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始まるよ! 「いのちのとりで裁判全国アクション」!! の巻 - 雨宮処凛

10月26日、厚生労働省記者クラブで記者会見をした。

 内容は、「いのちのとりで裁判全国アクション」を始めるぞ、という宣言だ。いのちのとりで裁判って何? って、知らないのは当然だ。これから始まるのだから。そして「いのちのとりで裁判」というネーミングの名付け親は、何を隠そうこの私である(自慢)。

 この裁判は、生活保護基準引き下げを「違憲」として全国27地裁で闘われている裁判である。もうこの連載でもずーっと書いているが、2012年末、第二次安倍政権発足が発足。そんな安倍政権が真っ先に手をつけたのが「生活保護引き下げ」。もっとも弱い立場にある人のセーフティネットの切り崩しをまずは押し進めたのである。

 「でも、別に生活保護受けてないから関係ないし」

 そんなふうに思う人もいるだろう。が、実は関係あるのだ。生活保護基準は様々な国の制度と連動している。最低賃金、住民税非課税基準、国民健康保険、介護保険、保育料、そして経済的に厳しい世帯への支援である「就学援助」などなど。よって、生活保護を受けていない低所得世帯が、この引き下げにより「就学援助を貰えなくなった」などといった事態が全国で発生しているのだ。就学援助では、給食費や学用品代、修学旅行代などが援助される。「生活保護基準引き下げ」によって修学旅行に行けなくなった、学用品を買えなくなった、などといった子どもが多く発生していると思われるが、この辺りの調査はまったくなされていない。

 そんな引き下げは13年から段階的に始まり、生活費だけでなく、冬季加算(寒い地域での冬の暖房費など)も減らされ、住宅扶助(家賃)も減らされている。じわじわと、真綿で首を締めるかのような引き下げが長らく続いてきたのだ。当然ながら生活保護を受ける人々からは「もうこれ以上何を削ればいいのかわからない」といった悲鳴のような声が上がっている。

 ということで、現在、27地裁で900人以上が原告となり、「生活保護引き下げは違憲」として裁判が行われているのだ。まさに憲法25条・生存権を巡る闘いである。これらを大々的に応援しようというのが、「いのちのとりで裁判全国アクション」なのである。

 さて、それでは生活保護世帯ではどんなことが起きているのか。

 記者会見の日、生活保護を受けている埼玉の男性が、この数年間に起きたことを詳しく話してくれた。

 男性の名前はアラカワさん。この裁判の原告でもある彼は、現在54歳。妻と3人の娘がいる。8年前、糖尿病となり、症状が目に出て失明寸前となったことで、それまで続けていた運送業をやめざるを得なくなったという。そこに「住んでいたところが取り壊される」という理由から立ち退きが重なった。一旦は辞めていた仕事を再開するものの、糖尿病は悪化。そこで生活保護を受けることになったという。

 保護を受け始めた8年前、娘は小学1年生と中学2年生、高校1年生。決して楽ではないものの、生活保護を利用しての暮らしが続いていたアラカワ家だったが、4年前、転機が訪れた。次女が「保育士になりたい」と専門学校への進学を希望したのだ。

 ここで、「え? 生活保護世帯だと大学とか専門学校行けないんじゃないの?」と思った人もいるかもしれない。が、進学はできる。「世帯分離」をすればいいのだ。世帯分離とは、同じ世帯に暮らしながら、一人だけ生活保護を外れるというやり方。逆に言えば、「世帯分離」をして生活保護から外れないと大学や専門学校に行けないということなのだが。

 このあたり、「貧困の連鎖を断ち切る」ための子どもの貧困対策法なんかの理念と真っ向から対立する気がするのだが、今のところ、そうなっているのである。世帯分離した子どもの生活費は、本人がバイトや奨学金などでなんとかしろ、ということらしい。ちなみに一般世帯の進学率(大学、専門学校)は73.2%なのに対し、生活保護世帯の進学率は33.4%。世帯分離などしなくても進学できるようになればもっと進学率は上がり、貧困の連鎖を断ち切ることができるだろうに、と忸怩たる思いも込み上げるが、とにかくアラカワさんの次女は「世帯分離」をして、保育士になるための専門学校に進学。その結果、次女は変わらず家にいるのに、生活保護費は一人分減らされることとなった。その額、2万4906円。

