- 2016年09月30日 09:36
グーグルが狙うスマホの次のプラットフォーム - 川手恭輔
今年の3月に行われたグーグル傘下のディープマインドが開発した囲碁ソフトウェア(AlphaGo)と、現在世界最高の棋士と言われるイ・セドル九段との対局で、AlphaGoが4勝1敗で勝利したことが大きな話題となった。AlphaGoは、いわゆるAI(人工知能)だが、グーグルはこの分野への投資を優先事項としている。Eメールの並べ替えや、音声による検索や翻訳など、すでに多くのプロダクトにAIの技術を利用しているという。
これまでのコンピュータのソフトウェアは、人間が考えたルール(アルゴリズム)が記述されたプログラムだった。入力された情報をルールに基づいて認識して分析し、ルールによって処理した結果を出力する。それは人間が想定できない事柄や、ルールで記述しきれない複雑な事柄を処理することが難しかった。それに対し最新のAIは、与えられた大量の情報の関係性を学習(機械学習)することによって、新たな情報を認識・分析して最適化・推論するためのルール自体を考え出す。
ムーアの法則に従ってコンピュータのパワーが指数関数的に成長し、ソーシャルネットの発達によって獲得できるようになったビックデータから自律的に学習を重ねていくことで、AIは人間の関与がなくても進化していくことが可能になった。AlphaGoの勝利で、ディープラーニング(深層学習)という言葉も一般に知られるようになった。
スマーフォン市場の成長が鈍化しているが、グーグルに限らずアマゾン、インテル、マイクロソフト、アップル、フェイスブックなどのITの巨人達は、AIを、次に市場に大きな変化をもたらすものと捉えているようで、関連する企業の買収や人材の確保に血眼になっている。
最初の戦いが始まった
グーグルは5月に開催した開発者向けのイベントで、Homeという製品を発表した。これはパーソナルアシスタントと呼ばれる種類のデバイスで、リビングなどに置いて、家の中のネットワークに繋がった家電や照明などをコントロールすることができる。「オーケーグーグル」と話しかければ、スマートフォンのGoogleアプリと同じように質問や指示に音声で応答してくれる。
これは、アマゾンが昨年から米国で販売しているEchoという製品と完全に競合する。Echoシリーズはこれまでに300万台販売されたと推定されており、グーグルはその成功を追う形となる。EchoにはEcho Dotという小型のモデルがあるが、10月にはその最新版が49.99ドルに(89.99ドルから)値下げされて、イギリスとドイツでもEchoと共に販売が開始される。
Echoはアマゾンが提供するEコマースと連携するという強みを持っているが、それぞれAssistant(グーグル)とAlexa(アマゾン)と呼ばれる「人工知能」の出来や、連携する他社の製品やサービスの数などが勝負の鍵となる。
グーグルは、Googleアカウントでログインしているユーザの予定表や連絡先を把握しており、Assistantは検索やメールの履歴などから推論した最適な答えを返すことが可能だろう。さらに、検索のために収集した膨大な情報から学習できることもAssistantの大きな強みだ。今やグーグルは、AIのために検索サービスを提供していると言ってもいいかもしれない。
画像を見る(図)各社のパーソナルアシスタント
アップルはSiriという音声認識型のパーソナルアシスタントを、iPhoneやiPadで提供している。フェイスブックはMessenger(アプリ)で、テキストベースの対話型のアシスタントサービスを提供している。
AIのネットワークが次のプラットホームになる
現時点でのAIは人間の脳のようには万能でなく、その役割は学習した分野などに特化している。そのため、分野特化の複数のAIが連携して1つの仕事をこなすことになる。AIは主にクラウドに配置されるが、今後は自動車やドローンや家電などの機器にも搭載されていくだろう。スマートフォンやウェアラブル機器やリビングルームのパーソナルアシスタントのAIは、音声やテキストやジェスチャーや画像などでユーザと対話する。そしてセンサーを搭載したIoTのデバイスは、クラウドのAIに情報を供給し続ける。そのように遍在したAIの連携、すなわちネットワークが次のプラットホームになると考えられる。
画像を見る(図)分野特化のAIがクラウドや機器に遍在し連携する
アマゾンは昨年の6月から、Alexaとそのソフトウエア開発キットをサードパーティーに公開しており、Echoから利用できる他社のサービスや、製品の機能が、すでに3000種類を超えたという。
現時点ではAssistantの開発キットは公開されていない。グーグルは、Fuchsia(フクシア)と呼ばれる新しいOSを開発している。これは家電製品やIoTデバイスなどに組み込まれることを想定しているようだ。FuchsiaにAssistantとの連携機能が含まれていることは十分に考えられる。
スマートフォンでのインストールベースで世界最大となっているAndroidのプラットフォームを、Fuchsiaによって家電製品やIoTデバイスに拡張することによって、AssistantというAIのネットワークを次の支配的なプラットホームにすることを狙っているのではないだろうか。
指数関数的な速度での変化が始まる
ディープラーニングと呼ばれる機械学習が可能となったことで、脳の仕組みを取り入れたニューラルネットワークというアルゴリズムの精度と実用性が飛躍的に向上し、これまで何度か期待を裏切ってきたAIへの注目度が一気に高まっている。
画像を見る『シンギュラリティは近い』(NHK出版)
未来学者レイ・カーツワイルが2005年に書いた『シンギュラリティは近いー人類が生命を超越するとき』では、人間の脳の構造が研究しつくされてコンピュータが超高性能になったときシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れ、科学技術によって人間の能力が根底から覆り変容する。カーツワイルは、2008年に教育機関とシンクタンクの機能を備えたシンギュラリティ大学を創設し、2012年にはグーグルのAI開発ディレクターへと転身している。
シンギュラリティ大学は、グーグルをはじめ、シリコンバレーの有名な企業がこぞって出資したことで大きな話題となった。大企業の役員クラスの人間が続々とその教育プログラムに参加し「テクノロジーの指数関数的成長を取り込んで世界を一歩前に進める」というそのミッションが、 シリコンバレーで広く共有されているという。シンギュラリティという概念には「人間が生みだしたテクノロジーの変化は加速を続けていて、そのインパクトも指数関数的な速度で拡大している」という基本的な考えがある。
カーツワイルは、指数関数的な成長というものはつい見過ごしてしまいがちだと言っている。最初は目に見えないほどの変化なのに、やがて予期しなかったほど激しく爆発的に成長する。変化の軌跡を注意深く見守っていないと、まったく思いもよらない結果になると。
シンギュラリティの先にあるもの
画像を見る『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
ハリソン・フォード主演のハリウッド映画『ブレードランナー』の原作となったフィリップ・K・ディックの1968年のSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の世界には、すでにシンギュラリティが訪れていて、本物そっくりの機械仕掛けのペットの羊が登場する。そしてその技術により生み出されたアンドロイドは感情も記憶も持ち、自分が機械であることすら認識できないほどになっている。
シンギュラリティの後には、人間と機械が統合された文明が人間の脳の限界を超越するとカーツワイルは予言している。それは明るい未来なのか、映画『ターミネーター』のような人間が機械に支配される未来なのだろうか。
MITのソーシャルロボティクス専門家、シンシア・ブリジール准教授が設計したJiboは、楽しそうな未来がすぐそこまで来ていることを予感させてくれるのだが。
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