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厚生労働省は、霞が関の中で一番ブラックな職場。それでも職員が残って働くのは「志」があるからなんです―「賢人論。」第9回宇佐美典也氏(後編)

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元経産省官僚・宇佐美典也さんによる「賢人論。」も遂に最終回。「厚生労働省の官僚には、10年先、20年先を考えている余裕なんてない」「日本の社会保障問題が破綻に向かって歩いているのは間違いない」など、前編・中編と続けてストレートな発言が注目を集めたが、そんな“宇佐美節”は今回も絶好調。国政についての話から、今回は自身が携わるギャンブル依存症団体の活動についても、介護と絡めた興味深い話を伺った。

取材・文/安濃直樹(編集部) 撮影/大木大輔

厚生労働省の役人は、「ボランティアか!」ってくらいサービス残業してるんですよ

みんなの介護 中編「年金制度の設計は、経済成長率が2%を継続する前提で進んでいること自体が無茶な話」では、厚生労働省は現在の年金を確保するために狼少年のようなことをしているという、衝撃的な言葉がありました。

宇佐美 別に衝撃的なことでもなんでもなくて政府が公式に発表している情報を振り返れば、誰でもわかることなんですけどね。この点日本はギリシャのことを笑えないと思うんですよね。ギリシャだって思っていたはずなんです、好景気はずっとは続かないって。いわゆる有識者と呼ばれる方はみんな指摘していたんですが、当時、国民はそれほど危機感を持ってその情報を捉えませんでした。「今が続く」と思っていたんです。

それは日本でも一緒で、普通の人にとっては将来的なことなんかより日々の生活の方がはるかに大事ですよね。私だって公務員で安定した将来設計ができる恵まれたサラリーマンだったからこそ、将来のことを考える余裕があったわけで、フリーランスになって今感じることは、「30年後の年金より今日の生活」っていうのが普通の感覚ですよね。

みんなの介護 元官僚の宇佐美さんでも、そんなことを感じるんですね。金銭的には余裕がありそうなのに…あ、「肩書き捨てたら地獄」でしたか(笑)。

宇佐美 辞めたのが30歳の時で、その時点で年収500万円ほどですから、そんな余裕があったわけではなくて、あっという間に貯金がつきましたね、1週間を1,000円で過ごさなきゃいけない時期があったくらいですから。まさに将来の年金なんかより明日のメシ代(笑)。

多くの人が勘違いされていると思うんですけど、官僚の年収なんてたいしたものではないんですよ。安定しているというのは間違いないですけど、天下りだって先細りですしね。大部分の官僚は「なんとか日本を良くしたい」と思って働いているんですよ。そしてその結果が現状なわけです。「どうせ役人は自分のことしか考えてない…」的な非難をして、それで楽になろうとしても、今日本が抱える大きな問題の解決には何もつながりませんよ。

厚生労働省の役人なんて、僕からしたら「ボランティアか!」ってくらいサービス残業してますからね。若手なんて時給で言ったら1,000円くらいだと思います。ブラック企業を取り締まるはずの職場が、霞が関で一番ブラックな職場ですよ。彼らがなんでそういう職場に残るか、っていったらそこはやっぱり「志」なんですよ。本当は転職した方がよっぽど労働時間も減って、稼げるお金も増えるんですから。

社会保障の予算の枠は決まっているわけだから、介護の予算を増やすということは年金を減らすということになる

みんなの介護 話を国政の方に戻しますね。「介護職員の待遇を手厚くするためには、年金・医療のお金を回してでも、介護の予算を大きくする必要がある」ということは、前編「厚生労働省の官僚には、10年先、20年先を考えている余裕なんてない」でもお話しいただきました。すると、別の問題が噴出しそうです。

宇佐美 社会保障の予算の枠は決まっているわけですから、介護の予算を増やすということは年金を減らすということ。それ、どっちにしますか?ということですね。

結局、票に直結する高齢者の利害が優先されているのが現状です。それは政治家のせいでもなく、かといって官僚のせいでもなく、選挙というプロセスを通じた日本国民の総意の結果です。現状、高齢者層の方が利害が一致していて、かつ投票率も高いため、高齢者サイドからの「若いうちはつべこべ言わずに安く働けば良い」とか「高齢者の医療費負担は低くなきゃダメだ」という潜在的な意志が政治的に反映されているということです。もちろんそれは、口に出しては言わないですけど、間違いなく現実になっているんです。

みんなの介護 そうした考えが浸透してしまうと、「世代間格差が…」などとなってしまいそうなのが怖いです。

宇佐美 でも我々は、そういった上の世代が作った日本という国の基盤の上で生きているわけですから、それを安易に世代間格差の議論にしてしまうのは違和感を覚えるんですよね。ただ現状は、高齢者の利害に政治が配慮しがちなのは間違いないので、若者は不満があるならもっと本気で戦う手段を考えなければいけないと思うんですよ。

例えばですけどね、介護職員の方で給料に不満を持っている方が多いのであれば、どんどん辞めていけば良いと思いますよ。1年くらい準備して、お金を稼げるところに転職すればいいじゃないですか。日本は若者が転職しやすい社会ですし、幸い今は求人率は高い状況にあります。

みんなの介護 そんな状況になってしまったら、介護サービスを利用したくでも利用できない、いわゆる「介護難民」が増えてしまいそうです。

宇佐美 そうなってしまったら、そのときにようやく政治家が本気で介護職員の給料を増やすために、年金総額を減らしたり、医療費負担の増額を検討したりするようになるんでしょうね。何度も言いますが、社会保障費全体の枠は限られているんですから。なのでそれくらい追い詰められないと政治は変わらないと思います。政治は綺麗事ではなく戦いなんです。

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