 やっぱり、納得いかない。なんだか「大学に行きたい」「専門学校に行きたい」という夢を持ったことに罰が与えられるようなシステムではないだろうか。

 そのことによって、12年、アラカワ家の家計は一気に厳しくなった。ちなみに専門学校の学費は奨学金の1種、2種を借りたという。

 そんなアラカワ家をその翌年、生活保護引き下げが襲う。

 アラカワ家では働く人がいるのだが、様々な制度の改正や引き下げにより、勤労者控除がひとつなくなり、期末一時金も減らされた。冬季加算も減らされ、生活費は更に2〜3万円下がったという。

 「その積み重ねが今、ボディーブローのように効いています」。アラカワさんは言った。

 専門学校で学んだ次女は無事に保育士となり、14年に家を出たという。が、ご存知の通り保育士の給料は安く、15万円。そこから家賃を払い、月に2万円以上の奨学金を返済する。また、仕事をするために買った車のローンが月に2万円ちょっと。保険が1万6000円。これだけで5万6000円だ。残りの10万円以下から家賃、光熱費、通信費、食費などをまかなわなければならないのである。

 「本人はやっと生活保護から抜けて社会に出たのに、とても食べてはいけません。うちには戻ってきませんけど、助けを求めてくるので、たまにご飯を食べさせたりしています。今、私たちは生活保護を受けていて、娘はそういう状態で安定しない。今、一番恐れているのは共倒れです。うちも苦しいし、娘も苦しい。それでまた生活保護が削減されたらどんな道が待っているのか」

 アラカワさんは切実な表情で訴えた。

 日々節約に気を使い、ガス代は高いので風呂ではなく年中シャワーで済ませ、どんなに寒い時でも風呂には一切入らないという。近所のスーパーで値引きになる時間に合わせて買い物に行き、半額の商品を買う。そして今、三女は高校受験を控えている。受験にもお金がかかる。入学準備金を借り、高校に入れば入ったで奨学金を借りなくてはいけない。貯金がないので、すべて借りることになってしまう。そうすると、のちに娘に負担がかかってくる。

 「娘たちは、社会に出て本当にやっていけるのか。親としてはどうしようもない、親だけでは防ぎようがないんです。私が裁判の原告になったのは、子どもへの影響が心配だからです。今のままでは貧困が貧困を生んでしまうからです」。アラカワさんの悲痛な声が胸に響いた。

 今、上の娘2人は家を出て、生活保護を受けて暮らすのはアラカワさんと妻、三女の3人。アラカワさん自身、「自立」を考えるものの、非正規の仕事は時給850円程度。「身を粉にして、2つくらい仕事しないと」今の生活を維持するのは難しい。しかし、アラカワさんには糖尿病という持病がある。安倍首相は「雇用状況は改善している」というものの、増えているのは非正規の仕事ばかり。

 「今、生活保護を受ける者として一番言いたいことは、当事者の話を聞いて頂きたい。私は5人で受けていましたが、一人の人もいます。障害者の人もいます。立場が違う人たちが受けているので、個人個人の意見に耳を傾けてください」。アラカワさんは最後にそう締めくくった。

 13年に始まった生活保護の引き下げ。

 私がもっとも疑問を感じるのは、この引き下げにあたり、国は当事者の声を、ただの一度も聞いていないということだ。

 「わたしたちのことをわたしたち抜きで決めないで」とは、障害者運動の有名なスローガンである。当事者だからこそ、わかるニーズがある。当事者にしか、気づけない視点がある。そして何よりも、当事者抜きに勝手に決めるなんて、そもそも民主主義に反しているのだ。手続きとして、おかしいのだ。しかも生活保護は、ある意味で生殺与奪のすべてを握るような制度である。ここが蹂躙されることを許してしまうと、あらゆる権利が切り崩されていくだろう。

 だからこそ、このアクションには「いのちのとりで」という名前がついた。

 11月7日には「いのちのとりで裁判全国アクション」設立記念イベントを開催する。ぜひ、多くの人に参加してほしい。

 そして、一緒に考えてほしいのだ。

「いのちのとりで裁判全国アクション」設立記念イベント

※詳しくはこちら

11月7日(月)13:30〜16:00(開演13:30)
衆議院第一議院会館 大会議室(入場無料・事前申し込み不要)

総合司会: 本田宏(外科医)
開会あいさつ: 井上英夫(金沢大学名誉教授)
基調報告: 小久保哲郎(弁護士)
原告からの訴え・国会議員あいさつ
シンポジウム
 コーディネーター 雨宮処凛
 稲葉剛(住まいの貧困に取り組むネットワーク
 藤川里恵(AEQUITAS/エキタス)
 佐藤晃一(やどかりの里)
 介護現場で働く方
 まとめ 尾藤廣喜(弁護士)

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