- 2016年10月16日 12:24
プレイステーションVRも話題、VRによる圧倒的な「体験」 仮想現実技術が変える我々の現実空間 - 塚越健司
1/2前回はポケモンGOを題材に、AR技術による空間の個人化の問題を扱った。個人の思い出にフィットした情報を現実空間に表すARは、ますますゲームやコミュニケーションツールとして利用されていくことだろう。その一方、個人にフィットした情報空間の構築技術に関しては、仮想現実=VR技術も同様の注目を浴びている。そこで今回は、空間の個人化の観点からVR技術について考察したい。
VR技術の大流行
VR(Virtual Reality:仮想現実)について簡単に説明しておこう。仮想現実と呼ばれることからもわかるとおり、VRはコンピュータゲームのような現実ではない空間を構築することである。ただし昨今のVRが注目されているのは、目の前のすべてをVR空間にするVRゴーグルを指すことが多い。簡単なものであれば映画館の3DゴーグルなどもVRに該当するが、最新のものは視覚に限らず聴覚や触覚など、様々な感覚を同時に刺激する器具と組み合わせるものもある。2016年はVR元年とも呼ばれているが、その発端となったのがVRを用いたヘッドマウントディスプレイ(HMD)の「オキュラスリフト」と「プレイステーションVR(以下PSVR)」である。
VRHMDの先駆者は何と言っても「オキュラスリフト」であろう。1992年生まれのパーマー・ラッキーは自らオキュラスリフトを製作し、彼を中心に「オキュラスリフト社」が2012年に設立された。ラッキーはクラウドファンディングという民間の資金募集システムを利用し240万ドルを集めたことでも注目を浴びたが、同時にあのFacebookのマーク・ザッカーバーグCEO(1984〜)が注目することになる。その後ラッキーとザッカーバーグはVRやSFの話題で意気投合し、2014年、オキュラスリフト社は20億ドルという破格の値段でFacebookに買収される。こうして順調に開発を進めたオキュラスリフトが、2016年3月に599ドルで発売された※1。
オキュラスリフトを利用するには高スペックのパソコンと、オキュラスリフトに対応したゲームをダウンロードする必要がある。ゴーグルとイヤホンを装着することで密閉された空間に投げ出されたユーザーは、様々な体験が可能になる。VRで表現されたジェットコースターに搭乗したユーザーは、そのあまりの迫力に腰を抜かしてしまうこともしばしばあり、その再現度の高さが窺える。
※1:なおオキュラスリフトの創業者パーマー・ラッキーに最近大きな問題が生じた。ドナルド・トランプを支持する「オルタナ右翼」と呼ばれるネット発の集団が現在アメリカで大きな話題となっているが、そのオルタナ右翼の集団が設立した「ニンブルアメリカ」というNPOに、ラッキーが資金を提供したという報道がなされた。ラッキーはこれを認めるが(提供額は1万ドル)、自身はトランプを支持するものではないと釈明。しかしラッキーに失望したVRゲーム開発者たちからは非難が殺到。中にはオキュラスリフトに自社のVRゲームは対応させない、と宣言する企業も現れている。西海岸のエンジニアとオルタナ右翼の関係については稿を改めて論じたい。
次に、10月13日に発売が開始された「プレイステーションVR(PSVR)」だ(価格は44800円だが、その他専用のセンサーとプレイステーション4が必要になる)。9月に行われた「東京ゲームショウ2016」でも大きな注目を浴びたPSVRは、「バイオハザード」など人気タイトルのPSVR版が出展された。その他のVRゲームを含めて110タイトルものVRゲームが出展されたことも話題を呼んでいるが、オキュラスリフトやPSVRを中心に、大きなVR産業が形成されつつある。
VRジャーナリズム
ダンボールとスマホでつくるVRゴーグル
VRの可能性はゲームや映画といったエンタメ産業に限定されない。コンピュータで構築されたポリゴン映像のVRの一方で、現実の映像を特殊なカメラで360度すべてを記録することで、現実空間を再現することもVR技術が可能にする。ニューヨーク・タイムズ(以下NYT)やウォールストリートジャーナルといった報道メディアは、VRを利用した「VRジャーナリズム」を展開している。2015年11月からNYTはスマホ向けアプリ「NYT VR」を発表。NYTはグーグルと提携して100万以上の購読者にグーグル製のダンボールでできたスマホ用ビューアーを無償で提供した。この簡易的なビューアーはユーザーの目の位置にスマホを装着する仕様になっており、手軽にVRが楽しめる(これらは15ドル程度の安価な値段で、またグーグル以外からも購入できる)。
NYTVRでは、シリア、南スーダン、ウクライナの難民である3人の子供の日常が映像として公開されている(リンク先の映像はパソコンで視聴可能な360度対応の動画だが、アプリとゴーグルを利用したVR版ではよりその場の臨場感を感じられるものとなっている)。スマホ越しに映像をみるユーザーには、その場所に自分がいるような体験が可能になる。イヤホン越しに人々の会話や風の音がきこえ、ユーザーが首を動かせば360度すべての光景を見ることができる。ユーザーはこうして実際の現場にいるかのような体験を通して、文字では伝えきれない感覚をVRを通して補完する。こうした動きの中、NHKも2016年2月から「NHK VR NEWS」を開設しており、映像をVRで配信している。
視聴から体感、体験へ
エンタメから福祉、アダルト産業まで
VRは他にも様々な活用が期待されている。グーグル・マップのような地図アプリと連動することで、ゴーグルをかけて行ったことのない街をユーザーが歩いているかのような体験も可能になるだろう。さらに数年単位で映像を保存しておけば、自分の生まれた街の映像が、時間を経ても変わらず保存されることになる。すでに取り壊された建物にもVRを通して入ることができるということだ。昔住んでいた街をVRを通して歩けることは、高齢や病気のため家から出歩くことが困難になった人にとってどれほど心の癒やしになるだろう。このように、VRは福祉分野からも期待されている。
エンタメ産業もさらにVRを活用できる。野球やサッカーなどの会場にカメラを設置する。するとユーザーは家にいながらゴーグルをかけることで、まるでスポーツ会場にいるかのような体験を楽しめる。選手の活躍はもちろんのこと、隣の人の興奮や会場に響き渡る声援がきこえてくるのだ。アーティストのコンサート会場にカメラを設置すれば、生の迫力ある歌声がきこえてくる。
そして、VR技術はアダルト産業においても大いに注目を浴びている。3Dで表現されたアニメキャラや現実の人間を用いたアダルトVR作品はすでに製作されており、東京で2回開催された「VRアダルトエキスポ」といったイベントもある。アダルトVRでは、VRゴーグルとセンサー、そしてラブドールを用いることで、ユーザーの動きに合わせてVR上のキャラや人が動いたり、局部に装着した器具が振動するようなものもある。要するに、VRを利用したバーチャルセックスが可能になる、ということである。
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