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南シナ海問題でロシアを利用する中国 海軍合同演習から考える - 小原凡司

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 中国が、南シナ海において、米国を挑発するかのような行動を続けている。2016年9月12日から19日の間、南シナ海において、中ロ海軍合同演習が実施された。「海上連合」と呼ばれるこの合同演習は、2012年から毎年行われているが、南シナ海で実施されるのは初めてである。

陣容から見て取れる中国の力の入れ具合

 中国海軍は、南海艦隊だけでなく、東海艦隊及び北海艦隊からも、艦艇を参加させた。報道によれば、2000年代半ばに就役した052B/旅洋Ⅰ型「広州(艦番号168)」及び中国版イージス艦とも呼ばれる052C/旅洋Ⅱ型「鄭州(艦番号151)」という2隻の駆逐艦、最新の中国海軍フリゲートであり海軍艦艇の主力である054A/江凱Ⅱ型の「黄山(艦番号570)」、「三亜(艦番号574)」、「大慶(艦番号576)」という3隻、揚陸用のホバークラフトを艦内に収容できる071/玉昭型ドック型輸送揚陸艦「崑崙山(艦番号988)」、072Ⅲ/玉亭型揚陸艦「雲霧山(艦番号997)」、通常動力型潜水艦2隻及び、最新の904A型総合補給艦「軍山湖(艦番号961)」など10隻が参加した。

 その他、ロシア製Su-27戦闘機のライセンス版で中国航空兵力の主力であるJ-11B戦闘機、JH-7戦闘爆撃機、警戒管制機など、19機の海軍航空機も参加している。中国海軍の主力戦闘艦艇に加え、満載排水量が17600~20000トンになると言われるドック型輸送揚陸艦、中国がわざわざ島嶼補給艦と呼称する総合補給艦といった陣容から、中国の力の入れ具合と、島嶼を巡る海上及び陸上の戦闘を意識していることが見て取れる。

 一方のロシア海軍からは、「アドミラル・トリブツ(艦番号564)」と「アドミラル・ヴィノグラドフ(艦番号572)」という2隻のウダロイ級駆逐艦、「ペレスウェート(艦番号077)」揚陸艦等が参加している。ウダロイ級駆逐艦は現在でも、ソブレメンヌイ級と並んで、ロシア海軍の主力駆逐艦でもあるが、基本設計が1970年代という古い艦艇である。近年、ロシア海軍は、駆逐艦よりも少し小さいフリゲートを主に建造し就役させている。ロシア側の参加艦艇を見る限り、格別に規模が大きいという訳ではない。問題は、参加兵力の規模ではなく、場所である。ロシアが、南シナ海という海域で実施された中国との海軍合同演習に参加したことに意味があるのだ。

 しかも、今回の中ロ海軍合同演習は、中国がことさらに島嶼奪還などを強調していて、挑発的である。中国メディアは、中ロ両軍の陸戦隊が初めて演習に参加したことを報じ、島嶼奪還の演練を行ったとしている。また、中国国防部は、最新の904A型総合補給艦を、「島嶼補給艦」と呼んでいる。南シナ海における米海軍の「航行の自由」作戦等に反発し、中国の主張に逆らう行動をすれば、軍事衝突も辞さないという構えを見せているのだ。

 海上だけでなく、陸上の会議等の場においても、米国と中国は、南シナ海における軍事行動について、つばぜり合いを繰り返している。7月16日には、中国人民解放軍連合参謀部副参謀長の孫建国上将が、中国の大学が北京で開催したフォーラムでのスピーチにおいて、米国などが南シナ海で実施している航行の自由に基づく艦艇の行動は「危険な状態を招く」可能性があると警告した。

 これに対応するかのように、7月26日、マーク・リチャードソン米海軍作戦部長が、中国訪問を終えて帰国し、「中国に対し、米国が今後も南シナ海の上空と海上での活動を続ける姿勢を断固として示した」と述べた。その上で、南シナ海に関する仲裁裁判所の判決を受けて、米国は今後も南シナ海における「航行の自由」作戦を継続すると言明している。

クリミア併合がもたらしたもの

 ところが、一方のロシアは、これまで、一貫して積極的に中国を支持し米国をけん制してきた訳ではない。中ロ両国が対米けん制で協力姿勢を強調する「海上連合」合同演習における協力のバランスは、変化しているのだ。中国およびロシアの情勢認識の変化が、合同演習の性格に影響を及ぼしているのである。

