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私にとって、コンビニは世界への扉でした――村田沙耶香(1)|作家と90分|瀧井 朝世

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村田沙耶香(むらたさやか)
画像を見る 2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀作に選ばれデビュー。09年『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞を受賞。16年、『コンビニ人間』(文藝春秋 刊)で第155回芥川賞を受賞し、ベストセラーに。主な作品に『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』など。

思い入れが強すぎて冷静に書けないと思っていた

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『コンビニ人間』 (村田沙耶香 著)(文藝春秋 刊)

――まずは『コンビニ人間』(2016年文藝春秋刊)の芥川賞受賞おめでとうございます。主人公は長年にわたりコンビニエンスストアでのアルバイトをしている古倉恵子。本人はその生活に満足しているのに周囲から「30代後半で未婚・アルバイト」という点を心配されて居心地の悪さを感じています。村田さんご自身も長年コンビニでアルバイトしている点も注目されていますが、まずは受賞の実感を。

村田 少しずつ、夢ではないんだな、って思えてきました(笑)。自分がコンビニ店員であることをこんなに言われると思っていなかったので、受賞前のインタビューでもコンビニ店員についての話を熱く語っていたんです。

――これまでもコンビニでアルバイトする人って書いていますよね。

村田 はい、出てきているんです。でも、ちゃんと舞台にしたのははじめてです。自分にとってコンビニは社会との接点、世界への扉みたいなものなので、思い入れが強すぎて冷静には書けないだろうと思っていたので。

――では、なぜ今回舞台にすることを選ばれたのでしょうか。

村田 最初から、今回はリアルなものを書こうと決めていたんです。最近は『殺人出産』(14年講談社刊)や『消滅世界』(15年河出書房新社刊)のような変わった設定のものを書いていましたが、そうではなくて普通の世界の話で、できればそこにヘンテコなものを取り入れたいなと(笑)。『しろいろの街の、その骨の体温の』(12年刊/のち朝日文庫)のようなリアルなものに、ヘンテコさを融合させることがいつかできたらいいなと思っていたんです。『コンビニ人間』でそれができたかはさておき、融合させたいとはずっと思っていました。

 最初に書き始めたときはオタクな女の子が主人公の話を書こうとしたんです。でも、担当編集者の浅井さんと、「それは『消滅世界』とかぶるかもしれないな」という話をして。「でも書きたいから書いてみるので、もしもかぶっていたら言ってください」と言って書いて途中稿を見せたら「かぶってます」と言われるという、すごく正直な会話がありました(笑)。なかなかうまくいかず、急にある日、それを全部捨てて、コンビニを舞台にしたものを書こうと思ったんですね。それで、書いて送ったら「これいいと思います」と言われました。

――満を持して書いた、というわけではなくて思わず書いてしまった、という感じだったんですね。

村田 そうですね。いつかは書こうと思っていたんですが、それは自分がコンビニを辞めてからなのかなと思っていました。コンビニ店員として現役中に書くとは思っていなかったです。

――主人公はバイト中、シフトやマニュアルにのっとって要領よくテキパキ動くし、ハキハキ話す。村田さんもこんな感じなのかなあと思いましたが。

村田 主人公はだいぶ真面目です。私はぼーっとしていて、たぶん周りには「年数を重ねているわりにはおとぼけな店員だな」と思われています(笑)。自分がそこまで頑張りきれていないので、主人公は理想の店員として書きました。お店自体、自分が店長だったらこんなお店にしてみたいという、ある意味理想のお店を作りました。

自分が持っているグロテスクさも書いた

――主人公はコンビニ店員としては理想形。では、人間としては?

村田 人間としては、ちょっといびつなところがあるかなと思います。誰にも迷惑はかけていないのに、なんとなく指摘されてしまう人。ただ単に36歳で、恋愛経験がなくて、コンビニ店員で、アルバイトで働いているというだけなのに「ちゃんと就職しなよ」とか言われてしまう人。たとえば『殺人出産』で人を殺してもいい世界を書きましたけれど、殺人といった極端なものではなく、でも誰もがつい何かを言ってしまう、それくらいのいびつさの設定の人にしたいなと思っていました。

――人は自分とは違う価値観で生きている人に対して「えっ? 大丈夫?」などと上からの目線を投げがちですよね。

村田 そうですね。主人公の場合、保障がないという余計な不安がそうさせるのかもしれない。自分自身も、「社員にならないのかな」などと思ってしまう側に回ってしまう危うさがある気がします。そういう、自分が持っているグロテスクさも含めて書いた気がします。

――周りの人は、就職するとか結婚するとか子どもを産むといったマニュアルを重んじている。一方で主人公はコンビニ店員としてのマニュアルを重んじているという対照性があるのかなとも感じました。

村田 確かにそうですね。コンビニ店員のマニュアルってすごく不思議です。コンビニにいる間は店員としては普通に見えるけれど、そのマニュアルだけでは人間として普通だというふうに見なされるようにはなかなかなれない。でも、マニュアルの心地よさみたいなものは、自分自身の中にもある気がします。それをちょっと極端な形にして、主人公に移植してみたかったんだと思います。

――そこに新人バイトとして白羽さんという青年が入ってきます。彼の人物造形は相当笑えますね。バイトの目的は「婚活」だと言ってのけ、でも仕事はやる気なし、なにかというとすぐ「縄文時代から人間は……」という。

村田 思いがけないところで婚活をしている人の話を聞いたことがあったので、それが頭にあったのかもしれません。自分でも、コンビニで婚活、と書いた時は思わず笑ってしまいました。

 最初は、自分がひねくれた男の子だったら、世界に対する違和感についてこんなふうに思ったり言ったりするかもしれない、という想像がありました。なんか不公平だとか、なんで童貞じゃいけないんだとか。主人公のような人はそれを素朴な疑問に感じていますが、白羽さんにはもっと、世界を攻撃しようとする性格の悪さがあります。自分も、今がいいわけじゃないけれど、世の中をすごくひねて見ていたら、こういうことを言ったりしていたかもしれません。だから白羽さんのことはあまり嫌いじゃないんです。本当に嫌な人だなと思うんですけれど、書いている時は愛おしかったというか。ひどいことを言ったり、女の人を差別しているわりに、自分にとって都合のいい時は男女平等を言い出すような、そういう性格の悪さを書くのがすごく楽しかったです(笑)。

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瀧井朝世

――それで主人公とちぐはぐなやりとりになるのかなと思ったら、意外な展開になる。彼女は白羽さんに「私と婚姻届を出すのはどうですかと言い、お金のない白羽さんはそれを受け入れ、まずは恋愛関係ではない同居生活が始まるんですよね。

村田 世の中の結婚とか出産というマニュアルに従おうとした時に主人公がそういうことを言い出すのは、自分の中では自然な流れでした。この無茶な持ち掛けに乗ってくれそうな変な人という意味では、白羽さんは相性もピッタリというか(笑)、変な意味で二人はカチッと合うような感じがしました。それに、白羽さんが主人公に寄生する感じがなんだかいいなと思って(笑)。絶対に働きたくないといって誰かに寄生して生きていくのって、逆に大変なことだと思うんですけれども、白羽さんはそれを頑張ってやろうとしている。なんだかすごくヘンテコだけど、そういう欲望がある人間の可愛さみたいなものも感じていました。

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