週刊誌『AERA』10月8日発売号の第一特集は「早稲田vs.慶應」。たびたび話題になる私大の2強を取り上げた企画だったが、皮肉なことにネット上では両大学の学生による“不名誉争い”といってもいいような騒動が巻き起こっていた。停電に乗じた差別的デマをつぶやいたのは、早稲田大学在学中と思われる人物。一方、慶應大学では集団強姦容疑での捜査が報じられていることに関連し、複数の学生が女性を中傷する内容のツイートを行っている。
デマを問われ「お口にチャックです」
プロフィール欄に「早稲田大学」、さらに所属学部名を書いた人物がデマをつぶやいたのは10月12日。都内で停電が起こったことに乗じて、「新宿のBURB〇RRYにいるんだけど停電発生 中国人がバックを掴んで逃走→自動ドア開かず、全力で衝突→気絶して警備員取り押さえ→客の悲鳴」(原文ママ、以下同)などと書き込んだ。ツイートは速いスピードで拡散されたが、当初からデマではないかと疑う人もいた。
その後、ニュースサイトBuzzFeedが検証を行い、デマであることを確定(※参考:【更新】「停電時に中国人が火事場泥棒」デマ、投稿者は取材拒否の後に投稿削除)。ここまでであれば、たまに現れる悪質な愉快犯的ユーザーだ。しかしここからがひどかった。
BuzzFeedの記者がこのユーザーに取材を申し込むと、「バズ何とかのトラフィックに貢献するのが嫌なのでお口にチャックです」と拒否し、さらに
「どうでしょう、BuzzFeedで、もう二本程、現状をテーマに記事を書いてみては。デマと噂されるツイートと、それに群がる人達をうまく記事にできませんか?」
などと、どこから目線なのかわからない提案。記者が「まず第一に(略)ツイートが真実であったのか否かをお答えいただきたいと考えております」と投げかけると、
「うーむ、それが通るのは本当に素人だけだとおもいますよ。まずはお互いにwin-winな状況をそちらが見せてくれないと、私は動きたくないですね」と返答した。
念のためにもう一度説明するが、このユーザーはデマの発信源である。熊本地震直後には、動物園からライオンが逃げ出したというデマをツイートして後に偽計業務妨害で逮捕された男がいたが(過去記事参照)、緊急時のデマは非常に危険であることは言うまでもない。自分のデマを指摘されてのこの態度はあまりにも図々しい。その後、この人物はアカウントを非公開にし、裏アカウント(サブ用のアカウント)も非公開にしたままだが、こちらには現在も大学名と所属学部をしっかりと書いている。
また、このユーザーが過去に障がい者や被爆者を中傷するような内容や、「女をレイプしろ 警察を殺せ」「尊師と飯食いながら、小学生の女の子どうやってレイプするか相談すんの楽しかったし、またやる必要ありだな」など、犯罪を示唆するツイートも行っていたことがわかっている。
プロフィールにウソの大学名を書いている可能性もあり得るが、この人物の場合、これまでの友人とのやり取りや画像から、早稲田大学の学生である可能性が極めて高い。
眉をひそめた方は、次でさらにあ然とするかもしれない。
倫理よりもノリを重視
慶應大生のツイートの数々
ミスコンが中止となり、その原因が広告研究会の集団強姦だったのではないかと報道された慶應義塾大学。警察が捜査を開始したことも報じられている。この件に関連して、アイドル活動を行う同大の女子学生が、ミスコンに参加した際の面接でセクハラを受けたことをツイッターで訴えた。
このツイートは現在までに数千回RTされているが、これを見た一部の慶應大生が、女子学生への中傷を開始。「ぶっ〇したくない?」「ぶち込んでやって下さい」といった、暴力を示唆するようなツイートさえあった。さらに、女子学生本人がこれを見つけて反論を行うと、攻撃はさらにエスカレート。他ユーザーからの非難をあざ笑うかのような態度を取り、最後はツイートを勝手に「晒された」と責任を女性に押し付けるようなつぶやきまで行った。
また、この学生とは異なるグループの慶應大生は、集団強姦の際に自分が撮影役だったという「冗談」を投稿。このツイートが拡散されると調子に乗ったのかさらに悪ふざけを続け、
「(セクハラをツイッターで訴えた女子学生を)叩けば本人が直々に晒してくれてフォロワー増えるってマジ? 牛丼は反応してくれないしこっちに浮気しようかな」(※牛丼は別の女子学生に対する揶揄)