 「海上連合」合同演習は、2014年に大きな転換点を迎えた。これは、主としてロシアの都合によるものだ。欧州諸国が「実質的な武力侵攻」と呼ぶ、ロシアによるウクライナのクリミア半島併合によって、ロシアが西の欧州側でのゲームに失敗し、東のアジア太平洋地域で新たなゲームを始めたことに起因する。

 ロシアは、2013年まで、対米けん制のために中国に利用されることに消極的だった。ロシアにとってメリットが十分でなかったのだ。ウクライナ問題によって、欧州との経済協力による第三極としての生き残りに失敗したロシアは、アジアにおいて米中対峙に目を付ける。米中両大国が対峙してくれれば、ロシアが生き残る空間が広くなる。東シナ海で実施された2014年の「海上連合」合同演習の開幕式には、別の会議に出席するために上海を訪れていたプーチン大統領が習近平主席とともに出席し、スピーチまで行っている。

 2013年の「海上連合」合同演習は、演習海域が日本海のロシア寄りの海域に設定されており、東シナ海に設定するよりも、日米に対して刺激が少なかったにもかかわらず、ロシア側の消極的な態度によって、合同演習の実施がなかなか公式発表できなかった。この2014年のロシアの極めて積極的な対中協力姿勢への変化は、180度の方向転換と言っても良いほどの大きな変化である。

 2015年には、初めて、1年に2回、「海上連合」合同演習を実施した。第1回の演習海域は地中海、第2回は日本海である。第1回の演習は、主として、中国がロシアに対して協力姿勢を見せたと言われる。中東及び欧州に対して、ロシアが、中国の協力を得て、その軍事プレゼンスを示したかったのだ。

 しかし、中国にとってもメリットがあった。中東は、中国が掲げる「一帯一路」イニシアティブの地理的及び意義的な中心であり、欧州は、「一帯一路」の終点であると位置付けられているからだ。中国は、今後、これらの地域において、米国との軍事プレゼンス競争をしなければならず、中東及び欧州からの海上輸送路も保護しなければならないと考えている。中東情勢が米ロだけの軍事的なゲームで動くのではなく、中国もプレイヤーとして関わっていることを示そうとしたのである。

どうしてもロシアの協力を得たい中国

 2016年に入って、南シナ海における米中の軍事的な緊張はさらなる高まりを見せる。7月12日に、常設仲裁裁判所が下した司法判断は、中国の南シナ海における主張を全面的に否定するものであった。しかし、「司法判断」が出される以前から、中国は一貫してこれを無視する構えを見せてきた。「司法判断」が下される直前の7月6日、戴秉国元国務委員が国際会議でこれを「紙屑」と呼び、同じ日に王毅外交部長(日本で言う外務大臣)はケリー国務長官との電話会談で仲裁裁判所の判断を「茶番劇」と切り捨てた。

 中国は、仲裁裁判所の判決には従わないと宣言しているのだ。南シナ海の実質的な領海化を、人工島の軍事拠点化という手段を以て進めるという意味である。しかし、G7でも、中国を非難するかのような共同声明が出されるなど、米国や日本、さらには西欧諸国も、南シナ海における中国の行動に懸念を示している。そして、米中両海軍は、南シナ海における行動をエスカレートさせているかに見える。

 中国外交部は、世界約70カ国が、あるいは90カ国余りの国の230以上の政党が、南シナ海における中国の立場を支持していると主張している。中国が、国際社会から孤立していないことを強調しようとするのだ。国際社会の支持を失えば、「国際秩序を変える」という中国の目標達成などおぼつかない。しかし、中国が主張する約70カ国のほとんどが発展途上の小国である。「国際関係は大国間のゲームである」と考える中国にとっては、非常に心もとない。相手にするのが、既得権益を有し大きな影響力を持つ、欧米先進諸国や日本だからだ。

 だからこそ、いかに不信に満ちた関係であっても、中国は、ロシアの協力が欲しいと考えるのである。軍事的にも、一国では米国に対抗できないと考える中国は、ロシアとの安全保障協力関係を見せつけることが不可欠だと考える。特に、南シナ海問題において劣勢に立たされたと考える中国は、「海上連合」合同演習によって、南シナ海におけるロシアとの緊密な協力を米国に見せつけたかったのだ。

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