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【読書感想】村上春樹はノーベル賞をとれるのか?

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村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)


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村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)

内容紹介
ここ数年ノーベル文学賞の受賞を噂され続けている村上春樹。その根拠はいったいどこにあるのか? そもそも、村上文学は世界文学たり得るのか? 村上春樹でなかったとしたら、一体誰が受賞するのか? 文学賞、とりわけノーベル文学賞は日本の文学の世界にどういった影響を与えてきたのか? 村上春樹と同世代の著者が、ノーベル文学賞の歴史をひも解きながら読み解く、世界文学の見果てぬ夢。


 この新書、『村上春樹はノーベル賞をとれるのか?』というタイトルなのですが、実際に村上春樹さんの話が中心になっているのは、最後の40ページくらいです。
 ある意味「釣りタイトル」ですので、「村上春樹さんの話をたくさん読みたい」という人は御注意ください。
 主な内容は「ノーベル文学賞の歴史、そして傾向と対策」なのですけど、これまでの「ノーベル文学賞についての本」と比較すると、「作家や作品の紹介」というより、「ノーベル文学賞を選んできた側の事情」みたいなものが、かなり詳しく書かれています。
 そして、これを読むと、「村上春樹さんがノーベル文学賞をここ数年のうちに取るのは、かなり難しいのではないか?」ということもわかるんですよね。
 ノーベル文学賞というのは、オリンピックの開催地のように「各国(あるいは、各言語圏)持ち回り」になっているようなのです。
 もともと「その年のいちばん優れた作品、あるいはいちばん活躍した作家」に与えられる賞ではないため、そういう配慮がされているのですね。
 では、今(2016年)は、村上春樹さんにとって、タイミングはどうなのか?

 こうした言語による“持ち廻り制”を考えてゆくと、日本語は、1968年の川端受賞から1994年の大江受賞までを単純計算すると26年の間隔だから、次の日本語文学者の受賞は、2020年ということになる。ヨーロッパ文学の一角にあるイタリア文学のローテーションが約20年の間隔だとすると、日本文学の約25年、約四半世紀に1回という期間は妥当なところだろう。とすると、村上春樹であれ誰であれ、三人目の受賞者は2020年(頃)に出るということになる。


 ちょうど「そろそろ」なんじゃない?
 ところが、これが「日本人枠(あるいは日本語を母語とする作家枠)」とは限らないのではないか、と著者は考えているようです。

 ノーベル賞委員会としても、日本語にだけ“持ち廻り制”を適用するのではなく、中国・韓国、いずれは東南アジア、中央アジア、西北アジア、そしてインド・パキスタン、イラン、中近東の言語、文学に“持ち廻り”と配当しなければならなくなることは必定だろう。だとすると、2012年の莫言の受賞は、これまでの日本語枠、新しくは東アジア言語圏の枠での受賞と考えることができ、これは大江健三郎受賞の1994年から18年後の受賞ということになる。そして、次の18〜20年後の「東アジア言語圏」の“持ち廻り”の順番が来た時は、ほぼ確実に韓国語(朝鮮語)、中国語(台湾、香港、在米・在欧華僑、華人の文学)に絞られるだろうということだ。つまり、日本語文学の“第三の受賞者”はよほどのことがない限り、当分、現れることはないのである。
 南アフリカのJ・M・クッツェー(1940〜)、トルコのオルハン・パムク、カナダのアリス・マンロー、中国の莫言、ベラルーシのスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(1948〜)。ごく最近の受賞者を見れば、これまでに受賞したこなかった国、地域、言語・文学にノーベル賞が与えられているという傾向がはっきりしている。アジアにおいても、いつまでも韓国語、インドネシア語、ベトナム語、タイ語、フィリピン語の受賞者がゼロであってよいはずがない。そう考えると、2020年の期待も、萎まざるをえなくなる。2012年に、村上春樹か、莫言かという論議があったが、案外、あれは東アジアにおけるノーベル文学賞の分岐点であったと語られる時代が来るかもしれないのである。


 作品や作家への評価だけではなく、「ノーベル文学賞」を決める人たちの「傾向」が、かなり細かく分析されているんですよね、この新書では。
 「持ち回り」であることや、対象となる国、言語が多様化していることを考えると、村上春樹さんの「順番」は、しばらく回ってきそうにない、というのも頷けます。


 さらに、著者は、村上春樹さんのライバルとなりうる作家として、カズオ・イシグロさんを挙げているのです。
 イシグロさんは日系のイギリス人なのですが、ノーベル文学賞を選考する人たちは、彼を「日本文学の影響を受けている作家」とみなし、もし村上春樹さんより先に受賞することがあれば、さらに村上春樹さんの優先順位は下がるのではないか、と。
 2012年の莫言さんが「アジア枠」だったとしたら、次の「アジア枠」は、その10年後くらいでも、おかしくなさそうです。
 しかも、その場合は、これまで受賞者を出していない国、言語が優先される可能性もあります。
 ただ、巷間伝えられているブックメーカーのオッズでは、村上春樹さんは毎年人気になっているわけで、彼らも、こういう事情を知らずにオッズをつけているわけじゃないとは思うのですけどね。
 それもまた、ブックメーカーの作戦で、来そうもない候補者に人気を集めて、ひと稼ぎしようとしているのだろうか……


 この新書を読んでいて興味深かったのは、「ノーベル賞を授賞されなかった作家たち」について、かなり詳しく紹介されていることでした。
 けっこう「誰、この人?」と言いたくなるような作家もいるノーベル文学賞なのですが、元々エンターテインメント系やファンタジー、SF、児童文学などには冷淡です。
 原則的に「1年にひとり、生きている作家のみ」なので、「えっ、この人がもらってないの?」という事例が少なからず出ています。
 長生きするのもまた、ノーベル文学賞をもらうための条件、と言えるのかもしれません。
 著者は、谷崎潤一郎や安部公房は「残念ながら、間に合わなかった(授賞される前に寿命が尽きてしまった)のではないか」と述べています。
 ノーベル文学賞の選考委員のなかで、日本文学に詳しい人はほとんどおらず、これまでの日本人の候補者に対しては、委員会から日本の文学者などへのヒアリングが行なわれていたことも紹介されています。
 これだけさまざま国、言語、そして作品があるのですから、「世界のなかで一人の作家を選ぶ」というのは、かなり無謀な行為でもあるのです。
 選考委員も、世界中の作家に精通しているわけではありません。
 そういう意味では、「ムラカミ・ハルキ」は「世界中で知られている作家」ですから、有力な候補であることは間違いないでしょう。

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