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反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その4)

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

4.選挙後の展望と課題

 改憲阻止をはじめとした諸課題への取り組み

 参院選の結果、改憲勢力は3分の2を超えた。衆参両院での改憲発議可能な国会勢力の確保は初めてで、これに気を良くした安倍首相は悲願としている改憲に向けて新たな攻勢に出てくるに違いない。憲法をめぐる情勢は条文を変える「明文改憲」に向けて、「危険水域」に入ったと言える。
 安倍首相は早速、秋の臨時国会で憲法審査会を再開し、どのような項目のどこをどう変えるか、与野党で議論してもらいたいとの意向を明らかにした。当面、改憲派にたいする批判を強めて憲法学習を進め、改憲阻止のたたかいを強めることが重要になっている。
 その場合、改憲には賛成でも9条改憲には反対だという立場がある。9条改憲に賛成でもそれは自衛隊の国防軍化や外征軍化を阻止するための改憲だという意見もある。これらを十把一からげに改憲派だとするのは不正確だ。この区別を明確にして、安倍首相が目指している危険な改憲路線を孤立させることが大切である。
 3月に施行された安保法は、国連平和維持活動(PKO)の新たな任務として、離れた場所にいる国連職員らを自衛隊員が緊急警護する「駆け付け警護」の任務を追加した。紛争が激化している南スーダンへのPKO派遣を11月以降も続ける場合、政府は新任務の実施を認めるかどうか判断を迫られるが、このような安保法の発動を阻止しなければならない。
 安倍首相が最も重視しているのは、参院選の争点に掲げた経済政策「アベノミクス」の推進である。これについては具体的な成果が問われる。「これから大変だよ。アベノミクス」 と、小泉首相が言うとおりである。
 今後、事業規模28兆円超の経済対策が打ち出され、臨時国会で成立が目指される。その柱は少子高齢化に対応する保育・介護施設の拡充などで、「残業代ゼロ法案」や正社員と非正規との賃金格差是正を含む「労働改革」も盛り込まれる。社会保障サービスの低下を防ぎ、労働者の処遇改善に結びつくかが問われることになろう。
 沖縄関連では、高江のヘリパッド建設強行や名護市辺野古沖の新基地建設を巡る政府と県の法廷闘争の再開など参院選での島尻落選の「意趣返し」のような暴挙が続いている。基地問題に対する沖縄のたたかいに呼応した取り組みを強めなければならない。
 原発に関しては四国電力伊方原発3号機が8月中旬の再稼働を予定しており、鹿児島県知事選で初当選した三反園訓知事は再稼働している川内原発の一時停止を九州電力に求めている。再稼働を推進する政府の原発政策に対するたたかいは続く。
 また、通常国会で継続審議になったTPP関連法案についても臨時国会での成立が目指されている。成立阻止に向けての取り組みが重要である。

 野党共闘の継続と発展に向けて

 参院選では歴史上初めて野党協闘が成立し、大きな成果を上げた。しかし、「5党合意」は参院選公示の5ヵ月前で、最後の統一候補が決まったのは3週間ほど前にすぎない。突貫工事で建てたプレハブのようなものだった。これを風雪に耐える本格的な建物にするのが、これからの課題である。
 そのためには、この間の共闘によって培われた市民や野党間の多様なつながり、信頼関係を大切にし、発展させなければならない。それによって主体的な力を強めることである。
 また、アベ政治後のビジョンを提示して明るく夢のある未来像を示さなければならない。それによって、政策的な魅力を高めることである。
 さらに、労働組合運動など大衆運動分野での一点共闘を拡大しなければならない。労働法制の規制緩和反対、統一メーデーへの取り組み、原水爆禁止運動の統一など、可能な領域での共同を発展させることによって草の根から連合政権の土台作りをはじめることである。
 近い将来における解散・総選挙をめざし、政策的一致、国会内での協力、選挙への取り組みなど野党4党間での共同を拡大し、今後の首長選挙や地方議員選挙、衆院補選(10月23日、東京・福岡)などでの野党共闘を実現する必要がある。
 東京都知事選挙では野党共闘で鳥越俊太郎候補を擁立し、同時に投票された都議補選でも大田区と台東区で民進党と共産党のバーターによる野党共闘が実現した。このような形で地方選挙でも共闘を継続し、それを衆院選での統一候補実現に結び付けなければならない。
 『日経新聞』の調査では、野党は衆院選でも統一候補を「立てるべきだ」は47%で、「立てるべきではない」の36%を上回った。民進党支持層でも「立てるべきだ」が73%、「立てるべきではない」は22%、共産党支持層も「立てるべきだ」が7割程度、「立てるべきではない」は約2割と同様の結果が示されている。
 選挙での共同だけでなく、政策的準備も重要である。通常国会での共同提出法案や参院選での確認事項を踏まえ、臨時国会で野党共同の法案提出などを進めながら、外交・安全保障、米軍基地、自衛隊、税制、TPP,エネルギーなどの基本政策での合意形成に努めなければならない。
 今回の参院選での得票を基に総選挙で共闘した場合の議席を試算した『北海道新聞』によれば、北海道内では野党側が10勝2敗になるという(7月19日付)。全国でも同様の可能性が生まれているにちがいない。
 ここにこそ展望がある。そして、活路はここにしかない。天下分け目の「関ケ原の合戦」は始まったばかりだ。本格的な対決は次に持ち越しとなった。解散・総選挙がさし当りの政治決戦となろう。参院選での成果を確信にして教訓を学び、より効果的で緊密な共闘のあり方や魅力的な候補者の擁立に向けての模索と研究を、今からでも始めなければならない。

