交換するやり方を採用しない理由を教えてもらえますか?

S・M:本質的にはそれが最善のやり方だからです。全国的にもこのモデルが標準となっており、どのデータを見ても、無条件に入手できるようにする方法が、C型肝炎やHIVの感染予防に最適であることが分かっています。保健〔衛生〕局の場合、科学的根拠より政策に従わなくてはならないことは理解できますが、われわれは科学的根拠に従います。

E・G:使用済みの注射器は受け取りますか?

S・M:すべての施設で使用済みの注射器を回収しています。実はその量を測っているのですが、われわれが配布するよりずっと多くの注射器が集まってきます。

ポートランド・ピープルズ・アウトリーチ・プロジェクトは、ピープルズ・ハーム・リダクション・アライアンスの施設の1つです。われわれは施設開設の支援はしましたが、実際に軌道に乗せたのは、自転車での配達サービスなどで支援を支えたポートランドのすばらしい現地スタッフたちです。ちょうど新しい考え方と古い考え方が出会ったという感じで、科学に基づいた観点やデータと、昔ながらのアウトリーチの働きかけを組み合わせ、必要としている人々のもとにサービスを届けることができるようになりました。橋の下に住んでいるホームレスが必ずしも注射器の交換に出向いてくれるとは限らないですから。

われわれにはデータと科学的根拠があります。同時に愛と思いやりもあります。人を相手にするときには、数字や統計には注目しません。1人1人に目を向け、その人の健康をいかに改善するかを考えます。それにわれわれの施設はサービスを利用している当事者たちによって運営されています。だからたとえばヘロインとフェンタニル(主に麻酔や鎮痛、疼痛緩和の目的で利用される合成オピオイド)の混合物が町で広まって、過剰摂取で死ぬ人が出てきたら、当事者スタッフがいない組織よりも早く対処することができます。われわれが敏速に察知して対処した事例が、3カ月後に政府から文書や電子メールで送られてくるということが、何度もあります。

不可能なことだといって高望みせず夢もみないのは、はじめから負けている。

E・G:あなた自身、薬物を常用していますね。以前「ヘロインで命を救われた」と話していました。そのことについて、説明してもらえますか?

S・M:かつてのわたしは典型的な行き場を失ったティーンエイジャーで、路上で生活し、考えもカオス状態でした。薬によってわたしは心を開き、考え方が広がりました。薬物のおかげで多くの人と出会い、関わるようになりましたし、さまざまな文化や考え方に対応するようにもなりました。わたしも両親もとてもリベラルな考え方でしたが、たとえば保守的な考え方の人たちを知るようにもなりました。LSDと幻覚剤もそうです。そのおかげで、わたしの人生はより良いものになりました。だからといって、すべての人の人生が必ず良くなるというわけではありませんが。

E・G:ハームリダクションの運動家の中には、薬物に対するあなたの考え方を批判する人たちもいます。あなた自身、常用者たちの良いお手本になっていると思いますか?

S・M:はい。希望を感じてもらえると思いますし、いつも言っていることですが、私たちは不可能と思えることでも高望みすべきだと思います。夢は大きすぎるということはありません。あらゆる夢を持つべきです。そうでなければ、いつまでも縮まって生きなくてはなりません。月に行きたいと願わなければ、人類が月に行くことなどなかったでしょう。1マイルを5分で走ろうと努力しなければ、走れるようになどなりません。そんなことは無理だと誰もが言っても、あなたの心はきっとできるはずだと言ってくれます。われわれも、薬物使用者が尊重されることなどあり得ない、そんなことは不可能だと言われます。でもわたしが子どものころ、同性婚などあり得ないと言われていました――でも実現しました。マリファナが合法化されることなどあり得ないと言われていましたが、ワシントン州でもオレゴン州でも今では合法です。不可能なことだといって高望みせず夢もみないのは、はじめから負けているのです。

E・G:あなたは今でもヘロインを常用しているのですか?

S・M:はい。今でも自分が使いたいときに薬物を使います。実のところ、最近は働きすぎで、薬物を使うことが減っています。わたしの薬物使用を阻む最大の障壁は、薬物使用者のための仕事が多すぎることなのです。

INSPニュースサービスwww.INSP.ngoの厚意により/ストリートルーツ

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