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高畑裕太さん釈放後の弁護士コメントをめぐる議論で思い起こしたあの集団レイプ報道

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高畑裕太さん「不起訴で釈放」を報じる紙面

9月9日、高畑淳子さんの息子・裕太さんが不起訴となり急きょ釈放されたことに驚いた人も多かったろう。その直後に弁護士が公表したコメントをめぐって大きな議論が起きている。概ねこの弁護士コメントに批判的な意見が多い。事件をめぐって示談が成立したのはほぼ明らかだが、示談後に加害者側の言い分をこんなふうに表明するのはおかしいのではないか、という批判だ。

この件については、私は9月11日付東京新聞(中国新聞、北海道新聞など数紙にも転載)の「週刊誌を読む」という連載コラムで論評した。紙幅の関係で相当はしょって書いたし、その後、上記のようにこの弁護士コメントへの批判が噴出している現実を知ったので、もう少し詳しく書いておこうと思う。

弁護士コメント自体は全文下記に公開されている。

http://www.seinenza-eihou.com/news/topic/

このコメントに対する主な意見も賛否それぞれ紹介しておこう。

まずは批判的な意見だ。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20160910-00062041/

http://bylines.news.yahoo.co.jp/fujiiseiji/20160910-00062053/

http://www.huffingtonpost.jp/keiko-ota/post_13165_b_11960902.html

上記太田弁護士の見解はハフィントンポストに掲載されたものだが、同じサイトに郷原弁護士の意見も載っている。

http://www.huffingtonpost.jp/nobuo-gohara/takahata_b_11942350.html

郷原弁護士の見解は「『推定無罪』を無視した高畑裕太氏事件を巡る報道・放送」というもので、前述した弁護士コメントは報道のあり方に対する問題提起なのではないか、というものだ。私の意見も郷原さんに近いのだが、たぶん異例のコメントを弁護士が敢えて出した目的はこれまでの報道について、ここだけは違うという点を指摘したかったということなのだと思う。不起訴でもう裁判も行われないから、事件は決着するのだが、これまでなされた報道が今後も繰り返される怖れがある。だから以下の点だけは注意してほしいと警告したものだろう。コメントの骨子は以下の2点だと思う。

1つは「逮捕時報道にあるような、電話で『部屋に歯ブラシを持ってきて』と呼びつけていきなり引きずり込んだなどという事実はなかったと考えております」という点だ。この歯ブラシ云々は逮捕時に警察がたぶんオフレコで語った話だろうが、事件の悪質性を理解するうえで非常にわかりやすい。弁護士が言っているのは、それは事実ではないという主張だ。これを言っておかないと今後も歯ブラシ云々は確定した事実として、マスコミが扱う可能性が大きいからだ。示談が成立したのだろうから、もう事件のディティールは表に出てこないだろうが、恐らく真相は、いきなり電話で呼びつけて引きずり込んだなどという単純な話ではないのだろう。

そして2つめは「違法性の顕著な悪質な事件ではなかったし、仮に起訴されて裁判になっていれば。無罪主張をしたと思われた事件であります」ということだ。つまり裕太さん側は報道されているような容疑を全て認めているわけではないということだ。

今回の報道は、裕太さんが当初から容疑を認めているとして始まっており、それゆえマスコミのバッシングも一気に高まったのだが、容疑を否認しているのか認めているのかは、実は曖昧だった。

この2点は、この事件の報道の基本的なポイントで、これまでは明らかな事実として扱われてきたのだが、弁護士がそれに異議を呈したわけだ。つまりこの弁護士コメントが主張したのは、この2点については確定した事実でないので注意してください、ということではないのか。ただその説明の中で、裕太さんに強姦の認識がなかったことなどを主張したために、あたかも示談で合意したことを後になってひっくり返しているかの印象を持って受けとめられたのだろう。

