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50歳まで現役?イチローの再契約が意味するもの - 木崎英夫 (スポーツジャーナリスト)

 大リーグはワールドシリーズ進出を賭けたプレーオフが佳境に入っている。18日(日本時間19日)現在、ナ・リーグはカブスとドジャースが、ア・リーグはインディアンスとブルージェイズが熱戦を繰り広げている。その一方で、ここまで生き残れなかったチームは、深まりゆく秋に来季への戦力整備を急いでいる。その中で、イチローが所属するマーリンズが、公式戦終了後早々に動いたのは周知の通りだが、今回の契約から見えてくることがある。

 シーズン途中から、マーリンズ首脳からはイチローとの再契約を前向きに捉える発言が聞かれ、現場にいる日米の記者たちは既定路線と受け取っていた。それが明らかになったのは、公式戦が終了して3日後の10月5日。マイケル・ヒルGM兼編成本部長がイチローとの契約更新を発表した。昨オフに結んだ契約に付帯した17年(年俸約2億円)の球団選択権を行使したわけだが、新たな契約にも18年がオプション(球団選択権)として付けられた。今月22日に43歳になる偉大な打者に、最大限の敬意を払う意志が反映された契約である。

 昨季より出場は10試合少ない143試合ながら、安打は4本多い95本。打率は2割2分9厘に終わった昨季から、今季は10年以来最高の打率2割9分1厘とイチローは巻き返した。それも、昨季と同じ控え外野手として不規則な起用法に苦しみながら出した数字だ。

 同席したサムソン球団社長はややこわばった声音で言った。

 「私は、イチローから起用法への不満を一度も聞いたことがない。常に準備をして出番を待っている。イチローは50歳までプレーしたいと真顔で私に言った。毎年(途中離脱なく)クリアしている彼ならやるだろう」

 体力、技術の両面で陰りは見えず、一貫して崩さない日々の取り組み方は、若手選手の模範的な存在である。イチローが本気で描く「50歳で引退」をマーリンズが真剣に後押しするのもなんら不思議ではない。もちろん、この先、不測の事態が生じる可能性はある。球団が「19年は(現段階で)未定」とするのはその勘案であろう。しかし、イチローに現役続行の意欲がある限り、受け皿はずっとマイアミにある。

偉業と悲劇がもたらしたもの

 今夏に、米野球殿堂入り当確ラインとされる3000安打をクリアしたイチローの存在は、93年の創設から2011年までのフロリダ・マーリンズ時代を含め、未だ殿堂入り選手を輩出するには至っていない球団に付加価値を付けるのは当然である。サムソン社長は「殿堂入りする選手が、マイアミでプレーしてくれることは、とても誇らしいことだ」と素直な気持ちを言葉にする。選手として威厳を醸す人品骨柄に大記録を携えたイチローを手放すことはあるまい。ローリア球団オーナーも「マイアミにこれほどマッチするとは思わなかった」と、想像以上の存在価値を実感している。

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追悼のメッセージボード

 一方で、マーリンズは米球界の至宝と謳われていた、キューバ出身の剛球右腕ホセ・フェルナンデスを失った。

 シーズン最終盤の9月25日未明、友人二人と乗ったフェルナンデス所有のボートが猛スピードで消波岩に激突。才器は24歳の若さであっけなく散った。2年後のFAで複数年の200億円越えは堅いと見られていた逸材は、マウンドで闘志をむき出しにしたが、陽気で、無邪気で、そしてちゃめっ気たっぷり。ファンの圧倒的な支持を得ていただけではなく、キューバ系移民が多く住み「北のハバナ」と別称されるマイアミで、その生き様は人々の共感を呼んでいた。

 キューバからボートに乗り3度試みた亡命はいずれも失敗。米湾岸警備隊に捕まり強制送還された。刑務所にも入ったが、敢行した4度目で遂に夢にまで見たアメリカにたどり着いたのだった。事故が起きてから、サムソン社長がメディアに向けて何度も繰り返していたのが、この言葉だった。

 「ホセは自由への可能性を象徴する存在だった」

 キューバ系移民の人々は、マウンドで夢を開花させたその姿に自らの人生をだぶらせていたのである。

見え隠れする地元民の思い

 至宝を失った球団は、未だ拭い去れないある問題を抱えている――。

 本拠地をマイアミに移した12年、当時監督に就いていたオジー・ギーエンが、キューバのカストロ前議長を誌上で称賛したことから大きな波紋が広がった。亡命キューバ人の多い地元マイアミでの猛反発に憂慮した球団は、ギーエン監督に5試合の出場停止処分を科し、シーズン終了後には解雇に踏み切った。しかし、地域社会を侮辱した代償は高く、12年以降、観客動員数は頭打ち。今季は前年比約4万人減の171万人弱で4年連続リーグ最下位となった。ギーエンの失言は今も地元民の心の中にくすぶり続けている。

 筆者がマイアミで定宿にしているホテルで、キューバ系の女性従業員に聞くと「あの発言以来、家族で球場に行くのをやめたわ」という答えが返ってきた。また、亡命経験のある60代の男性従業員はこうも言った。

 「ホセがいなくなったからもう応援するのをやめようかと思った。だけど、ジャパンからきたイチローがまだ頑張るんだったらそりゃ球場に行くさ」

 キューバ移民の人々にとって、夢を追い、異国の地で超一流の域に達したイチローのこころざしはフェルナンデスと相通じているのだろう。

 実際、二人は気脈を通じていた。

 フェルナンデスの出棺式が執り行われた9月28日、イチローは球場の外の支柱に貼られたボードに「U r the BEST! 51」と書き込んでいる。これは、専用のトレーニング機器で準備をしているイチローの姿を見るとエース右腕が必ず掛けてくれた言葉「You are the best.(あなたは最高の選手)」だった。惜別のメッセージにイチローが迷うことはなかった。

 フロリダ半島の南西に浮かぶカリブ諸島で猛威をふるうハリケーン「マシュー」が翌日に接近するとあって、テレビでは朝から数日間分の食料と水など、非常時の備えを促し続けていた5日、マーリンズ球団首脳による会見が終わり、空港へ急ぐ道すがら、ふと、こんなことを思い出し、はっとした――。

 イチローが10年連続200安打に邁進していた6年前の夏だった。その打撃について問うと、時のホワイトソックス監督だったオジー・ギーエンはこう発した。

 「人は死ぬ。でもイチローは打つ」――。

 「当然の理」と言わんばかりに、ギーエンは独特のレトリックを施した。

 あれから6年――。その13文字は、期せずして、マイアミ・マーリンズ再建への方途を黙示的に含蓄する響きへと変わっていた。

 因縁とはまさにこのことであろうか。

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