記事

「改憲国民投票」、近づく? - 鈴木耕

2/2

 だが「国民投票」とは、そんなに万能なのだろうか。確かに民主主義の大事な手法のひとつであることは間違いないだろう。けれど、全幅の信頼を置くことはできるのか。
 それを考えるとき、いつもぼくの頭に浮かぶのは、ナチス・ドイツの先例である。“民主的な制度”によってドイツ首相に選ばれたヒトラーは、矢継ぎ早に多くの国民投票を実施、その結果、ドイツは次第にファシズムの泥沼に踏み込んでいった…という歴史だ。
 それを「考え過ぎだ。日本ではそんなことは起きない」と一笑に付す人もいるけれど、麻生太郎財務相の「ナチスのやり方を学べばいい」発言や、「民主主義とはものごとを選挙で選ばれた議員の数で決めること」と言い放つ安倍首相の、安保関連法や特定秘密保護法の「強行採決」ぶりを考えれば、決して単なる危惧だとは思えないのだ。
 朝日新聞(10月10日付)の「文化・文芸」欄が「国民投票を考える」という特集記事を載せていた。ぼくの危惧と似たようなことを話してくれている方がいた。以下、少し長い引用になるけれど、とても分かりやすい。

 EUの雄・ドイツ。その憲法にあたるドイツ基本法には、国民投票を明確に定めた規定がない。「戦前への反省から外したと言われます」。ドイツ近現代史に詳しい石田勇治・東京大学教授はそう語る。「実際、戦後ドイツでは一度も国民投票が行われていません。徹底した間接民主制に切り替えた結果です」
 戦前は逆に、直接民主制的な要素を多く持っていたという。「大統領を国民が直接選ぶ制度もあり、その大統領がヒトラーを首相に任命した」
 首相になったヒトラーは国民投票を連発した。ドイツが国際連盟から離脱したことを承認するか否か(1933年)、自身が総統の地位に就いたことを承認するか否か(34年)……。「投票テーマは政府が決めていた。いわば『上からの』国民投票です。国民が賛成するであろうテーマを選び、十分な情報を与えず投票させた。狙いは、国民に支持された指導者だという印象を内外に広めること。国民投票が独裁の正当化に使われたのです。(略)
 今夏の参院選の結果、「改憲勢力」が衆参両院で3分の2に達し、憲法改正が政治日程に上がる可能性が浮上してきた。国民投票についてドイツの教訓から有権者が留意すべきポイントとして石田さんは次の4点を挙げた。
 ①有権者の求める「下からの国民投票」か、行政主導の「上からの国民投投票」か ②投票前に徹底した情報開示が行われるか ③有権者に十分な検討時間と自由な発言空間が与えられるか ④民意を反映する投票方式になっているか。
 「現行の国民投票法では最低投票率が設定されておらず、投票者が少なくてもその過半数が賛成すれば改正が承認されたとみなされる。これで民意が反映されたと言えるのか、改めて考えるべきだ」(略)

 石田教授の意見に、ぼくは深くうなずく。ことに①の「下からの国民投票」か「上からの国民投票」か、という問題の設定は、決して見逃すことのできない項目だと思う。
 もし、次期衆院選後に安倍首相の主導で「改憲国民投票」が発議されるとすれば、それはまさに行政主導の「上からの国民投票」そのものだ。少なくとも現在、国民の間から「早急に国民投票をやるべきだ」などという意見が澎湃と湧き上がってきている、というような状況にはない。ひたすら安倍首相個人とその取り巻き連中が主張しているだけだ。
 安倍首相は、最初は「緊急事態条項」なるものの新設を手始めに「お試し改憲」から始める意向といわれている。
 北朝鮮の脅威を取り上げ、中国の尖閣諸島や海洋進出への警戒感をあらわにする。その上で「緊急時の対策として『緊急事態条項』を憲法に書き込む必要がある」と訴えればかなりの国民の賛同を得るに違いないと、安倍首相は踏んでいるのだろう。これもまた、石田教授の言う「国民が賛成するであろうテーマを選び…」という戦略と同じだ。
 そしてこれが通れば、次々に国民投票を連発するだろう。つまり「首相になったヒトラーは国民投票を連発…」と同じ手法で、最終的には「憲法9条を葬る」ことを狙ってくる。
 ②と③についても、危惧の念は消えない。とくに③については、テレビCMとの関連で、大いに危険だと思う。テレビCMには巨額の資金が必要だ。潤沢な資金を持っているのは、財界をバックにした改憲派か、市民グループが主体の護憲派か。考えるまでもない。
 さらに、ヒトラーは「自身が総統の地位に就いたことを承認するか否か」をも国民投票で決めたという。これはいま、自民党総裁の任期を延長する方向で「自民党規約改正」が論議されていることと似てはいないか。むろん、任期延長の当事者は安倍“総裁”である。国民投票ではないけれど、自民党内での民主的手続きを一応はクリアして、独裁的色合いを強めていく。

 「民主主義の中からファシズムが生まれることもある」ということを、我々は肝に銘じておく必要がある。
 石田教授の言うように「国民投票が独裁の正当化に使われた」歴史もあるのだから。それこそ安倍氏の盟友・麻生氏が、つい本音として漏らしてしまった「ナチスのやり方」なのである。

 ぼくは、安倍政権下での「国民投票」には、強い危惧の念を抱いている。

あわせて読みたい

「国民投票法」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。