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厚生労働省の官僚だって、「経済成長?これ、ウソだなー」なんて思いながら制度設計をしていると思います―「賢人論。」第9回宇佐美典也氏(中編)

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元官僚ならではの鋭い指摘で反響を読んだのが前編「厚生労働省の官僚には、10年先、20年先を考えている余裕なんてない」。元経産省官僚の宇佐美典也氏の目にも、厚生労働行政は逼迫しているように映ると言う。では、厚生労働行政の中でも大きなウエイトを占める社会保障関連が抱える問題については?中でも今回は、年金制度が直面している問題について多くを語ってもらった。「年金制度が破綻に向かっていることは間違いない」と断言する、その真意とは…。

取材・文/安濃直樹(編集部) 撮影/大木大輔

日本経済が成長していくためには、生産性を上げなければどうしようもない

みんなの介護 そもそも宇佐美さんは、どうして経済産業省に入ろうと思ったんですか?

宇佐美 一言でいえば、楽しそうだったから入ってみたい…と思ったんですが、よくよくルーツを辿ってみると、実はうち、祖父が事業家で結構大きな借金を残して亡くなったんですよ。茨城県で、漁船業に始まって、土地を担保にして個人で連帯保証して大きなお金を借りて、ホテルを建てて、リゾート開発して…という具合に一代で大きな事業を作ったんですが、それがバブルが崩壊して一気に業況が悪化して会社が債務超過に陥ってしまった。

そんな過去があるもんですから、起業家にやさしい中小企業政策ができるような管轄省庁に入りたいと思ったんですね。

みんなの介護 なんだかものすごい因果ですね。では、実際に入省してからはどのような仕事を手がけられたんですか?

宇佐美 法律をたくさん作りましたね。特に僕が手がけたのは工場立地に関する法案の作成で、工場を建てるときの税制の減税とか。あとは、農水省と共同して農業への参入規制を緩和するような法律を作ったり、といった感じでしょうか。特許関係の法律法の改正などにも携わって、経産省にいた最初の5年くらいは、ひたすら法整備をしていましたね。

後半の3年間は、民間企業の参加を募った何百億円というプロジェクトがメインでした。半導体を開発するプロジェクトや太陽光発電のマネジメントや戦略決定に携わったり。

みんなの介護 そうしたプロジェクトに関わってきた宇佐美さんから見て、今後の日本の経済はどのように推移していくと思いますか?

宇佐美 日本経済が成長していくためのアプローチは2つだけだと思っています。ひとつは、生産性を上げること。ものすごく単純に見ると経済の規模というのは、一人あたりどれくらい稼げるのかということと、何人働く人がいるのかということの掛け算で考えられます。

1000万円稼ぐ人が100人いれば10億円の経済圏ということです。前者が生産性で、後者が労働人口の議論。そう考えると、これから労働人口が増えることはあり得ないので、生産性を上げなきゃしょうがないですよね。一方で労働人口が減ってしまうことはなんとしても防がなければいけないので、高齢者の労働参加を促す政策をとる必要があります。例えば年金の支給を遅らせるとか。

みんなの介護 一人あたりの生産性が上がるということは、一人当たりの稼げる額がも大きくなる、と考えて良いですか?

宇佐美 そういうことです。これからの時代は「清貧」的な思想は一切、廃した方が良いと思うんですよ。給料が上がることは良いことだ。それで良いじゃないですか。なんだか日本人的な感覚なのかわかりませんが、稼いでいる人を妬む風潮って少なからずありますけど、そういうのって誰のためにもならないと思うんですよ。金持ちが増えたら喜べばいい。

ただ一方で、国としては高給をとって裕福になっていく人たちのお金が介護をはじめとした社会保障関連の分野にお金が回るような税制を整備することも大事だと思っています。その辺は、前編の「介護職員の給料を上げるのではなく、生活コストを下げるような施策を考えれば良い」でもお話しした通りです。


日本が抱えている社会保障の問題については誰も答えを持っていないが、破綻に向かって歩いているのは間違いない

みんなの介護 裕福層がいる一方で、当然ですがそうでない人たちもたくさんいます。特に昨今では「下流老人」という言葉が世間を賑わすなど、貧困にあえぐ高齢者が増えているという側面もあります。

宇佐美 確かに、生活保護を必要とする人が増える一方…というのも、社会的な問題ですね。

みんなの介護 例えばですが、以前に「賢人論。」にご登場いただいた堀江貴文さんは「最低賃金を撤廃すれば高齢者の働く場所が増える。社会参加も積極的にできるようになるんですよ」の中でベーシックインカム(注・政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するという構想)を導入する案を提案されたり、ちきりんさんからは「介護業界全体に流れ込むお金を増やさない限り、介護職員の待遇は良くならない」の中で生活保護以外の社会保障を撤廃するという提案もありました。

宇佐美 うーん、私はそうした考えには懐疑的なんですよね。そもそも年金というのは、国民が将来をお金の不安なく暮らせるようにするための制度ですよね。つまり、年金の議論というのは将来のための政治の議論です。それなのに、それを生活保護に置き換えると全部リアルタイムの政治の議論になってしまって、国家として長期計画が持てなくなってしまいます。

「年金は不安だらけだ」とは言っても、その枠組みを組んでいるからこそ10年先、20年先のことを議論できるんです。矛盾するようでありますが「年金財政が破綻している」ということも年金という制度があるからこそ議論できるわけです。これが年金という制度がなければ、その時々の世論に流されて政府がもっと大盤振る舞いして赤字財政が拡大すると思いますよ。世界を見渡してください。社会保障を生活保護だけにまとめている国なんてありませんよ。それはつまり、非現実的な考えだからだと、私は思いますけどね。

みんなの介護 それは、前編「千兆円にも及ぶ赤字があるなかで、介護職員の給料を上げられるような予算をとってくるのはすごく大変」でお話しいただいたような、「厚生労働省=自転車操業状態」と通ずるものがありますね。

宇佐美 厚生労働省みたいに一番将来のことを予測して政策を考えなければいけない省庁が目の前の問題に追われてばかりいるような状態になってしまうのは国家として大変マズイ状況ですよね。結果として、今、日本が抱えている社会保障の問題については誰も答えを持っていない状況になっているわけですから、日本の社会保障制度は破綻に向かって歩いているのは間違いないと思います。

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