実際、強姦事件については加害者と被害者の言い分がそんなふうに対立するのはしばしばあることだから、被害女性に同情していた人から見れば、弁護士が加害者の一方な言い分をこの期に及んで表明したかのように映り、反発が噴き出たのだろう。それとマスコミにしてみれば、これまで自分たちが報道してきた内容を否定するコメントだから、当然反発する。裕太さんが釈放時にお詫びをしながら、その目は報道陣をにらみつけていたという見方も多い。11日付東京スポーツの見出しなど「釈放高畑裕太サイド逆ギレ声明背景 親バカ淳子の思い込み『息子は誤解されている』と…」というわかりやすいものだった。

私は、この弁護士コメントは、裕太さん側の言い分を示そうとしたというより、報道のありようをめぐる問題を提起したものであるように思う。前述した東京新聞のコラムで私はこう書いた。

《つまり容疑を全面的に認めているとか、歯ブラシ云々という報道は誤りだった可能性があるというわけだ。

この顛末で思い出したのは、十数年前に起きた某大学ラグビー部の集団レイプ事件だ。逮捕された学生らは不起訴となり、うち何人かは、週刊誌などの報道があまりに事実と異なるとして裁判に訴えた。

報道のあり方をめぐる問題になった時点で私は取材者として深く関わり、逮捕された側だけでなくレイプの被害女性にも話を聞いた。被害女性の側も報道がかなり事実と違うと憤慨していた。ちなみにその女性とは今も時々メールをやりとりしているが、いまだに事件のトラウマを抱えたままだ。

今回の事件はこれで終結するのだろうが、報道のあり方については考えてみるべきだろう。》

レイプ事件の報道は、概ね加害者に対する怒りにかられて行われるから、事実認定がいささか乱暴になされることがある。そのことを私は、1998年に起きた集団レイプ事件報道を例にとって説明しようとしたのだ。もう少し詳しくそれをここに書いておきたいと思う。このレイプ事件報道について私は当事者の話を聞き、その報道がいかに問題だったか検証したのだが、特に強調したいのは、加害男性の話も何人も聞いたが、被害女性の話も詳しく聞いていることだ。立場は正反対だが、双方ともマスコミ報道がひどいという認識では一致していたのだ。

その前に事件について簡単に説明しておこう。集団レイプ事件があったのは1997年11月13日未明だ。強姦された被害女性が警察に訴え捜査が進められた結果、1998年1月20日未明に5人の男性が逮捕され、実名・顔写真入りで連日大々的に報道された。逮捕者はその後7人になっているが、勾留満期直前に示談が成立、全員が不起訴となった。

ところが、その不起訴の後、当時の報道がひどすぎるとして逮捕された学生2人がBPOに申し出を行ったり、週刊誌を提訴するに至った。学生ふたりというより、まだ大学2年生だった彼らの親たちが、息子の話を聞いて報道のひどさに憤ったというのがきっかけだった。

逮捕され示談によって不起訴となった関係者が、報道が事実と違うと主張していることを知ってその当事者に接触したのが、私がその事件に関わることになった発端だった。その後、私は事実関係を確かめるため、逮捕された学生の親や当事者たちに次々に話を聞いて行った。そしてその過程で、被害女性にもぜひ話を聞きたいとアプローチし、接触することができた。月刊『創』1998年7月号に特集を掲載し、双方の主張をそのまま紹介した。

集団レイプについては、外形的事実は双方とも認めているが、受け止め方はかなり違う。また逮捕された何人かの間でも、関与のしかたはそれぞれ違うので、言い分はかなり異なっていた。メディア訴訟を行った2年生2人の場合は、途中から先輩に「お前らも来てみろ」と言われて部屋に行ったもので、そこでレイプが行われていたという認識は全くなかったという主張だ。裁判になればそれらの主張がぶつかりあったのだろうが、示談を経て不起訴となったことで、詳しい事実経過はいっさい封印されたのだった。

別にここで事件の真相がどうだったのか今さら蒸し返そうというのでない。今回の事件との関係でぜひ考えてほしいのは、その時どんな報道がなされ、当事者がどう受け止めたのかということだ。加害者側も被害者側も、当時の報道が問題だという認識では一致していたからだ。

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