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トランプ有利? クリントンに不足するカネとスタミナ 大統領候補テレビ討論会の見所(1) - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

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カネ集めに奔走するクリントン

 ただ、現地で調査を行っていた筆者には8月のトランプ・クリントン両候補の行動があまりにも対照的に見えました。トランプ候補は、洪水で被害を受けた南部ルイジアナ州を訪問したのです。メキシコでペニャニエト大統領と共同記者会見を行い、帰国すると西部アリゾナ州フェニックスで集会を開催しました。中西部ミシガン州デトロイトにあるアフリカ系が集う教会にも出向いたのです。その間、同候補は積極的にテレビ出演をして持論を展開していたのです。

 一方、クリントン候補は選挙資金集めに走り、トランプ候補ほど表には出てきませんでした。10月に入ると、テレビ広告を大量に打つので当然選挙資金が必要になります。民主党の選挙資金集めにも協力しなければなりません。そのように考えれば、資金集めに時間をかけるクリントン候補の行動は理解できないわけではありませんが、精力的に選挙運動を行っているトランプ候補を見ると筆者には納得がいきませんでした。

 集会を開いても負担を減らしていたのか、クリントン候補の演説時間は30分前後でトランプ候補の約半分でした。因みに、2012年米大統領選挙で共和党候補であったミット・ロムニーマサチューセッツ州元知事が体調不良を起こしたとき、同陣営は演説時間を短縮し、アン夫人のそれを長くしたのです。復帰後のクリントン候補の南部ノースカロライナ州での演説時間は23分弱で、さらに短くなりました。同候補は、8月の段階で健康状態がすぐれていなかったのかもしれません。

 9月11日の米同時多発テロの追悼式典に参加したクリントン候補は体調を崩して途中退席しました。その際、警備担当者に抱えられ平衡感覚を失いながら車に乗り込む姿の映像が一斉に流れ、その後も繰り返し放映されたことで共和党の陰謀説は消え、同候補の健康問題は現実になったのです。その結果、同候補は健康不安の払拭という課題を抱えました。同候補の健康問題が争点になると、70歳のトランプ候補に対しても、メディア関係者から健康に関する質問が相次いで出たのです。テレビ討論会で司会者ないし会場の有権者から健康について質問が出る可能性が高くなったのです。

非言語コミュニケーションの重要性

 2012年米大統領選挙における第1回目のテレビ討論会において、ロムニー元知事から厳しい批判を受けたオバマ大統領は、どもったりうつむいたりして効果的に対応できませんでした。しかも、ロムニー元知事の意見に対して頷いている同大統領の動作が、同意と視聴者に解釈されてしまったのです。実際は、同大統領は傾聴をしていたのです。非言語コミュニケーションは、候補者のパフォーマンスに多大な影響を及ぼします。

 西部コロラド州デンバー大学に設置されたメディア会場で第1回目のテレビ討論会を観察した筆者は、翌日激戦州バージニア州に戻り、ただちに戸別訪問を再開して有権者にフィードバックを求めたのです。有権者はオバマ大統領のパフォーマンスに関して以下のように語っていました。

 「疲れている様子に見えました」

 「エネルギーがありませんでした」

 「熱意がありませんでした」

 ある有権者は、オバマ大統領は単に調子が悪かっただけだと述べ、他の有権者は準備不足が原因だと主張していました。では、今回のテレビ討論会でクリントン候補が疲労している様子を見せ、エネルギーと熱意に欠けていたら有権者はどのように解釈するでしょうか。間違いなく、同候補の健康が原因であると捉えるでしょう。仮に90分の間にせき込む場面があれば、有権者の間に健康を巡る不安が増すことは言うまでもありません。

 第1回目のテレビ討論会におけるクリントン候補の最優先課題は、健康不安の払拭になるでしょう。では討論会でどのようにしてその課題を達成できるのでしょうか。

 非言語コミュニケーションが鍵を握ります。有権者に健康面において安心感を与えるためには、表情と動作がポイントになります。生き生きとした表情をみせ、両腕を広げてダイナミックな動作をとることは極めて重要です。声の強さもタフでエネルギーのあるクリントン候補を演出するうえで不可欠になるでしょう。

 一方、クリントン候補は強さもスタミナもないと健康問題を取りあげて繰り返し批判してきたトランプ候補は、表情と動作を用いて強いリーダーを演出するでしょう。第1回目のテレビ討論会で、筆者はトランプ・クリントン両候補の非言語コミュニケーションに注目しています。

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