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米・トルコ関係を左右するクルド人問題 - 岡崎研究所

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、8月24日付社説で、今回のトルコ軍の対IS越境攻撃の真の目的は、シリアのクルド人武装勢力(YPG)のけん制にあるようだが、トルコにとってはYPGよりはISの脅威の方が大きい、と述べています。

クルド人自治区は、ISやアサドよりましな選択肢

 トルコ軍は8月24日、米軍の空爆の支援を受け、シリア北部のジャラブルスに侵攻、トルコ国境のIS最後の拠点を占拠した。侵攻はトルコの都市ガジアンテップで、ISが自爆テロで54人を殺傷した直後に行われたが、侵攻の真の目的は米国が支援するYPGがジャラブルスを奪取する前にジャラブルスを占拠し、YPGの勢力拡大を阻止することにあったようである。

 エルドアンはYPGの母体のクルド民主統一党(PYD)がシリア北部でクルド人自治区を作ることを恐れているようであるが、トルコ国境外でのクルド人自治区はクルドの独立志向を和らげ、アラブの動乱への緩衝地帯の役目を果たす。シリアでのクルド人自治区は、ISやアサドに比べればより魅力的な選択肢であるはずである。

 トルコを訪問するバイデン副大統領は、トルコはYPGを敵として扱い、シリア北部にイラクのクルド人自治区のようなクルド人自治区を設置することに反対することで、得るものは無いことをエルドアンに伝えるべきである(注:この社説はバイデンのアンカラ到着前に書かれた)。イラクのクルド人自治区は中東では珍しい成功物語である。

 米国にとってシリアのクルド人自治区は、これまで米国の同盟として戦ってきたYPGに報いるとともに、シリアをクルド、アラウィ派、スンニの自治地域に分割するという筋書きに沿うものである。自治地域への分割という方式は1990年代半ばのボスニアでの戦争の終結の一助となったものであり、シリア内戦の終結に資する。

 エルドアンは、シリアの虐殺の余波がトルコに及ぶのを許容するよりは、クルドが勝利するのを助ける方が、失うものが少ないことを理解すべきである。

出典:‘Turkey Moves on Syria’(Wall Street Journal, August 24, 2016)
http://www.wsj.com/articles/turkey-moves-on-syria-1472078385

 トルコがISを脅威としていることは事実です。ISはここ1年余りで、イスタンブールの国際空港をはじめ、大規模な自爆テロを6回も決行しています。ISがトルコを狙うのは、トルコがシリア、イラクとの間の1250キロ余りの国境の一部を支配下に置いていて、こうした国境のぬけ道を利用して戦闘員を確保してきたこと、トルコがヨーロッパ、中東、ロシアのカフカス地方を結ぶ点に位置し、これら地域から「聖戦士」志願者が続々と流入していることなどから、ISにとってトルコがNATO加盟国の中で最もアクセスしやすく、テロを実行しやすい国になっているためと考えられます。

米国の立場は微妙

 他方、トルコ政府はシリアにおけるクルド人自治区の設置には反対です。一つにはYPGが、トルコ政府がテロ組織に指定し、非合法化しているトルコ内のクルド労働者党PKKと緊密な関係にあることを嫌っています。トルコのユルドゥルム首相は、シリア国境地帯におけるクルド人自治区建設の動きは断じて受け入れられないと言っています。

 トルコ政府は、YPGがジャラブルスを奪取し、勢力を拡大すればクルド人自治区設置につながりかねないと懸念し、機先を制したものと思われます。

 米国の立場は微妙です。米国としてはトルコがIS攻撃に参加することは歓迎です。一方でYPGはアサド軍およびISとの戦いで米国が最も頼りにしてきた戦闘グループです。米国はシリアでの戦いの最有力の協力者であるYPGの勢力拡大にトルコが反対していることでジレンマに立たされていますが、今回のトルコのジャラブルス侵攻については、例えその主たる目的がYPGの勢力拡大の阻止であったとしても、トルコのIS攻撃参加の意義の方を重視したようです。

 バイデン副大統領はトルコ訪問に際して、YPGがジャラブルスの東、ユーフラテス川の東岸に退去すべきであると述べ、退去しなければ米国はYPG支援を停止すると述べました。これは本件社説の期待に反するもので、YPGに対する予想外に強いメッセージです。米国はYPGにユーフラテス川の東岸への退去を要請することは、米国のYPG支持の基本姿勢の変更を意味するものではないと考えたのでしょうが、この発言はエルドアンに対する配慮であることは間違いありません。

 バイデンのトルコ訪問は、トルコのクーデター未遂事件後、トルコの対米感情が著しく悪化したことを受け、米トルコ関係のよりを戻すことが主たる目的であったと思われますが、米国とYPGとの関係に影を落としたことは否めません。また米国がシリアの解決策として3つの自治地域への分割案を考えているとしても、当面その案は表には出てこないでしょう。

 米国の期待、思惑にもかかわらず、エルドアンは8月28日、ISと同様YPGを根絶する決意だと述べ、トルコ軍はYPGが今月中旬制圧したISの拠点のマンビジュの奪還を目指し、ジャラブルス―マンビジュ間で戦闘が激しさを増しています。エルドアンの目的がISよりはYPGをつぶすことがはっきりすれば、IS打倒を最優先させる米国の戦略との違いは明らかとなり、米国はトルコとの関係を見直さざるを得なくなるでしょう。

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