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AIの衝撃


 小林雅一著「AIの衝撃」。
 人工知能は人類の敵か、というサブタイトルですが、答えは「否」。PCやネットに匹敵する技術がAIと次世代ロボットであり、AIと次世代ロボット技術が全ての産業を塗り替えることを描きます。

 小林さんは、デジタルの重大な新技術について、深い技術知識と洞察力に基づいて鋭く未来を展望する研究者。前作の「クラウドからAIへ」でも刺激を受けました。

 他にもAIに関しては、マカフィー/ブリニョルフソン「機械との競争」、スタイナー「アルゴリズムが世界を支配する」など優れた分析がありますが、全体を俯瞰するにはまずこの書を薦めます。

「機械との競争」
 http://ichiyanakamura.blogspot.it/2013/05/blog-post_6639.html

「 アルゴリズムが世界を支配する」
 http://ichiyanakamura.blogspot.it/2015/04/blog-post.html

 AIの歴史は小林さんが整理するとおり苦難の道でした。50年代に開発されたニューラルネットの限界をMITミンスキー教授が証明するなど、第一次、第二次にわたるブームと挫折を経ることになりました。ぼくは80年代の第二次ブームのころ、政府で開発プロジェクトに携わったため、その重たさはよくわかります。

 それが2006年以降のディープラーニングで自然言語処理が大きく進化し、ロボット産業にも革命を起こすようになったといいます。この10年でいよいよブームから本格離陸へと移行するように見えます。

 iPhoneのsiriやITサービスのリコメンデーションなどもAIですが、それ以上に注目されるのが、自動運転車、ドローン、ロボットなど形を伴った新機軸です。小林さんもここに注目しています。

 特にアメリカでは、MIT、カーネギーメロン、スタンフォードからロボット・ベンチャーが続々と登場していて、DARPA(米国防高等研究計画局)の呼びかけで開発プロジェクトも進んでいます。産官連携です。

 他方、いまそれ以上にAIやロボットを主導するのはグーグル、アップル、アマゾンなどのIT企業。彼らはネットとロボットを通じビッグデータを収集しようとしているといいます。

 かつてネットはDARPAから生まれ、大学で開発され、それが西海岸の企業群がサービス化・商品化することで世界に広がりました。AI・ロボットも、軍事→大学→西海岸の企業群へと主要プレイヤーが移ったようです。

 そしてそれは、日本政府や大学が慌てても手の届かないところに事態が移ったことを意味するのではないでしょうか。数百、数千億円タームの資金を投資し続ける企業群に、政府や大学の僅かな資金で太刀打ちできるものでしょうか。

 この点、本書が紹介するドイツ「インダストリー4.0」は、生産・物流現場をネット化し、AIで管理する国家政策で、米企業独占したIT革命がドイツ虎の子の製造業まで乗っ取るという危機感に裏付けられています。日本も戦略が問われます。

 気になるのは、日米で開発の方向性が違うという指摘。小林さんは両者をこう見ます。
 日本:人間が操作する単機能ロボットvs米国:AIを搭載して自律的に動く汎用ロボット

 背景として、日本のロボット・メーカに勤めるエンジニアの大半は、大学では機械系や制御系を専攻し、AIとは無関係であることを指摘します。ものづくりとAI・ITとが分離しているのです。これはマズい。

 もっと気になるのは、「何を作るのか」という点で日本がブレているのではという点です。
 アシモのようなヒト型ロボットに対し、かつてアメリカは冷ややかだった。するとヒト型ロボットを開発する日本のシャフトに対して霞が関は「ヒト型に市場はない」と結論付け、日本では資金が得られなかった。そしてシャフトはグーグルに買収され、関係者には衝撃が走った。今やアメリカの本丸はヒト型となっている。
 そういう構図です。

 これに関し、稲見昌彦さんも「人がロボットにしてほしいことを追求するには人が活動する環境に機能を合わせるため」ヒト型に重点が置かれると指摘していました。AIの発達により、ロボットに求める機能も進化しています。日本はいずれをも追えていないように見えます。

 AIとロボットが人の仕事を奪います。オフィスワーカーなど中間所得層の雇用がまず奪われ、非定型的な肉体労働も奪われていきます。上位にあるとみなされていた医療研究や経営コンサルなどへの転用も進みます。

 そこにとどまりません。将棋や囲碁がAIに王座を譲り渡しただけでなく、UCサンタクルーズの教授が開発したプログラム「エミー」が作曲したオペラがプロの作曲家を凌駕したように、創造的な仕事もそろそろAIの領域です。

 そこで最後に小林さんは問います。蒸気機関、自動車、重機、コンピュータなど、力の大きさや移動速度、計算能力などの面で、人間の能力を超えるマシンを人類は開発してきた。最後の砦としての「知能」もロボットやAIに譲り渡すのか。

 そして自答します。人類はそう決断するだろうと。地球温暖化、大気汚染、核廃棄物処理など人類が直面する問題は人類単独で対処しきれなくなる。人間を超える知能を備えたコンピュータやロボットが必要とされるだろうと。

 そして説きます。「知能」が人間に残された最後の砦ではない。それを上回る「何物か」を私たち人間は持っている。自分よりもすぐれた存在を創造し、それを受け入れる私たちの先見性と懐の深さだ、と。

 AIとロボットに対する漠然とした不安から、未来に対する悲観論も漂っています。これに対し、ぼくらに必要なのは、やみくもな楽観論ではなく、創造論で未来を克服していく、この姿勢なのでしょう。

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