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米大統領選、勝者を決めるのは浮動票

米大統領候補のヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏が初めて直接対決するテレビ討論会を26日に終えると、長かった米大統領選もついに6週間を残すのみとなる。しかし最終局面を迎えてもなお激しい接戦は続き、選挙結果がどちらに転んでもおかしくない予測不能な状況だ。

 その理由の一つが、依然として投票先を決めていない数多くの有権者たちの存在だ。有権者の5人に1人ともされるこの層の中には、単にどの候補者に投票するかを決めていない人もいれば、二大政党以外の候補に傾きながらも最終的には民主党候補のクリントン氏か共和党候補のトランプ氏に流れる可能性がある人もいる。一方で、どの候補者も受け入れがたいと感じ、投票に行くべきかどうか迷っている人もいる。

 この状況はまた、普段はある程度動きを把握できる若者票、マイノリティー票、郊外の女性票、そして大学で教育を受けた白人男性票の動向も予想を難しくする。彼らが今回も通常通りに動くのか、それとも例年とは違ったパターンを見せるのか、あるいは投票を棄権するのか。今まで以上に不確実だ。

 トランプ氏にとって良い知らせは、通常の選挙戦においてこの段階で現職への支持を固めていない有権者は、実はもう現職以外に投票するという決断をしていることだ。今回の大統領選にオバマ大統領は立候補していないのでもちろん現職はいないが、彼が後継者に選んだクリントン氏はある意味その立場に立っていると言えるだろう。これらを踏まえると、一見トランプ氏が有利のようにも思える。

 ただし、今回の大統領選は通常の選挙ではない。そしてトランプ氏のように有権者に不快な感情を何度も持たせてきた候補者が、通常の候補者のように反与党の票を集められるかどうかも不透明だ。

正常化しつつある一面も

 異例続きだった2016年の大統領選も、少なくとも表面的には通常の選挙になりつつある。クリントン氏もトランプ氏もそれぞれの党の支持基盤からの支援を固めてきた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とNBCニュースによる最新の世論調査では、共和党支持者の85%はクリントン氏よりもトランプ氏を支持し、民主党支持者の86%はトランプ氏よりもクリントン氏を支持すると回答。これは過去の選挙戦と比較しても整合性のある数値だ。

 州ごとの投票傾向もここにきて固まりつつあり、民主党寄りとされている州はクリントン氏支持へ、共和党寄りとされている州はトランプ氏支持へと流れができつつある。アイオワ州など一般敵に共和党候補が苦戦してきた州でトランプ氏が奮闘している場所もあれば、民主党候補が苦戦してきたバージニア州でクリントン氏が善戦している例もある。ただしどちらが制するか読めない、いわゆる「激戦州(スイング・ステート)」と呼ばれる州の数は、これまで通り10州程度に落ち着きそうだ。

 しかし支持基盤を固めて有利とされている州を獲得するだけでは、両候補とも大統領の座にはつけない。最終的に勝利の大きな鍵を握るのは、どちらにも着かずにいる浮動票だ。WSJとNBCの調査によると、有権者の9%はリバタリアン党のゲーリー・ジョンソン候補を支持し、3%は緑の党のジル・スタイン候補を支持している。8%は未定か、投票にはいかないか、主要4候補以外に投票すると答えてる。つまりクリントン氏にもトランプ氏にも票を入れない有権者は、全体の約20%を占めている。

 接戦の選挙では、この20%の有権者が流れ込んだ候補者が勝利を手にする。クリントン氏は現時点でトランプ氏に対してわずかなリードを保っているが、これら20%の有権者がトランプ氏に動けば、安全とは言えない。

 二大政党以外の候補に向かう票をどう自分たちに向かせるか。そして投票先を決めていない人をどう取り入れるか。この2点がクリントン氏とトランプ氏にとっては重要な課題だ。

ミレニアル世代とアフリカ系アメリカ人

 クリントン氏にとって頭痛の種は、投票先を決めていない層の中に18歳から29歳の若い有権者が多く含まれていることだ。彼らはオバマ大統領に投票した有権者の中核となったグループであり、通常の選挙の年ならそのままクリントン氏の支持に回る層だった。しかし若い有権者の中にはクリントン氏にもトランプ氏にも投票せず、ジョンソン氏かスタイン氏の支持に回る人が多い。直近の全米および激戦州での世論調査では、ミレニアル世代(1980年代から2000年代前半生まれ)の間の支持率ではジョンソン氏がトランプ氏と同等かまたはリードし、クリントン氏の支持率にも肉薄しているという。

今回の討論会は注目度が高く、放送は記録的な視聴率となる可能性もある。過去には大統領選での発言やしぐさが選挙結果を左右した年もあった。 今回の討論会は注目度が高く、放送は記録的な視聴率となる可能性もある。過去には大統領選での発言やしぐさが選挙結果を左右した年もあった。

 また、クリントン氏はアフリカ系アメリカ人からの支持も固めてはいない。彼らもオバマ氏が当選する要因となった層だ。アフリカ系アメリカ人が今回の大統領選でトランプ氏に流れることはほぼないものの、過去の大統領選のようにまとまった形で投票をしない可能性もでてきている。

 トランプ氏にとっての課題は、流動票の中でも特に政治的に穏健な立場の有権者から支持を得ることだ。彼らはトランプ氏以外の候補なら共和党を支持したかもしれないが、同氏のスタイルだけでなく、本質的な部分でトランプ氏の支持に回ることを拒んでいる。政治的に穏健な有権者の多くが、今年はどちらかの候補にもつかずにいる状況だ。

 トランプ氏のもうひとつの弱点は、大学教育を受けた白人層のようだ。2012年の大統領選では共和党候補のミット・ロムニー氏が21ポイント差を付けてこの層を奪取した。だが、最新のWSJ・NBCニュースによる世論調査では、トランプ氏は9ポイントの差をつけられて劣勢だ。この層の支持を固められていないことは、都市郊外に住む女性の票を得られていないのと同様に問題になるように見える。

 今年の大統領選のように接戦で支持率の動きが激しい場合、わずかな数の有権者によるちょっとした判断で勝者が決まる可能性がある。

(筆者のジェラルド・F・サイブはWSJワシントン支局長)

By GERALD F. SEIB

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