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更新料の特約が有効とされた事例

最判平成23年7月15日PDF判決全文

かねてから注目されていた不動産賃貸借契約の更新料特約について、最高裁がこれを消費者契約法10条によっても無効とは言えないとする判断を下した。

その理由は、あまりはっきりしていない。

最高裁の判旨は不動産貸主側の上告および上告受理申立理由に沿って、以下の三つに分かれる。

1. 消費者契約法10条は憲法29条に違反しない。
 これはまあ無理やり上告するためのなげやりな上告理由であり、当然の判断としか言いようがない。

2. 不動産賃貸者契約の更新にあたり、更新料の支払いを定める条項は、「賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するも のに当たる」
 この判断の過程で最高裁は、消費者契約法10条について「ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず,一般的な法理等も含まれると解する」と判示しているのが注目できるが、この点はまあ本件ではあまり重要でない。

3. 「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。」

 この部分が言うまでもなく判旨のもっとも重要な部分だが、その理由として書かれているところは、必ずしも明快ではない。

まず、解釈方法として最高裁は次のように述べる。
当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは,消費者契約法の趣旨,目的(同法1条参照)に照らし,当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。
 このことは当然のことである。しかし、その次の総合考量は甚だ分かりにくい。

まず、「更新料が,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは,前記(1)に説示したとおりであり,更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない」というが、経済合理性はともかく賃貸借契約の更新が原則として認められるはずの現在の借地借家法の規定に照らし、「賃貸借契約を継続するための対価」が必要だというのは合理的とは言いがたい。

さらに次はもっと分かりにくい。
「一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であること」
「裁判上の和解手続等においても,更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であること」

この二つの事実から、次のような判断を導いている。
更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
 しかし、一定の地域に更新料の慣行があることや従来の裁判上の和解での更新料条項を公序良俗違反としてこなかったことが、「更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について」の格差がないことになるのはなぜか? 

 従来みんな納得して従ってきたじゃないか、ということであれば、例えば大学の入学辞退につき前納した授業料が返ってこないことも、みんな納得して従ってきたのである。それは理由とはならないであろう。

 むしろ、職業的な不動産賃貸業者たる貸主と、一般の借主との間では、不動産賃貸借をめぐる法制についての知識量も格差があり、慣行の有無についての知識も当然格差があり、更新料名目で授受される金銭が何に使われているのか、当該契約関係における合理性とか必要性を基礎づける事実についても、その知識量は格段の差がある。そのような情報格差をそのままにして、契約更新時には更新料を払ってもらうという条項のみ明確に提示したとしても、それがその契約関係にとって不当なものなのか正当なものなのかを判断する材料は消費者側にはない。

 このような状況が一般的にあるからこそ、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、・・・消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とする」(消費者契約法1条)という立法ができたのである。

更新料特約について、その合理性や必要性を基礎づけるための情報が開示されて契約に至ったのでなければ、その条項は無効であるとの判断が妥当だろうと思われる。このように考えれば、従前どおり更新料特約を維持したい家主は、更新料の使途や、更新料があることによって家賃がどれほど抑えられているのか、それによって他の同レベルの賃貸住宅よりも得なのか損なのかが判断できる程度の説明を消費者にすればよい。消費者がその説明に納得して契約した時こそ、更新料特約は有効と判断されてしかるべきである。

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