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宇多田ヒカル「Fantôme」がCD販売モデルに止めを刺した? 音楽ジャーナリスト・宇野維正氏が語る日本の音楽業界復活のカギとは

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BLOGOS編集部

「1998年の宇多田ヒカル」に続いて「くるりのこと」を上梓した音楽ジャーナリスト・宇野維正氏。宇野氏は、近年、日本とアメリカをはじめとする海外では音楽シーンの盛り上がりに「絶望的な差がある」と指摘する。こうした「差」はなぜ生まれてしまったのだろうか。そして、今後再び日本の音楽シーンが輝きを取り戻すために、どのようなことが必要なのだろうか。前回に引き続き、宇野氏に聞いた。(取材・文:永田 正行)

日本はストリーミングへの対応が遅すぎた

前回、「1998年の宇多田ヒカル」を上梓した際に話をうかがった時、現在の日本の音楽業界のビジネスモデルは、多くの人にCDを買ってもらうという形から、ライブやファンクラブに注力するように変化しつつあって、それぞれのアーティストのファンがどんどん囲い込まれていると指摘されていました。

宇野:日本の音楽業界による囲い込みという点で最も顕著なのは、ストリーミング配信の出遅れですよね。つい先日、Spotifyのサービスが始まりましたが、ここまで日本でこぎつけるのに7年かかったと聞いてます。でも、既にアメリカでは、音源による収益の半分がストリーミングで、残り半分がCDとダウンロードという状況になっているんですよ。

海外ではSpotify、Apple Music、そして日本にはまだ進出していないPandraといったストリーミング・サービスの普及によって、音楽のいわゆるライト・リスナーが増えたんです。一方、日本の音楽業界はヘヴィなリスナーや熱心なファンにお金をつかわせる策ばかりを練って、なんとか減収のペースを遅らせようとしてきた。今は、そのツケが全部回ってきているような状況にあります。

チャンス・ザ・ラッパー(Getty Images)
特にアメリカの音楽シーンは急進的で、今やCDを出さないどころか、ダウンロード販売すらしないチャンス・ザ・ラッパーのようなアーティストも出てきています。彼は地元シカゴでフェスを主宰するとスタジアムをいっぱいにするほど人気があって、そこにはカニエ・ウェストがサプライズ・ゲストでやって来たり、つい先日もオバマ大統領からホワイトハウスに招待されたりと、今年の音楽シーンの顔となっています。

また、海外ではレコード会社がこれまでの権利ビジネスから排除されつつあって、例えば、フランク・オーシャンは、わざわざレコード会社との契約を満了するために、セカンドアルバム「Blonde」をリリースする前日にまったく別の音源をビジュアルアルバムとしてApple Music独占でリリースしました。

つまり、レコード会社から完全に自由な状態になってから、正式なセカンドアルバムをダウンロードとストリーミングでリリースしたのです。「Blonde」はまだCDとして商品化されていませんが、自分も含め、おそらく世界中の批評家が今年のベスト・アルバムに挙げることになるでしょう。海外では、もう完全にCDの時代は終わってしまったんです。

-日本の音楽業界とは、もうまったく違う状況になっているんですね。

宇野:音源に対する考え方は、もう完全に別の星のようですね。もちろん、ストリーミングのビジネスモデルは、ドレイクやウィーケンドのような世界中で何億ストリーミングもされるような、英語圏の一部の人気アーティストにとって有利にできています。ネットの世界はどのジャンルもそうですけど、一極集中しがちですよね。でも、もうメインストリームはそこにしかない以上、遅かれ早かれ、野心を持った日本のアーティストもそこに飛び込んでいくしかないでしょう。

そういう意味では、インディーズは別として、日本のメジャー志向のアーティストの未来は相当厳しいと思います。実際、現状でも全体のCDセールスからジャニーズと48系グループとLDH系グループ(EXILE、三代目J Soul Brothersなど)を引いたら、何が残るのかという話です。そこと、ドリカムやサザンのCDを買う40代以上の人たちが支えているような状況ですから。

今年の年末に、SMAPのベストアルバムが出ますが、それが日本では最後のメガヒットアルバムになるのではないでしょうか。でも同時に、「最後に買ったCDがSMAPのベストアルバム」となってしまう人も多いと思います。

ただ、若い世代にはかなり期待もしているんです。残念ながら、今の30代前後の世代は、戦後の日本の中でも突出してドメスティック志向の強いリスナーの割合が多くなってしまった。その背景には、レコード会社が洋楽CDのレンタルに規制をかけたり、洋楽部門の縮小によってまともに日本盤をリリースさえしなくなったり、ストリーミング・サービスに非協力的であり続けたことがあります。でも、そこに変化の兆しはあります。

実際、一部の20代以下のミュージシャンの作品には、これまでの日本の音楽とは確実に違う空気が流れていると感じることが多い。彼らにとって、チャートの上位はアイドルと90年代にデビューしたベテラン・ミュージシャンばかりの日本よりも、フランク・オーシャンやチャンス・ザ・ラッパー、あるいはアヴィーチーやスクリレックスのようなEDMのDJでもいいですけど、そういう若いアーティストがどんどん成功を収めている海外の音楽シーンの方が魅力的に見えるのは当然でしょうからね。

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