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トリチウム水「海洋放出」を危惧する福島の漁業者

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ソウルではPR行事中止

 9月23日、福島市で「北日本漁業経済学会」が福島第1原発事故と漁業復興をテーマにしたシンポジウムを開き、福島の浜を歩いている大学の研究者、県漁協やメディアの関係者ら約60人が集った。発表者になった同市内の生協の幹部がこう語った。
「九州と沖縄の7県の生協が東日本大震災の被災3県(岩手、宮城、山形)の復興支援カタログを統一して作り、産品を取り扱っている。ところが、今年5月の新聞報道を見た、あるコープの会員から『国がトリチウム水を海洋放出することになったら、コープ九州の復興支援カタログで東北の海産物は企画しないでほしい』という声が寄せられた。普通の国民の感覚、消費者の感覚からすれば当然の反応なのかな、と思う」
 この幹部は、前述の汚染水処理対策委員会の基礎的な検討作業に参加の依頼があり、民間人の視点で携わりながら、驚かされることがたびたびあったと述べた。
「そもそも福島第1原発のトリチウム水の原水濃度は30万~42万ベクレル/リットルと知ったが、海洋放出案では、それを薄めて6万ベクレル/リットル程度の濃度で海に流すという。だが、薄めればよい、という発想が住民、消費者の目線からは受け入れられないのではないか。専門家の発言の中に、トリチウム水はいわゆる汚染水とは違う、ということを強調する場面がしばしば見られることも気になる」
 この生協傘下の地元食品会社では、福島県産大豆を使った豆腐製品の売上が、昨年も原発事故の前年比2割減の状況で、水産品以外でも消費者の厳しい反応は続く。トリチウム水の海洋放出が実施されれば、前述の九州からの反応のような事態が広がると危惧する。
 現実に風評は福島県以外の被災地でも復興を阻む「壁」となり、珍味で知られるホヤの主産地・宮城県の漁業者たちは13年7月の福島第1原発の汚染水海洋流出を理由にした韓国政府の輸入規制(東日本8県の水産物が対象)で、原発事故前に出荷の7~8割を占めた韓国市場を失った。大津波で壊滅したホヤ養殖は14年から復活したが、今年ついに生産過剰となり、同県漁協が苦渋の選択で国内出荷分を除く計1万4000トンを水揚げ後に廃棄した。石巻市でホヤ養殖を営むある漁業者は「輸入規制そのものが風評問題。この上、福島第1原発のトリチウム水を海に流されたら国内外の風評はさらに長引き、輸出再開はもう望めない」と話す。
 2月には、外務省が東日本大震災の被災地復興を韓国・ソウルでPRする行事の中止を余儀なくされた。
《東北地方の菓子や日本酒の宣伝も予定したが、韓国の市民団体が東京電力福島第1原発事故を理由に食品の安全性に疑問があるとして反発、抗議する動きを見せていた。聯合ニュースによると(開催地の)城東区は「公の場所で原発事故発生地の生産物を無料で配ったり販売したりすることは適切でない」としている》(2月20日の共同通信より)。
 シンポジウムに出席した別の同県生協連幹部は「政府関係者の発言などを報道でみると、『福島県の漁業者』に当事者を限定し、現実を小さくしているように見える。国民全体に関わる問題なのに、他県では報道、関心も薄いのではないか」と語り、宮城、岩手、茨城各県の漁業者らも参加できる、開かれた議論の場を求める意見も自由討論で出された。                

協力してきたのに……

 これに対し、シンポジウムに出席した野崎哲福島県漁連会長(傘下は相馬双葉、いわき市各漁協)は、あくまで漁業復興と廃炉作業の両立を政府、東電は守るよう訴えた。毎日約400トン発生していた汚染水を減らす対策として、これまで県漁連は「地下水バイパス」「サブドレン」(汚染前の地下水をくみ上げ、海に放出する方法)などの提案に協力してきた。風評発生の懸念に対する組合員の激論を説得しながら、「廃炉作業に協力するのが漁業復興への道でもある」と苦渋の決断で認めてきた経緯がある。だが、トリチウム水の海洋放出に関して、野崎会長は「我々の漁業の死滅を意味する」と受け入れない考えを示し、「デブリ(溶融した核燃料)の取り出しまで、少なくとも10年間はタンクでの保管を続けてほしい、というのが県漁連の立ち位置」と訴えた。
 シンポジウムを企画した学会メンバーの濱田武士北海学園大教授(地域経済論)は、試験操業を監督する前述の同県地域漁業復興協議会の一員として福島の浜を歩いてきた。その経験から取材に次のように語った。
「トリチウム水の海洋放出の動きに漁業界など地元が強く反発する(内堀雅雄同県知事も政府に慎重対応を要望)のは、処理前の状態は福島第1原発の原子炉内で発生した高レベル汚染水であったからに他ならず、地下水バイパス、サブドレンでくみ上げる地下水と同じものとは扱えない。しかも放水となれば、安全性に問題がないとしても、報道を介した波紋は計り知れず、消費者に向けて福島の魚の安全を証明し、信頼を取り戻そうと慎重に行われてきた試験操業が振り出しに戻る可能性がある。風評収束を福島の漁業者が望んでも、政府の進め方が強引だと逆効果になりかねない」
「国が前面に出ると政府は繰り返してきた。福島県の漁業者も汚染水対策を承認する条件として、トリチウム水の海洋放出だけはしないでほしい、と求めてきた。それだけ影響の大きな問題なのに、政府は合理性を前面に押し出して福島県の漁業者を追い込むような空気をつくり、最終判断の責任をひとり負わせようとしているのはどうなのか」

「五輪前の処理」が本音?

 トリチウム水の海洋放出が最も低コストとする試算を報告した政府の汚染水処理対策委員会(委員長・大西有三京都大名誉教授)は9月27日、処分方法を絞り込むための新たに小委員会を設置した。前述のトリチウム水の処分方法について 6月に出した報告書を基に、技術的な観点だけでなく、風評被害などの社会的な問題も検討し、適切な処分方法について評価をまとめるという。
 福島第1原発の廃炉を急ぐ上で最大の課題になったトリチウム水の処理について、海洋放出を唯一の方針として理論武装しつつ固める作業を急ぐように見える政府の動き。2013年7月に汚染水海洋流出事故が明るみに出て間もなく、ブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会総会で安倍晋三首相が、汚染水の状況は「 コンプリートリー・ アンダーコントロール」(完全に制御されている)と国際公約して2020年東京オリンピック招致に成功したのは記憶に新しい。相馬の漁業者が「東京オリンピックの1年前には(トリチウム水問題を)片付けてしまいたいのだろう」と指摘したように、公約の手前、オリンピックの前に、福島第1原発が抱える問題の目に見える解決や復興ぶりを見せたいというのが政府の本音なのではないか。

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