記事

東京電力と労働法

 非国民通信さんが私も記事を提供させていただいているBLOGSに「東京電力はよくやっているのに」という記事を掲載されていたので、これについて少し。

 元記事を読んでもらえばそれで足りる話ではありますが、私なりに氏の言わんとすることをまとめると以下のようになるかと思います。
 労働者は経営者ではないのだから、末端の労働者までもが経営責任を負わされることはない。東京電力の従業員が企業側に売り渡す仕事量が減ったわけでもないのに、賃金をカットされるのはおかしい。

 確かに東京電力は責められるべき事故を起こしたが、だからといって東京電力に対してなら何をしても許されるわけではない。

 経営努力で給与水準を回復させるのは、賞賛されこそすれ非難されるものではない従業員の賃金水準を極限まで低く抑え込むことで低価格のサービスを提供している企業が幅を利かせているのが今の日本。何でも給与カットとリストラで対応すればいいという発想はおかしい。
 氏の言わんとすることはわからない話ではありません。現在の法体制(労基法)では労働者は労務を提供しさえすえば時間に応じて報酬を受け取れることになっております。そして、賃金を受け取る権利は労働者の権利なのだから、東電の社員だろうがなんだろうが、労働に応じて報酬を受け取れるはずだという極めて正論の議論です。

 確かに労働法上は正論かもしれませんが、果たしてこれが良いのかと考えると、私はかなりの違和感を覚えました。実際、労基法が万能というわけではなく、だらだら長時間労働をして、超勤を稼ぐ者がいるという批判はかなり前から存在します。

 それに氏は「労働者であっても気分はエグゼクティヴな人が目立ちますけれど」として批判しておりますが、私は労働者が経営者の考えを理解すること、会社に今何が求められているのか自ら考え、自ら行動するというのは必要なことではないかと思っております。

 どうも氏の書かれたものを拝見させていただくと、労働者保護の観点から書かれているように思いますが、私は労働者のことを本当に考えれば、単に命ぜられたことをそのまま、命ぜられた時間働けば給料がもらえるという発想は、あまりに労働者の人格を軽視しているのではないかと考えます。

 もちろん、「名ばかり管理職(店長)」などの問題があるので、こうした経営者視点を悪用する者がいないわけでもありません。また、パートや派遣職員は限られた業務しか行わないかわりに、それなりの賃金しか支払われていないわけですから、彼(女)らに経営者視点を求めるのも妥当ではありません。

 しかし、理想論になってしまうかもしれませんが、正社員として会社の未来を担うことを嘱望されている方々が、言われたことだけをやっていれば良い、決まった時間だけ勤務すれば良いという発想で仕事をしているのは使用者にとっても、労働者にとっても不幸なことかと思います。

 もちろん仕事は仕事にしかすぎず、給料をもらうことが第一義です。しかし、それだけで良いのかと私は思うわけです。正当性や妥当性も何も考えずに言われたことだけをやる、まさに旧日本軍と同じではないでしょうか。「上司の命令だから行った、私は一生懸命仕事をしただけだ。」というのは、「上官の命令だから行った、私は一生懸命戦争をしただけだ」と殆ど同じロジックになってしまうのではないでしょうか。

 丸山真男は東京裁判の傍聴を通してこうした日本人の(戦争)責任の取り方を批判したわけですが、東電社員は頑張っているのだから、それに報いてあげなければならないというのは、それとあまり変わらないのではないでしょうか。



 いくら頑張っても方向性が間違っていれば何の意味もありません。そしてその方向性の正しさは結果のみが示してくれるものかと思います。原発推進の過程で今回のような事故を起こし、マイナスの状態に陥ってしまい、それを0に近づけるために努力していてもそれは、単なる償いであり、会社全体がプラスになる前から、今まで通り(プラス)の報酬で報いてくれというのは無理があるのでないでしょうか。

 実際、JALにしても、山一証券にしても一般社員は皆上司の命令に従って頑張ってきました。しかし、方向性がおかしかったが故に会社はつぶれてしまったわけです。そうなれば当然、彼らに対し、決められた時間働き、頑張ったのだから、正規の給料を払うべきだとはならないわけです。

 むろん、一般社員が自分で考えて、会社の経営はおかしいと思っても、それだけで会社の経営方針が変わるほど甘いものではないことは百も承知です。しかし、いろいろ考えていれば、少なくとも準備だけはできるのではないのでしょうか。それを何もせず(考えず)に、規定時間働いた(頑張った)から、給料を払ってくれというだけで、良いのか、その点に疑問を覚えたが故の今日のエントリーです。

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