- 2016年10月18日 15:18
トイレを借りて200万円!? マンハッタントイレ事情 - Wedge編集部
9月17日、マンハッタンのチェルシー地区で手作りの爆弾が炸裂し、多くの負傷者が出た。2001年9月11日の同時多発テロ以降、ニューヨークではいくつか未然に阻止されたテロ計画の報道はあったものの、大きなテロ事件は起きていない。
だが今回の事件により、市内中で再びテロ警戒態勢がしかれはじめた。その余波はあらゆるところに及んでいるが、予想していなかったのは公衆トイレの閉鎖である。
閉鎖されたリンカーンセンターのロビー階トイレ
先日リンカーンセンターのデビッド・ゲフィン・ホール(旧アベリー・フィッシャー・ホール)のチケットを買いに行ったついでにロビー階にあるトイレに寄ろうと思ったら、ドアの前がチェーンで閉鎖され、その前には警察官が2人立っていた。
清潔に管理されていて、ほとんど混まないデビッド・ゲフィン・ホールのトイレは、ニューヨーカーにとってありがたい、貴重な公衆トイレの一つだった。テロ警戒なら、巡回などを増やすことでどうにかならないものなのか。そうでなくてもニューヨークの公衆トイレの不足は、深刻な社会問題なのである。
ニューヨーカーが感嘆する東京のトイレ事情
日本を初めて訪れたニューヨーカーの友人が、感嘆して最初に言ったことは、「清潔なトイレが各駅ごとにある!」だった。たしかに今の東京の都心部では、どのメトロ駅にもきれいに維持された西洋式の水洗トイレが設置されていて、本当にありがたい。駅がなくても、近くにコンビニがあればトイレにはこまらない。移動中に緊急事態が起きても、安心である。
それに比べると、ニューヨークのトイレ事情はかなり遅れている。日本から来た知人を案内するときは、レストランを出る前などに必ず、「お手洗いは大丈夫ですか?」と確認している。街の真ん中で突然に、「トイレに行きたい」と言われると、長年住んでいる私でも、場所によっては本当に途方にくれる事態になる。スマートフォン用に、公衆トイレを探すアプリがあるほどなのである。
そんなわけで、ニューヨークを訪れる人たちのために、こちらのトイレ事情をちょっと紹介してみたい。
ミッドタウンならグランドセントラル駅などへ
まず地下鉄の駅にトイレなどというものはなく、係員用のトイレには鍵がかかっていて一般人は使用できない。ニューヨーカーには60年代、70年代には地下鉄のトイレは麻薬中毒者のたまり場になっていたという記憶があり、たとえ鍵がかかっていなくても一般人は近づこうとはしないのだ。
もっともグランドセントラルステーション、ペンシルバニアステーションなど、郊外電車の出る駅には、広い公衆トイレがあって特に女性用は常に列が並んでいる。
タイムズスクエア周辺なら、郊外への長距離バスが出るポートオーソリティーバスターミナルが便利だ。またブライアントパークの42丁目沿いにあるトイレは、個室数は少ないけれど、ニューヨークでもっとも清潔な公衆トイレと言われている。
セントラルパークには10カ所ほどの公衆トイレがあり、オンラインで場所を検索できる。ただし冬場は使用できない場所もあり、また日が暮れると閉鎖してしまうので利用するなら明るいうちが原則だ。五番街近辺なら高級デパートのサックスフィフスアベニュー、あるいは冬はスケートリンクになるロックフェラーセンターの、NBCのビルの地下にある公衆トイレは大きくて便利だ。
デパートなど大手の販売店
商業地区のミッドタウン周辺は比較的公衆トイレ事情が良く、ブルーミングデールズやメイシーズなどのデパートメントストア、コロンバスサークルにある巨大ショッピングビルのタイムワーナービル、グルメスーパーのホールフーズなどにも、きれいに管理されたトイレがある。
またセンチュリー21やバーリントン・コートファクトリーのような大手アウトレット系の店、このところ店舗数がかなり減ったが大手書店のバーンズ・アンド・ノーブルなども、店内に一箇所はトイレがあるので重宝する。
