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配偶者控除見直し論議。そもそもパート労働者は労働を調整して節税しているのか。 - 浅野千晴 (税理士)

平成29年度の税制改正は「配偶者控除」の見直しが最大のテーマとなり、政府税制調査会での議論が繰り広げられています。

■配偶者控除は何度も廃止の危機にあってきた

配偶者控除は、働く女性への足かせとなっていると強調し、政府は何度となくこの人的控除を廃止しようしてきました。配偶者控除を廃止する理由はいくつかありますが、その大きな要因の一つとして、パート労働者が働く女性への社会の進出を阻害するものだとの意見があります。年間で給料が103万円を超えると税金がかかってくるという「パートタイム労働者の103万円の壁」があることです。

では、配偶者控除を廃止すればこの壁はなくなり、女性の就労は促進されるはずです。

■パート労働者の真の実態とは。

厚生労働省の「平成23年度パートタイム労働者実態調査」によると、パート労働者が調整を行う理由として、103万円の壁を超えると税金を払わなくてはいけなくなるから(72.6%)、一定額を超えると配偶者控除もなくなり、さらに配偶者特別控除も徐々に少なくなるから(45.1%)、一定額を超えると社会保険に加入しなくてはならないから(38.2%)などが理由に挙げられています。

これだけをみると、パート労働者のほとんどが労働調整をして税金をコントロールしているかのようにみえます。年末に近くなると「103万円を超えてしまうから」といってパート労働者の中にはシフトに入りたがらない人がいるなどよく耳にする話題でもあります。

しかし、実際は、同調査の1年間(平成22年6月~23年5月)の就業調整の有無をパートの割合でみると、「就業調整をしている」が15.6%、「就業調整していない」が73.3%と、就業調整していない人が圧倒的に多いのです。

また配偶者がいて、さらに「労働調整している」といった人は、男性では9.8%、女性では21.0%であって、特に配偶者の恩恵を受ける対象となる女性労働者は1/4にも満たない数です。

結果として3/4以上の女性は、労働調整など必要がない位しか収入はないのであって、労働調整しない理由も「労働調整の必要がなかった」という割合が一番多く、103万の壁問題に無縁といった労働者が大多数なのです。

このような結果からも分かるように、政府は1部の人の労働調整を社会全体の現象として配偶者控除を廃止する、「増税ありきのシナリオ」を作っているのです。また逆に増税というペナルティーを課してまで女性を世の中に送りだすことを今の税制が阻んでいるといえるのでしょうか。

■労働は富をもたらすものであるけれど・・・

パートで働く女性や専業主婦の多くがフルタイム労働の選択肢をすれば、働く人が増えれば経済が活性化します。人は働くことによって、自分ができない労働やサービスを補うためにお金を使うことにつながるからです。

例えば、育児をしていた女性が子供を預けて働きに出ると、託児サービスや派遣業、キャリアアップを目指すために資格ビジネスなども拡大する可能性があります。そして何よりこの先不安視されている少子化への労働力の確保にもつながります。企業としては扶養手当や家族手当などの手当を減らすことになりますし、国や地方公共団体としても税収アップになります。

しかし、パート労働者や主婦が正社員として働く道は険しいものです。何よりも経験不足、正社員の期間が少ないため、条件の良い会社に採用される可能性は少ないでしょう。子育て世代の理解のある父親がいたとしても、母親中心の育児は変わることがありません。子供の送り迎えなどはほとんど母親で家事・育児の負担は変わらず、時間のゆとりは減り、外食や託児所にかける出費はどんどん増えていきます。

増税になるのなら思い切り働きたい、女性はそう思っているのではなく、同調査でも今後の働き方について「正社員になりたい」という希望は22%に対し、「パートで仕事を続けたい」が71.6%で大半がパートのままで十分と考えているようです。

■「女性活躍促進」はどのくらい進むのか

今年の4月に女性促進法が施行されました。これは、従業員が301人以上の従業員がいる会社に義務付けられたものです。女性の雇用や今後の労働改善に役立つものとなってほしい法律でありますが、現在のところ対象者が限定的で、女性全体の雇用の促進や改善につながるとは言い難いものです。女性が労働力となり社会に出て経済を活性化するためには、税のペナルティーをいち早く課すより女性がより働きやすい環境づくりが急務ではないのでしょうか?

多くの女性の雇用や労働改善がなければ「女性活躍促進」の言葉も、配偶者控除の見直し論とともに国家財政再建のために都合よくつかわれる口実になってしまうのではないかと思えてなりません。

【参考文献】
■配偶者控除は本当に女性の社会進出を阻んでいるのか?(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/47252222-20151218.html
■自営業だと保育園に入れないって本当? (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/49152786-20160724.html
■スポーツ選手は見た目より厳しい?ご褒美には税金が待っている (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/49318448-20160816.html
■消費税増税延期でもバラマキ?給付金もらえます。 (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/48884963-20160619.html
■保育園の滞納問題。取り立ては年々厳しくなっている? (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/48230568-20160330.html

浅野千晴 税理士

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