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プレイステーションVRも話題、VRによる圧倒的な「体験」 仮想現実技術が変える我々の現実空間 - 塚越健司

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疑似体験としてのVR
「疑似」とは何か

 前回の連載で筆者はAR技術が「空間の個人化」を促進すると述べた。今回取り上げたVRもまた、空間の個人化を促進する一面が認められるだろう。バーチャルセックスなどはその極みであり、人を介さず自分だけの空間構築が可能になる。本稿は最後により重要な論点として、VRを利用した疑似体験による現実空間のさらなる複雑化について考えたい。

 例えばVRジャーナリズムの圧倒的な映像体験は、従来の文字やそれに伴う人の想像力を超える力を秘めている。故にVRの圧倒的な「体験」を、人々の感情操作のための道具として利用することには注意が必要だ。映像の迫力を前に新たな現実感覚を受け付けられてしまう危険性があるからだ。

 ジャーナリズムは出来事の正確さはもちろんのこと、ペンによる主義主張が不可欠であるが、VRはペンの補強というには十分すぎるほどの影響力を持つ。仮の話だが、実際の戦場にカメラを設置し戦場を体験させるVR映像をつくるとしよう。ゴーグルをかけたユーザーは戦争を体験するだろう。しかし、A国とB国のどちらにカメラを設置したかによって、戦争体験から感じる我々の感覚は異なるだろう。自分の隣で倒れてゆく兵士を見れば、相手国に対する嫌悪感が増すのは当然のこと。こうした例は極端ではあるが、カメラの設置場所ひとつをとっても、VRが与える影響力の強さを考えれば、映像は慎重に製作されなければならないことは想像に難くない。

 当然のことながらVRで表現された空間は現実=リアルな空間ではない。現状の技術では五感すべてをVRで再現することは難しく、我々はそれがVR=疑似体験であることを理解している。故に、上述したような危惧は考えすぎだ、という意見もある。バーチャルセックスによって若者がますます恋愛に消極的になるといった意見が巷に散見されるが、実際にバーチャルセックスに慣れてしまえば、それがどのような快楽を与えるのであれ、あくまで様々なアダルトツールの中の一つとして消費されることになるのではないか、というものだ。VRジャーナリズムも同様に、それがVRであること、つまり疑似体験であることを理解すれば、現実と疑似体験が区別されるということだ。

 だがインターネット上で日々生じる炎上事件をみるにつけても、我々はみたい情報だけを取捨選択しがちである。米憲法学者のキャス・サンスティーン(1954〜)が述べるように、インターネット空間においては同一意見を持ったグループが集まると、より同一意見への偏りが強化される「集団極化」が生じる。ネットを通じたVR動画が普及する未来においては、みたいもの/みせたいものだけを、みる/みせることが可能になる。これはユーザーにとっても映像提供者側にとってもより快適な空間の構築が可能となる一方で、我々の政治や性に関する意識、コミュニケーション作法上の共通前提の乖離を意味する。

 政治であれ性であれ、みたいものだけに照準を合わされた映像を雨あられのようにみせられる時、疑似体験の殻を破り、何が本物の現実であるかを志向する者はどれだけいるのだろうか。圧倒的な疑似体験は、現実にどれだけ介入するのだろう。疑似体験と現実体験との境は、ますます不明瞭となる現在の姿だけが浮かび上がる。付言すれば、そうした現実に関わる体験に関わる意識は、今後ますます現実をつくる側とつくられる側に大きな格差を生んでいくだろう。

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