ただしいずれも店の都合で、清掃中などは締め切ってしまうので、あまりギリギリになってから駆け込まないよう注意が必要だ。
グリニッジビレッジ、ソーホー周辺では
これが大きなビルの少ない南のほうに下がると、かなり場所が限定されてくる。ワシントン広場の周辺、ソーホー周辺などは観光客にも人気のエリアだが、公衆トイレらしきものはほとんど皆無。お店に入って借りるしかない。
カフェやバー、レストランなどには、必ず入り口に「Restroom for customers only」(お手洗いは顧客専用)と書いてあるので、どうせならちょっと入ってみたいお店を選ぼう。混みあう時間でなければ、コーヒー一杯、ビール一杯でも嫌な顔をされることはない。またニューヨークの多くのレストランやバーでは、夕方4時から7時くらいまでHappy Hoursがあり、ビールやカクテルを割安で飲める。観光中のトイレ休憩に利用するのにお奨めだ。
テイクアウト用の店はトイレがないところも多く、マクドナルドなどの大手ファーストフードにはトイレがあるが、場所や客層によってはあまり清潔ではないこともある。
スターバックスが市内中に出来たときは、トイレ難民の救世主となったけれど、昨年くらいから、たとえ顧客でもトイレを使わせないスターバックス支店も増えてきた。だからトイレ目当てなら、コーヒーを買う前にまずトイレを確認したほうが良い。
子供連れなら、聞いてみる
日本のように、トイレつきのコンビニストアという便利なものは、ニューヨークにはない。そもそも日本のような形態のコンビニストアというものがマンハッタン内ではほとんどなく、コンビニ元祖のセブンイレブンなども品揃えはかなり貧相だったりする。
その代わりにDuane Readeなど大手のドラッグストアが、最近ではサンドイッチ類などの食料品まで扱うようになってきて、市民にとっては便利な存在だが、残念ながらここにもトイレはない。同じドラッグストアでもCVSチェーンは、お年よりや子供を同伴していると、従業員用のトイレを貸してくれることもある。
「May we use the restroom?」(お手洗い使えますか?)と聞いてみること。
ホテルならよほど小さな個人経営でもない限り、ロビーにトイレがある。ただし地下などわかりにくい場所にある場合、または鍵を借りなくてはならないこともあるので、警備員やコンシェルジュなどに「Where is the restroom?」(お手洗いはどこですか?)と聞いたほうが良い。
ちなみにアメリカ英語でtoiletというと便器そのものを指すのでrestroomや bathroom あるいはmen’s room, ladies’ roomという言い方のほうが一般的だ。
トイレを借りて2万ドル……
不自由しているのは観光客ばかりではなく、ニューヨーカーも同じである。友人の知り合いの女性がある日、アッパーイーストサイドでトイレに行きたくなった。周辺は高級コンドが並ぶ住宅街で、公衆トイレもホテルもない。
とっさに彼女は近くにあったFuneral Homeに飛び込んだ。お通夜、お葬式、メモリアルサービスなどをしてくれる、日本でいう葬儀場のようなホールのことだ。受付で言われるままに記帳をして、トイレを借りて出てきたそうである。
するとその2カ月後、彼女の自宅に見知らぬ法律事務所から2万ドルの小切手が送られてきた。何と彼女がトイレを借りるために記帳したFuneral Homeでは、そのときたまたまある男性のお通夜をしていたらしい。おそらく天涯孤独だったその人物の遺産は、お通夜に来た人たちの間で分配するように、と遺言が残されていたという。
彼女はさすがに困惑して、全額をチャリティに寄付したそうである。Oヘンリーの短編のようなこの話、嘘偽りなく実話である。
Funeral Homeはマンハッタン中にあるけれど、トイレを借りる場所としては上級者クラスなので、彼女の真似をすることはお奨めしない。
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