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スピリチュアリズムの危険性――『反オカルト論』 - 高橋昌一郎

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「未来医療研究会」はオカルト研究会?

助手 矢作直樹氏が「顧問」を務めている「未来医療研究会」のサイトを見てみました。

第一回研究会は、二〇一四年五月十七日・十八日、東京大学医学部教育研究棟二階のセミナー室で開催されています。

教授 未来医療といえば、文部科学省が二〇一三年に「未来医療研究人材養成拠点形成事業」を開始したね。これは「世界の最先端医療の研究・開発等をリードし、将来的にその成果を国内外に普及できる実行力を備えた人材」および「将来の超高齢社会における地域包括ケアシステムに対応できるリサーチマインドを持った優れた総合診療医等」の養成を目的とする総額二十二億五千万円の事業だ。

全国で二十五件のプロジェクトが採択され、東大も二件で選定された重要拠点だから、その関連で立ち上がった研究会なのかな?

助手 いえいえ、文科省選定プロジェクトとは、まったく関係ないみたいです。未来医療研究会のサイトには、東大医学部附属病院循環器内科助教の稲葉俊郎氏が「個人で主催」と明記してあります。とはいえ「未来医療研究」まで同じ名称なので、紛らわしい気もしますが。

教授 いずれにしても、「超高齢社会」を迎える日本にとって、「未来医療」は最優先テーマの一つだ。専門家諸氏には、大いに研究を推進してほしいものだよ。

助手 私もそう思って、過去の未来医療研究会のプログラムを調べたら、目が点になってしまって……。

第一回研究会のプログラムには、「色や自然のイメージを使った呼吸法」や「アートセラピー」や「ダンスセラピー」があって、これらは心理療法の一種かもしれません。

ところが、「神秘龍を媒介とした新しいエネルギー療法」という「神秘龍ヒーリング」、「霊気をさらに応用・発展させた」という「メディカルレイキ」、「花のエネルギーを水に転写し自然の力で活性化」させたという「心のバランスの乱れを調整するフラワーエッセンス」のような発表は、いったい何なのか……。

教授 未来医療というよりも、まるでオカルトの研究会みたいじゃないか!

助手 第二回研究会は二〇一四年七月十二日に東大医学部教育研究棟で開催。プログラムは、「スピリチュアル・ヨーガ」「樹々・植物との対話法」「カイロプラクティック」「直傳靈氣を現代医療に融合」「ヒプノセラピーを使った自然出産」など。

第三回研究会は二〇一四年九月十四日に東大病院中央診療棟の会議室で開催。プログラムは、「インド密教宿曜経」による「からだ占い」「スパイラルセラピー」「エジプトの神秘形状学」に基づく「ダウジングヒーリング」「運動療法とエネルギーヒーリング」など。

教授 最先端医療を議論しているはずの東大病院の会議室で、占いやヒーリングの研究会とは驚きだね……。

助手 サイトによれば、未来医療研究会は「特定の考え方やヒーリング技術や人の優劣を競う場ではなく、全員が地球で学ぶ同級生としてお互いを認め合い、研鑽しあい、互いに協力していく場」だということです。

研究会の「イメージ」は、孔子の「君子は和すれども同ぜず。小人は同ずれども和せず」。「特定の考えの押し付けをせず、『みんな違って全部いい』という自由な立場を何よりも大切」にしているそうです。

教授 現代医学に固執せず、代替医療でもスピリチュアリズムでも、良い点は何でも取り入れようという趣旨だろう。いわば「清濁併せ呑む」度量の広い研究会だと自賛したいんだろうが、実はその種の発想は、学問を重視した孔子が最も強く非難したものなんだよ。

孔子の「君子は和すれども同ぜず」の本来の意味は、「人と協調することは大事だが、学問の道理に合わないことに同調してはならない」ということ!

助手 「みんな違って全部いい」なんてライフスタイルやファッションみたい。人命を預かる医師の研究会として不見識すぎませんか。

スピリチュアリズムの危険性

助手 おかげさまで、母も元気になりました。今朝は久しぶりにスッキリした笑顔で、来月は友人と一緒に海外旅行に出掛けるとかで、準備で大騒ぎしていて、これまでずっと心配していた私がバカみたいでした。

教授 それはよかったじゃないか。「霊魂」や「来世」のような話ばかりに囚われていると、何よりも現実世界の健康に良くないからね。

助手 霊魂が存在するとしても、医学的に受精卵のどの段階から物理的な人間の中に入り込むのか不明なことや、「霊感商法」の危険性など、先生から伺ったことを母と話し合ってみたんです。

教授 ほほう。それで、どうなったのかな?

助手 ハッキリと結論らしい結論に至ったわけではないのですが、少なくとも「霊魂や来世が存在すると絶対的に言い切る」のが怪しいという点だけは、納得できました。

そもそも近代スピリチュアリズムがフォックス姉妹のイタズラから始まったこと、あの理性的な名探偵シャーロック・ホームズを生んだ作家コナン・ドイルや、ウィリアム・クルックスとシャルル・リシェのような一流の科学者でさえ、霊媒師やトリック写真に騙された顛末から、悪徳スピリチュアリズムに騙される危険性についても、十分認識できたと思います。

教授 矢作直樹氏の著作から影響を受けているという話は、どうなったの?

助手 決め手になったのは、「スペシャル対談・矢作直樹東大病院救急部・集中治療部部長×江原啓之 『死後の世界』は絶対に存在する」(『週刊現代』二〇一四年九月二十日号)という記事でした。

これを母に読ませたら、まるで目が覚めたみたいに、あっさりと父の霊の話をしなくなりました。

教授 なんだって? 「『死後の世界』は絶対に存在する」という記事を読んだら、「死後の世界」を信じなくなったということ?

助手 うふふふ、そうなんですよ。この記事の中で矢作氏は、次のように発言しています。「霊媒の力がある友人を通して、私は母の霊魂と会話をしました。……私が気になっていた、なぜ死ぬ前に結婚指輪を外していたかという理由も、話してくれました。結婚指輪のことは、私以外誰も知らないことです。一般常識では信じられないでしょうが、私は自分が死んだ母と会話をしているという確信を持つにいたりました」

この発言だけを読むと、まるで霊媒師が「私以外誰も知らない」結婚指輪のことを指摘したみたいですよね。

ところが、その三年前の二〇一一年に矢作氏が著した『人は死なない』では、「霊媒の力がある友人」に矢作氏から質問しているんです。「もう一つ疑問に思っていたことを訊ねてみました。『亡くなったときに結婚指輪を外していたけれど、いつ外したの?』」

つまり矢作氏は、自分から結婚指輪の情報を霊媒師に与えているわけですから、これでは本当の「霊媒の力」も疑問だし、交霊そのものさえ怪しくなってしまいます。このことに気付いた瞬間、私の母は、矢作氏に対する信頼感が一挙に吹き飛んだそうです。

教授 自分で疑問点を発見し、推論し、結論を導いたとは、すばらしい!

助手 ついでに私が気になったのは、矢作氏が、対談で「私は江原さんに感謝しているんです。江原さんがテレビなどで根気強く説いてくださったおかげで、一定数の日本人には霊的な存在を受け入れる『土台』ができた」と述べている点です。

「霊的な存在を受け入れる『土台』」には、カルト宗教や霊感商法の蔓延を助長する大きな危険性もあるのではないでしょうか?

教授 地下鉄サリン事件から二十年、オウム関連の事件でさえ風化し始めている。スピリチュアリズムが社会に何をもたらすのか、改めて我々一人ひとり、よく考えてみる必要があるだろうね。

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