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反対運動は“プロ市民”のものではない。高江は“おじい”“おばあ”の戦場だった。

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バスで2時間かけて高江にやってくるおばあ・おじい

木野龍逸

9月上旬、小雨が降る蒸し暑い朝。沖縄県北部に広がるヤンバルの森に囲まれた東村高江に、50人以上の人たちがバスでやってきた。ほぼ全員が60歳以上。沖縄県うるま市から2時間近くかけてやってきた、沖縄のおばあ、おじいたちだった。

おばあたちは到着すると、県道70号線に面す北部訓練場の正面ゲート前で、横一列になって警備を固める機動隊に対峙し、それぞれが目の前の機動隊員に向かって話しかけはじめた。

「あんたさぁ、私たちがなんでここにきてるのか、わかる? 沖縄を返してほしいから来てるのよ」
「アンタたちもさぁ、考えてほしいのよ」

怒るのではない。諭すように、でも少しお説教のように、時には少しにこやかに、孫のような年齢の機動隊員へ自分の思いを伝えている。機動隊員の表情は硬くこわばったまま変わらないが、団体の代表者は語りかけている目的を、「機動隊の人たちも沖縄の人。話しかけることで少しでも思いが伝われば」と説明した。

おばあ、おじいたちの合唱が始まった(撮影:木野龍逸)

しばらくすると、こんどはおばあたちの合唱が始まった。そのときはわからなかったが、後で調べてみると、こんな歌だった。

固き土をやぶりて 民族の怒りに燃ゆる島 沖縄よ
我らと我らの祖先が 血と汗をもて 守り育てた 沖縄よ
我らは叫ぶ 沖縄よ 我らのものだ 沖縄は
沖縄を返せ 沖縄を返せ


作詞・全司法福岡高裁支部、作曲・荒木栄

タイトルは歌詞の通りで、「沖縄を返せ」という。1950年代に本土で歌い始められ、その後の沖縄返還運動の象徴のようになっていったらしい。返還後も、米軍関連の事件が起こるたびに注目を集め、今また、高江で抗議するおばあたちに歌われているのである。

ダンプが続々とゲートを入っていく

そんなおじい、おばあの思いを乗せた歌を踏みつぶすように、午前10時半頃になると数十台の10トンダンプや20トンのトレーラーが警察車両に守られて、ゲート内に入っていった。反対派からは「大名行列」と呼ばれている車列は、その名に恥じない権力の影と、圧倒的な力を見せつけていた。

「大名行列」が一段落した頃から、小雨だった雨はバスタブをひっくり返したような土砂降りの雨に変わっていった。それでもしばらくの間、おじい、おばあたちは、ゲートに向かって声を上げ続けていた。

県道70号線を行く「大名行列」の一部

反対運動は“プロ市民”ばかりは本当か?

7月10日に投開票があった参議院選挙の翌日、政府は沖縄県東村高江の米軍北部訓練場にヘリパッド(ヘリコプター着陸帯。オスプレイが使用するため「オスプレイパッド」とも呼ばれる)を新設するための資材搬入作業を突然、開始した。選挙では沖縄県選出の自民党の現職大臣(沖縄担当相)が落選。つまり、現政権の米軍基地政策に対して「ノー」を突きつけた市民の意思を無視する形で、政府は工事再開を強行したことになる。

これに対し、従来からヘリパッド建設に反対していた人たちが強く反発。座り込みなどで機材搬入のダンプカーの行く手を阻んだ。すると政府は、これまでにないほどの強行な手段をとりはじめた。

東京や千葉など本土から500人以上の機動隊を集め、手荒な方法で住民の排除を始めたのだ。テレビやインターネットでは、座り込む人たちを抱え上げて排除するだけでなく、機動隊員がゲンコツを固めて参加者を殴ったり、足蹴にしている様子が映し出されていた。

こうした中、抗議行動に参加する人たちは、減るどころか増えていった。県内はもちろん、県外からも老若男女や国会議員らが高江に集まった。

さらに、オスプレイ配備や辺野古移設反対を掲げる「島ぐるみ会議」(沖縄「建白書」を実現し未来を拓く島ぐるみ会議)は、県内各地で抗議行動の参加者を募り、バスを仕立てて数十人単位で市民を高江に送り届け始めた。多い日には200人以上の人々が、那覇からクルマで2時間かかる高江に早朝から集合している。ゲート前で「沖縄を返せ」を熱唱していたおじい、おばあたちは、そんなグループのひとつだった。

