- 2016年10月11日 11:24
「自殺」は身近な社会問題。初の全国4万人意識調査でわかった課題解決の糸口
日本の自殺死亡率は先進7か国でトップ
「自殺したい」 面と向かってそう言われた時、即座に自殺を思い止まらせる明快な答えを返せる人はどれほどいるだろうか?筆者が過去にそうした場面に直面した時、やっとの思いでひねり出したのは、「どうか自殺しないでほしい」と訴える一言だけだった。
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日本では、1998年に自殺者数が急増して以来、自殺者が年間3万人を超える時期が14年間も続いた。2010年以降、日本での自殺者は6年連続して減少しているものの、昨年の段階でも年間2万4025人が自ら命を絶っている。これは単純計算すると1日平均65人が自殺で亡くなっているということであり、極めて憂慮すべき事態である。
日本の自殺率は先進7か国においても突出して高い。その数値はアメリカの約2倍、イギリスの約3倍にも上る。とりわけ若年世代(15歳~39歳)の死因第1位が自殺であるのは日本だけだ。
自殺は個人的にも社会的にも大きな損失だ。また、今年4月には改正自殺対策基本法が施行され、都道府県及び市区町村に「自殺対策計画」の策定が義務付けられた。今後も引き続き社会全体で「自殺しなくてもいい環境」を作っていく必要があることは論を俟たない。

撮影:畠山理仁
解決を考えるための第一歩は、やはり実態調査である。そこで「いのち支える自殺対策プロジェクト」などに取り組んできた日本財団(笹川陽平会長)は、自殺予防週間(9月10日~9月16日)を前に、全都道府県4万人超を対象とする大規模な自殺意識調査を行なった(調査期間:8月2日~8月9日)。
これまでにも警察庁による自殺者に関する調査や、内閣府による約3千人を対象とする意識調査をが行なわれてきた。しかし、これほど大規模な自殺に関する意識調査が行なわれたのは初めてのことである。
4人に1人が「本気で死にたいと思ったことがある」と回答
日本財団による調査は自殺対策の研究者や実務家による協力を得て行なわれ、9月7日に開かれた調査結果の記者発表には、世界平和研究所主任研究員の高橋義明氏、NPO法人ライフリンク代表の清水康之氏、帝京大学大学院公衆衛生学研究科准教授の崎坂香屋子氏も同席した。この調査はインターネット調査会社のアンケートモニター登録者(調査開始時点の登録バネル総数:224万7550)の中から調査対象を抽出して行なわれた。調査対象は全都道府県20歳以上の男女(20代~50代の各年代、60~64歳、65歳以上)で、居住都道府県別でも十分な分析ができる回答数を得るため、年齢・性別・都道府県別の回収数が50を超えるまで行なった。
そこで得られた結果は「平成27年国勢調査抽出速報集計結果」に基づき、実際の年齢・性別・都道府県別人口構成比にあわせて集計されて公表された。
日本財団 自殺意識調査(速報)
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2016/img/102/2.pdf
※確定値は日本財団ホームページで公表予定

芳川龍郎氏(撮影:畠山理仁)
1)4人に1人(25.4%)が、「本気で自殺したいと考えたことがある」
2)自殺未遂経験者(過去1年以内)は全国53万人超(推計)
3)5人に1人(21.7%)が、身近な人を自殺で亡くしている
4)若年層(20?39歳)は最も自殺のリスクが高い世代
5)その他に自殺のリスクが高い人は、「身近な人を自殺で亡くした人」「他者は頼れず、人間は理解・共感できないと思っている人」「過去に虐待を受けた経験のある人」「死への恐怖が薄い・生を全うする意志が低い人」
6)自殺のリスクを高める要因は「家族等からの虐待」「生活苦」「家族の死亡」「アルコール依存」「負債(多重債務等)」など
7)自殺のリスクを抑制する要因は「自己有用感」「社会的問題解決能力」「共感力」
8)半数以上が「自殺のことで相談しない」
9)住み続けたいという人が多い地域は自殺リスクが低い地域
10)自殺を思いとどまった理由は、自殺念慮のみの人では「家族や恋人が悲しむから」が最も多く28%。一方で、自殺未遂経験者の中には「試みたが死にきれなくて」という回答も多い(自殺未遂経験1年以内の40%、1年以上前の38%)。

ライフリンク代表の清水康之氏(撮影:畠山理仁)
自殺未遂者3千人にアクセスできたことが突破口に
今回の調査では、実際に自殺未遂の経験がある人は実に7%にも上ることもわかった。これを日本の人口ベースに直すと、過去1年以内の自殺未遂経験者は53万人超と推計される。同時に「5人に1人が身近な人を自殺で亡くしている」という。自殺は影に隠れやすい社会課題だが、もはや放置しておけないレベルに達していることは明らかだ。日本財団の笹川会長は、「日々の生活の身近にそういう人がいらっしゃるということで、驚くべきことだと思います。親しく会話をしている人の中に、心の中に死を意識している人がいらっしゃる。この現実を調査結果から見た時に、これは他人事ではない。すべての社会を構成する人々が、お互いの言動や行動を気にかけながら、コミュニケーションをとっていくことが大変重要ではないか」と調査結果を受けての感想を述べた。

帝京大学大学院の崎坂香屋子准教授(撮影:畠山理仁)
孤立を生まない社会づくりが「生きづらさ」を軽減する
自殺対策は困難な課題であり、今のところ万能薬はない。しかし、社会的な取り組みを続けなければ、課題の解決はますます遠のいていく。 幸いなことに、今回の調査では、今後の自殺対策を考える上でヒントとなる結果も出た。それは上記「調査結果10のファクト」のうち、「7)自殺のリスクを抑制する要因は『自己有用感』『社会的問題解決能力』『共感力』」、「8)半数以上が『自殺のことで相談しない』」、「9)住み続けたいという人が多い地域は自殺リスクが低い地域」というものだ。生きづらさを各個人のレベルだけで解消することは難しい。時間はかかるかもしれないが、自殺対策は「孤立を生まないコミュニティづくり」や、良好な人間関係づくりという社会環境の整備から始めていかなければならない。それが結果として各個人の「生きづらさ」を軽減し、自殺者を減らすことにつながっていくはずだ。
日本財団は今後も自治体と協力しながら解決に向けた取り組みを続ける意向で、すでに東京都江戸川区、長野県と、自殺防止モデルの構築に取り組む協定書を交わした。今後は自殺者の削減に向けた具体的な数値目標を定めた上で、様々な具体策を打ち出していく予定だという。 こうした地道な取り組みが着実に成果を出し、「自殺したい」という人が一人でも減る社会になることを期待したい。
[ PR企画 / 日本財団 ]