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2016参院選とこれからの課題(その1)

〔以下の論攷は『全国学研会ニュース』No.175、9月13日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

1、嘘とペテンで塗り固められた「勝利」

 先ごろの参院選では、与党が勝利しました。それは残念なことですが、安倍首相が目標とした61議席を超え、自民党と公明党で70議席を獲得したのですから「勝利」に間違いありません。

 しかも、「改憲勢力」とみなされている政党や議員を合計して参院の3分の2の議席を超えました。すでに、衆院でも与党は改憲発議可能な3分の2を超えていますから、衆参両院で改憲へのハードルをクリアしたことになります。

 しかし、このような与党の「勝利」は、嘘とペテンで塗り固められたものでした。安倍首相は経済政策を前面に出して「アベノミクスは道半ば」だと言い張り、「この道を。力強く、前へ」と訴え、本来の争点であった憲法問題について街頭演説では一言も口にしませんでした。

 また、消費税の8%から10%への再増税についても選挙直前の記者会見で「新しい判断」を示し、再延期してしまいました。本来であればこれが参院選での最大の争点になるはずだったのに、それを消してしまったのです。

 さらに、同一労働同一賃金や保育士・介護士の処遇改善、給付型奨学金の導入などを打ち出しました。これまで野党が掲げていた政策を「盗んだ」わけです。批判や矛盾が拡大して無視できなくなったためで取り上げたのは悪いことではありませんが、これによって野党との政策的な違いが曖昧になったことは否定できません。

 このような選挙戦術が国民感情にうまくマッチしたのではないでしょうか。中国の海洋進出や北朝鮮の核開発・ミサイル発射実験などで不穏な状況にある日本周辺の安全保障環境、途上国の経済不振やイギリスのEU離脱などで不透明感を増す経済情勢などに直面して、国民は不安を感じていましたから。

 このような「隠す」戦術に対抗するためには、可視化し見えるようにすることが必要です。事実を知り理解すれば行動に立ち上がることは、反原発デモや安保法反対運動などで示された通りです。しかし、大手のマスコミは頼りになりませんから、口コミなどによる情報発信が重要になっています。

 この点で、学者・研究者の多くは、書いたり話したりすることで大きな役割を果たすことができます。その発言や執筆などは注目され、世論に影響を与えられるからです。安保法の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合や安保法に反対する学者の会などでの経験を生かして学者・研究者としての情報発信に努め、世論に働きかけていただきたいものです。

2、証明された市民と野党共闘の力

 今回の参院選では、これまでにない新しい動きがありました。それは市民と野党とが力を合わせて選挙活動に取り組んだことです。その結果、32の1人区で野党の統一候補が擁立され、11勝21敗という成績を収めました。3年前の参院選では2勝29敗でしたから、画期的な前進を遂げたことになります。このような新しい共闘の実現が、今回の参院選での最大の成果でした。

 この共闘は市民が主導して実現したものです。安保法反対運動の中で、「野党は共闘」という声が自然に高まり、それに応える形で共産党が国民連合政府の樹立を提案し、これを契機に野党共闘の動きが強まって2月の「5党合意」により1人区での野党統一候補擁立が具体化しました。

 この過程で決定的な意味をもったのは、共産党が候補者の取り下げを表明したことです。民進党には「共産党主導」という声もあるようですが、「主導」したのは市民でした。身を引く形で、これに応じたのが共産党です。候補者を立てなかったために比例代表での票を伸ばしきれず、1人区での共闘を優先したために複数区に手が回らず取りこぼすという犠牲を払いながらの選挙になりました。

 選挙に当たっての共闘の合意は市民団体や公党間の正式の約束ですから、これからも誠実に守られなければなりません。とりわけ、6月7日に結ばれた野党4党と市民連合との合意は、民主党が民進党になってからのものです。代表が変わったから破棄するなどということになったら、それこそ市民からの信頼を失うことになるでしょう。

 このような共闘の効果は明確で、誰も否定できないものです。議席が増えただけでなく、28の1人区では比例代表で得られた各党の得票を上回り、26の1人区では投票率も高くなっています。与野党の一騎打ちとなったために有権者の関心が高まり、1+1が2以上の効果を生み出しました。

 このような効果は次の衆院選でも十分に期待できるものです。『東京新聞』による民進党都道府県連幹部への聞き取り調査では、次期衆院選での野党共闘について22都道県が継続を求め、やめるべきだとした9府県を大きく上回りました。また、2014年の前回衆院選の結果をもとにした同紙の試算では、野党4党側の勝利は前回の43選挙区から2.1倍の91選挙区になるとされています(9月4日付朝刊)。

 「一強多弱」と言われるような力関係を打破してアベ暴走政治をストップさせるには、この野党共闘を前進させるしかありません。この面でも学者・研究者は共闘実現のための接着剤として、また場合によっては「無党派共同」の候補者として、積極的な役割を果たすことができます。それぞれの条件を生かして、市民と野党共闘の力を十分に発揮するための「触媒」になっていただきたいものです。

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