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ポケモンGOが社会にもたらした「空間の個人化」とは 拡張現実技術が変える我々の現実空間 - 塚越健司

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 前回は映画を公開日にネット配信するスクリーニングルームについて扱った。スクリーニングルームは未だ始動していない模様だが、ユーザーの映画体験を考える上で非常に興味深いサービスである。

 技術は人々の感受性に大きな影響を与えるが、ユーザーに最近新たな体験を与えたものとしては、何と言ってもポケモンGOであろう。すでに世界中で議論されたポケモンGOだが、ロシアではポケモンGOが原因で逮捕者も現れた。今回は、ポケモンGOやその背景にあるAR技術(Augmented Reality、拡張現実)が我々に与える影響について考察したい。

ポケモンGOの土台
AR技術とは何か

 ポケモンGOで用いられているAR技術(拡張現実、以下AR)とはそもそも何だろうか。ARの説明はVR(バーチャルリアリティ、仮想現実)と対比すると理解が容易だ。コンピュータゲームなどに代表されるVRは、テレビ画面などにすべてバーチャルな空間をつくり上げ表現するものだ。最近ではオキュラスリフトやプレイステーションVRなど、ゴーグルをかければ目に映るすべてをバーチャルな空間につくり変える技術が注目されている。

 対するARの特徴は、現実空間をベースにしたままそこに仮想的な情報を加えることにある。コンピュータゲーム=VRとしての「ポケモン=ポケットモンスター」は、ゲーム画面の中で完結した物語である。他方、ARとしての「ポケモンGO」はスマホをかざすことでポケモンを現実空間に表現することができる。

 ちなみにAR技術自体は新しい技術ではなく、スマホが日本で普及しはじめた2009年頃から「セカイカメラ」というスマホアプリ等で実装されている。セカイカメラは現実の街にエアタグと呼ばれる文字や画像、映像をスマホ越しに書き置きすることができる。例えば街のカフェの前に「ここのカフェラテはおいしい」と書き込みを残したりすれば、ユーザーはスマホ越しにメッセージを確認し合い、ユーザー間のコミュニケーションや企業の宣伝に利用できる。セカイカメラは2014年にサービスを終了したが、AR技術はポケモンGOの世界的成功によって一気に世界中で認知されることとなった。

現実空間を複雑にするポケモンGO

 すでに詳細を知る読者も多いことから、本稿はポケモンGOの基本的な説明を省き、ポケモンGOが社会にもたらしつつある潜在的な影響について述べていく。それを一言で言えば、「空間の個人化」が進行することである。

 空間と情報技術の関係を考えてみよう。我々は現実の目の前にいる相手とコミュニケーションをしながら、同時にSNSという情報空間を通して相手とやりとりをしている(例えば飲み会で話しながら別のグループとLINEすることを想像してほしい)。この場合、目の前の相手とSNS=情報空間にいる相手は重要度において同等であるか、ひょっとしたら目の前の飲み相手よりもSNSの友人の方が重要な場合もあるだろう。すると、現実空間も情報空間も、我々にとっては両方同じ「現実」を構成していることになる。

 こうした考えは、社会学者の鈴木健介氏が数年前から指摘していることだ。鈴木は現実空間に空いた穴に情報空間(SNSなど)が侵入し、現実が多様性することを「多孔化」と呼ぶ。現代における「現実空間」とは、多くの情報空間が現実空間の中に複雑に入り乱れた空間である。さらに鈴木はポケモンGOのリリース直後に自身のブログで情報技術と空間の関係に言及し、今後はますます「情報空間の争奪戦」がはじまると述べている。どういうことだろうか。

公共空間と個人空間
重視されるべきはどちらか

 目の前の他者よりSNS先の友人を優先させるということは、SNSの情報空間が目の前に広がる現実空間よりも重要であるということだ。ということは、ポケモンのいる空間が現実空間より重要だと思う人が現れるのは当然だろう。だがポケモンのいる空間は現実空間と強くリンクされているが故に、様々なトラブルが生じる。

 例えば、ポケモンGOに夢中になったために軍事基地に不法侵入してしまった人が拘束される事件がインドネシアで生じた。こうした事例は後を絶たないため、戦争資料館や宗教施設のような公共空間にポケモンが現れない配慮をポケモンGOの開発元に求める動きもあり、今後は求めに応じて公共空間におけるポケモンの出現に関しては一定の規制やルールが定められるだろう。そしてこうした動きはポケモンGOに限らず、位置情報を利用したARゲームに共通するルールになるだろう。

 しかし、現実空間とリンクした「自分にとって」重要なポケモンのいる空間が、公共空間が持つ意味よりも重要だと感じる人が現れはじめているのも事実だ。不法侵入は極端な例かもしれないが、公園のような公共空間に現れたレアポケモンをゲットするために大挙する人々のために、静かな公園が騒々しくなったと嘆く人々もいる。この場合、すぐに住民の苦情を受けてポケモンの出現を抑制することは望ましいことだろうか。こうした状況に対する判断は一概には下せず、ケースバイケースで対処するしかない。こうした事例は前述の鈴木も指摘するように、AR技術によって誕生した公共空間とポケモンのいる情報空間の並列的な関係を前提として、どちらを優先するかが問われることを意味している。

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