 平和運動の課題

 参院選の結果は今後の平和運動のあり方についても、大きな課題を提起している。今回の結果に対して、戦争と平和の問題や日本周辺の安全保障環境のあり方が大きく影響していたからである。
 その第1は、「積極的平和」の理念を明確にし、この言葉を安倍首相から取り戻すことである。本来、「積極的平和」とは「消極的平和」と対置され、単に戦争がない状態としての「平和」ではなく、戦争の原因となる不和や対立、貧困や格差、無知や憎悪などを取り去ることによって実現される真の平和を意味していた。
 しかし、安倍首相は積極的な武力の行使による安全の確保という政策を「積極的平和主義」という用語によって説明した。武力に頼らずに戦争の原因の除去を図ることを意味する「積極的平和」とは真っ向から対立する考え方であるにもかかわらず、それが効果的な平和実現の方策であるかのような誤解が生じている。
 しかし、このような武力に依存する「力の政策」では、国際間の紛争も国際テロも根本的に解決できないことは、この間の経験からして明らかだ。安倍首相の唱える「積極的平和主義」は考え方としても現実的な方策としても大きな間違いであり、かえって問題を複雑にし、解決を困難にしてしまう。武力に頼らない地道な平和構築こそが現実的な解決策であり、「積極的平和」への道であることを示さなければならない。
 第2に、平和を実現するためには過去と未来にわたる長期的な視野を忘れてはならないということである。歴史から教訓を引き出し、現実を直視する力を持たなければ未来に対して盲目となる。その結果、過去の過ちを繰り返す危険性が生れてしまう。
 戦前の戦争の歴史を学び、経験者の証言を残し、教訓を引き出すことは重要である。同時に、戦禍による壊滅的な荒廃から立ち上がり、70年以上にわたって平和を維持して経済大国を実現した戦後日本の経験と教訓も、十分に明らかにされ学ばれなければならない。
 それを可能にした力こそ平和憲法の理念であり、9条の効果だったのではなないか。それを維持するだけでなく、その理念を実現できるような対外政策と将来ビジョンを持ち、周辺諸国や世界に向けて発信し普遍化することこそ、日本の平和運動が担っている国際的な役割にほかならない。
 第3に、平和を守るためには、民主主義の限界と危険性を十分に自覚することが必要である。民主主義とは多数決と同じものではなく、多数が賛成することによって誤った道を選択することもある。多数が過ちを犯し少数が正しかった戦前の歴史を思い起こすべきだ。
 間違った戦争の道が選ばれるとき、しばしばこのような誤りも繰り返される。民主主義社会においては、多数の支持なしに戦争を始めることも続けることもできない。総力戦であればなおさら「総力」の動員が必要となり、「民主主義」が活用される。
 歓呼と喝さいの中からファシズムが誕生した歴史の苦い教訓を思い起こすまでもないだろう。独裁と戦争への道は民主主義の「石」によって敷き詰められているのである。それを防ぐためには、少数であることを恐れず、多数であることの意味を問い、それへの同調を強いないことである。孤立を恐れず「反知性主義」を警戒し、多数の間違いを指摘できる知力を持たなければならない。
 参院選の結果、アベ政治の暴走は続き、スピードはアップするだろう。それを阻止する力を蓄えるために、平和運動も歴史に学び、歴史の試練に耐えることが求められている。

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