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破壊願望しか見えてこない米国を憂う

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ヒラリーの勝利?

米国の大統領選挙がいよいよ佳境に入ってきた。9月27日(日本時間)には民主党候補のヒラリー・クリントンと共和党の候補に上り詰めたトランプの第一回目の公開テレビ討論会が行われた。当初から泡沫候補と叩かれ続け、同じ共和党の長老からさえ敬遠されながらここまで来たトランプだが、さすがにこれ以上は無理だろうという『常識』の声は今に至っても消えることはなく、今回の討論会でも、一般のメディアではヒラリー勝利を伝える報道が多かった。私も文章になった二人の具体的な発言を読みながら、これはどうみてもヒラリーの勝ちと言わざるをえないと思った。論理が首尾一貫していて、常識的で(非常識ではなく)批判を許す隙は少なく、非を認める潔さもあり、ディベートとして見れば、どうみてもヒラリー勝利としか言いようがない。

クリントン氏勝利が62%、CNN世論調査 大統領候補討論会:国際:中日新聞(CHUNICHI Web)

トランプが勝っていた!

だが、本当にそうなのだろうか。もともと論理が首尾一貫せず、非常識で、潔さを微塵も感じることができないトランプなのに、それでもここまで来たのではなかったか。そのように考えていると、案の定、トランプ優勢と感じた人たちが多く、全体としてもトランプが勝っていたという意見が多いのに、メジャーメディアの光彩に隠れてしまっていて、真実が伝わっていないという意見が沢山出てきた。

どうしてそんなことになってしまうのか。この点については、ニュース番組制作者の渡辺龍太氏のブログ記事での主張が当を得ているように思える。

このように、アメリカの田舎には、真面目に勉強や仕事を頑張って生きてきたのに、年々貧しくなっていき、もう医療保険・大学の授業料のための借金・家賃・車代を捻出するのがギリギリになっている人たちがいるのです。そういった人々が求めるリーダーを想像してみてください。今ままの状態が続く事は座して死を待つようなものなので、何であれ、現状を必ず変えてくれる可能性の高い人物を求めるのは当然です。(中略)

討論の準備をしっかりするというのは、『失言をしない』『何を聞かれても笑顔を絶やさない』という事が最重要課題であるというような、ヒラリーが元オバマ政権の国務長官だった事を改めて思い出させる、現状が変化しない事への約束の様な発言に受け取れるからです。

討論でクリントン圧勝と言うメディアは想像力が無い – アゴラ

8年前はオバマ元大統領の『CHANGE』を信じて投票したが、その期待は裏切られたと感じている人が多いという。実際、米国実勢調査局のデータによると、国民の家系水準は過去15年間停滞しており、家計所得の中央値は下がり続けている。

Income

だが、問題は経済政策における失政というだけに留まらないようだ。次のBBC記事を読むと、経済や雇用や移民等の個別の問題より政府そのものが最大の問題と多くの米国人は考えていて、政府に対する不満が民主党支持者、共和党支持者ともに爆発寸前にあることがわかる。

ピュー研究所によると、政府を信用するかどうか尋ねられると、共和党支持者の89%と民主党支持者の72%が「たまにしか」もしくは「絶対に信用しない」と答えるという。ギャラップ社調査によると、10人に6人のアメリカ人が、政府は権力を持ちすぎていると感じている。さらにアメリカ最大の問題は何かという調査では、2年連続して、経済や雇用や移民よりも政府が最大の問題だという結果になった。

連邦議会は膠着しているし、有権者に選ばれた政府関係者は無能に思える――。このように感じて不満を抱く有権者は20〜30%に上ると、アメリカン・エンタープライズ研究所の世論調査専門家、カーリン・ボウマン氏は言う。

「政治家は争うばかりで何も成果を出さないと、多くの人の目にはそう映っている。加えて、連邦議会の業務内容は1970年代から格段に増えているため、批判すべき内容が単純に増えているとも言える。国民は昔よりも政府を遠くに感じ、政府を疎ましく思うようになっている」

【米大統領選2016】なぜアメリカ人はそんなに怒っているのか - BBCニュース

渡辺氏は、『失言の有無』とか『礼儀正しい』とか『庶民的かどうか』という事が、現状の暮らしを変えられるかに関係が無いとオバマ大統領から学んだ人は、劇薬でも良いので、とにかく『本当に現状を変えられる可能性の高い人』がリーダーになるべきだ、と米国人が考えるのは論理的だと述べる。

これが背景にあるとすると、確かに、討論会のやりとりが全く違って見えてくる。ヒラリーはまさに米国民が感じている疎ましい政府の代表に見えていて、トランプはそれを破壊しようとしているゆえに支持が高まるという構図が読み取れる。要は、ヒラリーのような現状肯定、旧来の常識の尊重では、何も変わらず、変わらないということは自分たちの生活は将来に渡って絶望的と感じる一人が今の米国にはものすごく多いということだ。

シリコンバレーはどうなっているのか

ただ、確かにいわゆる『プアー・ホワイト』等の低所得者層はそのように感じていることは理解できるが、富裕層はどうなのか。特に先進技術で世界中に非常に大きな影響力を振るっているシリコンバレーで活動するエンジニア、ビジネスマン、投資家等はどのような立場なのか。

どうやらさすがにトランプ支持者は少なさそうに見える。7月14日、シリコンヴァレーの起業家/経営者/エンジニアら145名は連名で「トランプはイノヴェイションを破壊する」と訴えるオープンレターをウェブに公開した。この中には、Apple創業者の一人であるスティーブ・ウォズニアック、TCP/IPプロトコルを開発し「インターネットの父」と呼ばれるヴィント・サーフ、ネット中立性を提唱した法学者のティム・ウー、eBay創業者のピエール・オミダイア、TwitterやMediumの創業者のエヴァン・ウィリアムズ等、錚々たるメンバーが並んでいる。シリコンバレーを代表する投資家であるマーク・アンドリーセンも早い段階からトランプ嫌悪を鮮明にしている一人だ。

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