一方で、こうした連日の抗議行動に対して、「プロ市民が参加している」、「参加者は日当をもらっている」などというウワサが、ネットを中心に流れている。でもあのおばあたちは、どう考えても日当をもらって参加しているようには見えない。

では毎日何十人も集まる参加者は、いったいどんな人たちなのだろうか。高江で反対運動を続けている「沖縄平和運動センター」の山城博治議長は、「ここに来るのは定年退職した人たちが多い」と話す。

テントで若者に状況を高江の状況を話す山城さん

「県内から来るのは、ほとんどが定年退職した年金生活者です。労働組合もないし、若者もいない。ただ県外から来る人たちは若者が多いですね。学生もいる。どうして県内の若者が来ないのかが理解できませんが……。高江は遠いですし、平日に休みをとってまで参加するというのはないですね」

やはり日当とは関係なさそうだが、確認するために、山城さんにウワサについて聞いてみた。すると、「そうでもしないと、彼らを貶められないからじゃないのか」と一蹴されてしまった。

「我々を、一般の県民から離反させようというハラですかね。基地の推進を考えている人たちは、反対運動が県民規模に広がるのが何より怖い。反対運動が現場で孤立するように一所懸命に工作してるんでしょうけど、もう広がっていますよね。こういうことでは広がりは止められんと思いますよ」

カネで動けば損得を考えるようになる

2014年8月14日、沖縄防衛局は辺野古沖での海底ボーリング調査のために、立ち入り制限区域の境界にブイの設置を始めた。同年7月には、辺野古に隣接するキャンプ・シュワブ内での飛行場建設予定地で作業を始めており、住民らの抗議行動が大きくなっていた中でのブイ設置だった。辺野古沖ではこの日から、連日のように、抗議する住民らと海上保安庁が激しい衝突を続けた。

その後、沖縄県による辺野古埋め立て承認の取り消しや、それに伴う裁判などで、辺野古沖の工事は一時的に中断している。一瞬の静けさを取り戻している辺野古に、長年、テントを設営して座り込み運動を続けている「ヘリ基地反対協議会」の安次富浩共同代表を尋ねた。ここでは日当をもらうことができるのだろうか。

「ははは……、10年前にもその話はあったよ。ぼくは10年前にね、『こんなに日当出してたら、おれはそうとうな金持ちだったんだろうな』って思った。だって多い日には150人とか現場に来るじゃない。ひとり1万円出したって150万円だよ。そんなことしてたら破産してるわ。みーんな、ボランティアですよ」

「(お金があると)損得が始まるでしょ。お金もらっても機動隊に蹴られてたら、『こんなカネで』ってなるじゃん。そんなものがないから、殴られても蹴られてもまったく動じない。モチベーションですよ」

辺野古テント村の安次富さん

日当のウワサはまたもや一蹴された。安次富さんはさらに続けた。

「中心はね、定年退職組ですよ。細々とした年金で来てるわけですよ。私も自前の弁当ですよ。こういうのが、大衆運動の大きな支えであるわけよ。そうじゃないと、借り物になる。金銭じゃなくて『なんで戦うのか』っていうことですよ。今は、それぞれが信念持って戦ってるからね」

「これは沖縄の伝統で、きな臭い戦いだから。(復帰運動も含めて)米軍との戦いに、カネなんてない。おむすびを持ち寄ったり、炊き出ししたりして米軍と戦ってきた。その名残が、今に生きてるんですよ」

ここでも中心は定年退職組だった。復帰以前は米軍、以降は日本政府との権利闘争が続いている。その経験が心身ともに染みついている人たちが今でも沖縄にはたくさんいて、現状に危機感を抱いているということになる。

その様子は、高江や辺野古に足を運べば簡単に見ることができる。安次富さんに話を聞いた翌日に再び訪れた高江で、ぼくもその話を聴くことができた。

天気のいい辺野古はこんな様子。2014年撮影

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