「取り敢えず(同女子学生を)叩くことで注目を集めたい僕(略)お、おっ、おっぱい!!」
と女性の画像の一部を加工・強調してツイートをした。
この学生は過去に、
「女子小学生がたまらんかわいすぎて20になって顔写真付きで報道される前に逮捕覚悟で誘拐したい」
「痴漢魔の友人に座右の銘を聞いたら思い立ったが吉日と即答されてすごい納得した」
「おは幼女 今日も朝から女子中学生見学会に行ってきたんだけど野球部しか練習してなくて体育館まで潜入するかなぁとなっている」
といったツイートを投稿。実際に小学校の正門や校庭を撮影したツイートもあった。
筆者が驚いたのは、当然ながら非難されたこれらの学生に対し、他のユーザーは「(炎上に)負けずに頑張って下さい」などと応援したり、同じようにセクハラ的なツイートを行ったり、窘める人を煽ったり、集団強姦の被害者を「レイプされに行ったやつ」と表現したりしていたことだ。
プロフィール欄に慶應大学と書き、学部や学科名も出し、大学構内で撮影した風景や友人の画像を頻繁にアップしている状態で、だ。友人から本人の画像がアップされている場合もあった。匿名とはいえ簡単に個人を特定できるような状態で、こういったツイートをしているのだ。
問題のあるツイートは、探さなくても目に入ってくるほど多かった。ツイートは多くの「いいね」がついているものもあり、仲間内では顰蹙を買うどころか「ウケる」ツイートとして受け入れられていたようだ。
広告研究会の集団強姦が事実であったとすれば、こういった「倫理よりもノリ」を重視するキャンパス内の雰囲気も原因の一つではなかっただろうか。
「小女子事件」や内定取り消し騒動を知らないのか
少し前に流行ったデジタルネイティブという言葉がある。1990年代以降生まれを指すことが多く、生まれたときからITに触れ合う環境があったことを意味する。デジタルネイティブは「ITを直感的に使いこなす」「SNSでの距離感が絶妙にうまい」「ネット上での自己プロデュースがうまい」など、ポジティブなイメージを持っていた人も多いだろう。
バカッターという言葉があるように、バイトでの不正行為をツイートして若者が次々と炎上する現象もあったが、これもいったん収まり、数々の屍を踏み台としてインターネットの世界は教訓を得たと思われていた。しかし、このような大学生のツイートを見ると過去の炎上や、ネット上の犯行予告で逮捕者が相次いだことを知らない層もいるのかもしれない。
数年前には「小女子を焼き〇す」「おいしくいただいちゃいます」と書き込んだ男が逮捕されたり、立教大学の学生が起こしたレイプ事件について「別に悪いと思わない」「女がわりー」などと書き込んだ同大生が炎上して内定先企業が内定取り消しをしたと思われる発表を行ったりしたことがあったが、今の学生はこういった例を知らないのだろうか。リアルで言えないことを言うのがツイッターであり、悪乗りにノレないユーザーはKY。そんな、かつての2ちゃんねるのような空気を、一部の学生は感じてしまっているのかもしれない。
学生がこういったツイートをしてしまう背景にある他の要因として、狭い世界で周囲から受け入れられていると錯覚してしまう点があるのだろう。普通なら顰蹙を買うようなツイートが、仲間内からは「いいね」されたり、「また言ってるww」と苦笑を返されたりする。本当は画面の向こうで眉をひそめている人がいるのかもしれないが、相手がアクションを取らない限り、それはネット上ではなかったことになる。自分に好意的な反応だけを目にしているうちに、それに応えるために徐々に過激なツイートをしてしまう現象は確かにある。また受け手側も、周囲が「いいね」を押しているからアリなのだと錯覚し、感覚が麻痺していくのだろう。
ツイートが炎上した場合、かつては即刻アカウントを削除する人が多かった。しかし今回紹介した学生たちは皆、すぐにはアカウントを消さずに粘ろうとしていた。さらに「凍結された場合はこちら」と最初からサブ用のアカウントへ誘導していることもある。いったんやり過ごせば、次第に炎上の注目度は下がると知っているのかもしれない。もしくは炎上してもなおアカウントを消せないほど、そこでのつながりにしがみついているのかもしれない。