記事

ロシアのハニートラップに嵌った中国人技師 - 澁谷 司

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 しばしば中国が仕掛けた“ハニートラップ”が奏功していると聞く。

 例えば、陳文英(Chan Man Yin、結婚後はKatrina Leung)である。陳は広州生まれで、中華民国のパスポートを持っていた。コーネル大学を卒業し、シカゴ大学で経営学修士(MBA)を取得している。

 その後、陳文英は米連邦調査局(FBI)に勤務し、長期にわたり中国情報を収集していた。だが、陳はいつしか中国国家安全部へFBIの情報を流すようになったのである。実は、陳文英は、FBIの2人の上司(J.J.SmithとBill Cleveland)と関係を持っていたという。結局、2003年、陳文英は“二重スパイ”だとして、米ロサンゼルスで起訴されている。

 他方、2011年、上海出身の女性、鄧新明が上海駐在の韓国外交官3人と関係を持った。そして、鄧は、韓国政府の人事情報、上海総領事館のビザ発給記録、韓国政府高官の200以上の電話番号(李明博大統領夫人の携帯番号や義兄の連絡方法を含む)を聞き出している。

 今年(2016年)9月4・5日に行われた杭州でのG20では、各国は中国の“ハニートラップ”を警戒したという。

 さて、ところで、“ハニートラップ”は中国の18番だと思われているが、必ずしもそうとは限らない。最近、ロシアが仕掛けた“ハニートラップ”に優秀な中国人技師、侯建文が嵌った。

 事件に関しては、今年9月14日、北京『艦船知識』雑誌の編集者、邱貞瑋が微博上で言及した。さらに、北京の有名な学者、王小東も微博上で事件を示唆している。

 侯建文(56歳)は、上海航空宇宙技術研究所(Shanghai Academy of Spaceflight Technology)副主任で、宇宙工学やミサイル技術の中国第1人者である。侯は1960年生まれの浙江省出身で、ハルピン工科大学を優秀な成績で卒業した。

 侯建文は、「風雲1号A」、「風雲1号B」、「風雲1号C」等の衛星制御技術を開発した。さらに、侯は人民解放軍の紅旗16系ミサイルの設計も行った。

 侯建文は2011年に打ち上げられた中国初の火星探査機「蛍火1号」の打ち上げにも参加している(この探査機は軌道に乗らず、太平洋へ落下)。侯は、2020年、中国が打ち上げ予定の「蛍火2号」、2017年打ち上げ予定の「嫦娥5号」にも参加するはずだった。

 その侯建文が、重要機密文書をロシアへ流出させたとして、中国当局(国家安全局)に調べられている。

 今年4月、習近平政権は、「曙光16」という“反スパイ活動”を始めたことはあまり知られていない。主な責任者は、李克強、栗戦書、馬凱である。侯建文は、この「曙光16」でロシアの女スパイとの関係が暴かれたのではないだろうか。

 スパイの名前は、ダリア(Daria Bulba)である。彼女は、上海で活躍していたウクライナ出身のモデル(21歳)だった。ダリアは、身長180センチ、色白の美人である。彼女の髪の色は、明るい茶色だった。

 今年8月6日早朝、ダリアは上海東方明珠テレビ塔付近に現れた。その時、ダリアはピンク色のワンピースを着て、黒のバッグを持っていた。だが、それ以来、ダリアは謎の失踪を遂げている。

 ダリアの姿が消えた後、彼女のルームメイトだったナンシーが、WeChatにダリアの失踪を報告し、捜索を依頼している。

 ダリアは明るい性格ではなく、交際範囲も広くなかった。ただ、特定の人物とだけ、親密な関係を築いていたという。

 ちなみに、侯建文がダリアの“ハニートラップ”に嵌ったのは、侯建文の海外出張の際だったのか、それとも中国国内だったのかは不詳である。

 一方、“ハニートラップ”に嵌ったのかどうか不明だが、今年5月、郭恩明(中国航空工業集団<Aviation Industry Corporation of China>科学技術委員会副主任、総装備部先進製造技術専門家グループ長、中航工業製造所長)が失踪した。侯建文同様、郭は、他国へ機密情報を流した疑いで、中国当局に取り調べを受けているという。

 このようなスパイ事件に関しては、普通、どこの政府もあまり声高に発表しない。当局が粛々と取り調べを行う。いざとなったら、自国のスパイと相手国のスパイ同士を交換する場合もあるだろう。
澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)等多数。

あわせて読みたい

「中国」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    パワハラ原因?オスカー崩壊危機

    渡邉裕二

  2. 2

    相次ぐ「GoTo外し」観光庁に疑問

    木曽崇

  3. 3

    公選法に抵触 毎日新聞の終わり

    青山まさゆき

  4. 4

    菅首相を揶揄 無料のパンケーキ

    田中龍作

  5. 5

    ニトリが島忠にTOB 家具業界の変

    ヒロ

  6. 6

    陰性の「安心感」に尾身氏がクギ

    BLOGOS しらべる部

  7. 7

    菅首相に見る本読まない人の特徴

    山内康一

  8. 8

    TBS番組が伊藤健太郎逮捕で誤報

    女性自身

  9. 9

    伊藤と交際報道の山本舞香は号泣

    女性自身

  10. 10

    橋下氏 毎日新聞のご飯論法指摘

    橋下徹

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。