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本人が望まなかった性的なできごとは、すべて性暴力である - 伊藤良子・関めぐみ / 性暴力被害者ゼロネットワーク『しあわせなみだ』

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性暴力という言葉を聞くと、何をイメージしますか?

もし、「夜道を歩いていた女性が、見知らぬ男性に暗がりに連れ込まれて強かんされる」といったイメージを持った方は、本稿を通じてより広い性暴力の定義について知っていただければと思います。

性暴力の定義

そもそも性暴力とは、どのような事象を示す言葉なのでしょうか。性暴力とは、日本では1970年代に興った女性解放運動(ウーマン・リブ)の時代にフェミニズムの対抗言語として創られた比較的新しい概念です。女性たちはこの運動をとおして、それまで男性の側からみれば単なる性的な言動として捉えられてきた行為について、女性の側からみれば暴力的である場合、それらを「性暴力」と表現し、女性の性的権利もしくは性的自由を侵害する行為として位置づけ直しました。

そして、現在、性暴力の問題は、国連や国の政策において、「女性に対する暴力」の一環として位置づけられています。しかし、実際は、女性のみならず、女性的な位置にいるとみなされた男性やセクシュアルマイノリティ、そして子どもたちも同様に性暴力の被害を受けています。このことからも、性暴力は「女性に対する暴力」もしくは「女性差別」として位置づけるよりも、むしろ「女性的なジェンダーに対するセクシュアリティを媒介とした人権侵害」として位置づける方が妥当だといえます。

最近では、「性暴力とは、他者からの性的な意味合いを含んだ働きかけに対して、それを受けた当事者が性的自己決定権を発揮することができず、自己の心身およびセクシュアリティやジェンダーを脅かされたと感じたできごと」といった文脈で定義されることが増えてきました(注1)。簡単な言葉でいいかえれば、「本人が望まなかった性的なできごとは、すべて性暴力である」ということです。

(注1)国連は、性暴力を「身体の統合性と性的自己決定を侵害するもの」(国連経済社会局女性の地位向上部 2011: 37)と定義しています。身体の統合性とは、わたしの身体はわたしのもの、わたしの心はわたしのものという感覚です。性的自己決定とは、自己の身体、生殖、セクシュアリティやジェンダーに関して、あるいはいつ、誰と性的な関係をもつかもたないかをも含めて、その人自身が決めることです。

性暴力の種類

性暴力は、「問題に向き合う際の立場」、「加害者と被害者の関係性」、「行為の内容」などによって、「性犯罪」「性的暴行」「性的搾取」「性虐待」「セクシュアル・ハラスメント」などの異なる用語が当てはめられて使用されています。しかし、人権侵害としての問題の本質は同じです。

「問題に向き合う際の立場」としては、被害者、加害者、それぞれの親・きょうだい、友人、同僚、警察、医療関係者、弁護士、専門相談員、研究者、国家・地方公務員、軍人などが考えられます。

「加害者と被害者の関係性」としては、親密性の度合い(結婚している・交際している関係なのか、親子・きょうだい・いとこ関係なのか、職場の上司と部下なのか同僚同士なのか、学校の教師と生徒・友人なのか、見知らぬ人同士なのかなど)に加え、加害者と被害者双方の性別、年齢、障がいの有無、学歴、職歴、収入、民族性、肌の色、階級、宗教などが考えられます。

「行為の内容」としては、強かん、強制わいせつ、のぞき、ストーカー、盗撮、わいせつ物頒布、下着泥棒、買春、児童ポルノ製造、公然わいせつ、人身取引、JKビジネス、AV出演強要、DV、デートDV、いじめ、ポルノを見せる、避妊に協力しない、中絶の強要、戦時性暴力などが考えられます。

このように、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)といった文脈で事象を捉えることによって、性暴力の問題にさまざまな事象が含まれることを理解しやすくなるのではないでしょうか。

「強かん神話」とは

いわゆる性犯罪とは、刑法の「強かん罪(177条)」や「強制わいせつ罪(176条)」で規定されている性暴力をさし、性暴力の問題のうちのほんの一部にすぎません(注2)。冒頭で紹介した、「夜道を歩いていた女性が、見知らぬ男性に暗がりに連れ込まれて強かんされる」事例は、さらにそのなかでも「強かん神話」と呼ばれる固定的なイメージです。

(注2)日本は罪刑法定主義によって、いかなる行為が犯罪となるかが法律で規定されています。

強かん神話とは、その真偽にかかわりなく、広く世間に信じられている強かんにまつわる話のことです。たとえば、「強かん被害は、若い女性だけがあう」「強かんは、被害にあった人の挑発的な服装や行動が誘因になる」「強かん加害者のほとんどは見知らぬ人である」「ほとんどの強かんは加害者が衝動的に起こしたものである」といったものです。

しかし実際には、乳幼児から高齢者まですべての年齢の人が被害を受けており、女性のみならず、男性やセクシュアルマイノリティの方たちも同様に被害を受けています。また、被害にあった女性の多くは挑発的な服装や行動はしておらず、むしろ加害者は「おとなしそうで、警察などに訴えないだろう」という雰囲気の人を狙っているのです(注3)。

(注3)内山絢子(2000)「性犯罪被害者の被害実態と加害者の社会的背景(中)」参照。

さらに、性暴力の加害者は、見知らぬ人よりも被害者と面識のある人の方が多いのが事実です(注4)。そして、加害者の多くは、決して衝動的に被害者を襲うのではなく、被害者の後をつけたり、人目につきにくい場所を冷静に判断して犯行に及びます。【次ページにつづく】

(注4)野坂祐子、他(2004)「高校生の性暴力被害実態調査」アジア平和基金委託調査報告書参照。

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