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あなたの思う福島はどんな福島ですか?――ニセ科学とデマの検証に向けて - 林智裕

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福島第一原発事故の被害が伝えられる際には、客観的な根拠や現地の一般の人々の声以上に、政治的な思惑や社会的な影響力が強い人たちの「大きな声」ばかりが目立ちました。このことが情報を錯綜させ、福島に対しての誤解や支援のミスマッチによる復興の遅れ、風評被害などを拡大させてきたと言えます。

今回の記事では、そのような「大きな声」の一部を具体例として集めました。

目的としているのは、これらの事実を事実として、当時の空気感と共に記録に残すことです。震災と原発事故がとくに報道や伝達の段階において、どのような被害を実際にもたらし、なぜそのような事態が起こってしまったのか、それを考察するための記録資料として残すためです。具体的な記録を残すために実例を用いますが、一つひとつの事例をもって特定の人物や団体を非難することが目的ではありません。

なお、これらの「大きな声」はいわゆるノイジーマイノリティであって、震災後に福島に向かった声がすべてこのようなものばかりだったということでは決してありません。このような声をはるかに上回る、多くの温かい言葉やご支援に助けられてきたことを、はじめに記しておきます。

センセーショナリズムを優先に語られてきた「フクシマ」

震災以降、福島は政治的な思惑や象徴化された記号「フクシマ」として、まるで神話や怪談のように語られることがしばしばありました。さらには、「日本に人が住めなくなる」「フクシマだけでなく、東京も壊滅する」などの荒唐無稽な言説も飛び交い、メディアなどでも有名な人物や学者、ジャーナリストなどの一部までもがこれらに賛同してきました。

たとえばテレビ番組などでもお馴染みの、中部大学の武田邦彦氏などはとくに熱心に放射線被曝の恐怖を語り、震災後には沢山の関連書籍を執筆して、講演会などでも精力的に活動していらっしゃいました。2012年にはご自身のブログで『あと3年・・・日本に住めなくなる日 2015年3月31日』と書きました。

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武田邦彦氏の2012年のブログより。「日本に住めなくなる日」を、今から約1年半前の2015年3月31日と断言しています。

同様に、作家の広瀬隆氏は「タイムリミットは一年しかない」と、『東京が壊滅する日─フクシマと日本の運命』という本を出版しましたが、2016年7月17日でこの本の出版から一年が経ち、自ら設定したタイムリミットも過ぎました。(参照;「タイムリミットは1年しかない! 戦後70年の「不都合な真実」とは?」――広瀬隆×坪井賢一

日本社会では言論に自由がありますが、自由には必ず責任も伴うはずです。かりに持論で放射線の危険性を訴えるとしても、なぜ社会的な地位のある方々までもが、「日本に人が住めなくなる」「東京が壊滅」などと、比喩の範疇を超えた不正確で極端なフレーズを使う必要があったのでしょうか。

また、多くのメディアでも、放射線の影響についての報道はセンセーショナリズムが優先されて、その結果、様々な誤解が広がり続けました。なかには、先天性異常に関するものも多くみられました。

たとえば、2011年7月に発売された週刊現代では「残酷すぎる結末 20年後のニッポン がん 奇形 奇病 知能低下」とのタイトルで特集を掲載し、低線量被曝によってガンや白血病の発症率増加、新生児の先天性異常率増加などの危険性があると主張しました。その上で、被曝の遺伝的影響や被曝による子どもの知能低下、犯罪に走る確率の増加にまで言及しました。しかも、「福島より首都圏のほうが危険なくらいだ」とも記載しています。

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同時期に出版された雑誌『クロワッサン』でも、表紙に「放射線によって傷ついた遺伝子は子孫に伝えられていきます」という誤った内容を記載し、こちらは後に出版元が公式サイトにて訂正・謝罪しています。

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同じく2011年に、ジャーナリストの岩上安身氏も、新生児の先天性異常について「おまたせしました。スクープです!!」などと伝えましたが、当然ながら放射線の影響とは無関係です。

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なお、岩上氏は、後の2014年には「福島県での享年が若すぎる」と主張するも、福島県民に新聞のお悔やみ欄を実際に集計されて、その主張が否定されています

また、メディア以外に公人による誤った言説も見られました。内閣府所管の公益財団法人「日本生態系協会」の池谷奉文会長は、自治体議員ら65人が出席した日本生態系協会主催の講演中(2012年7月9日)に、次のように発言しました。

「放射能雲が通った、だから福島ばかりじゃございませんで、栃木だとか、埼玉、東京、神奈川あたり、だいたい2、3回通りましたよね、あそこにいた方々はこれから極力、結婚をしない方がいいだろうと。結婚をして子どもを産むとですね、奇形発生率がドーンと上がることになっておりましてですね、たいへんなことになるわけでございまして」

同様に、長野県松本市長菅谷昭氏が2011年12月号の「広報まつもと」で、「福島の汚染はチェルノブイリ周辺より高い」との旨の発言をしています。そこでは新生児の先天性異常の増加なども危惧される発言しています。

もちろん、「チェルノブイリ周辺よりも汚染されている」ということはありませんし(「東電福島第一原発の事故はチェルノブイリより実はひどいのか?――原発事故のデマや誤解を考える」菊池誠×小峰公子)、福島で新生児に先天性異常が増加しているという事実もありません

これらの誤解はいずれも人体や遺伝的影響についての誤解であり、たとえ「なんとなく不安」という意識から悪意無く発信されたとしても、差別に繋がる深刻なデマへと容易に変異する可能性があるのは言うまでもありません。

放射線被曝による次世代への遺伝に対しての影響は、これまでの信頼性の高い調査では見出されておりません。加えて、東電原発事故で胎児に先天性異常の増加に影響を与えるレベルの放射線被曝をした方は誰もいません。これは、70年以上の時間をかけた広島と長崎の被爆者調査と、東電原発事故後の実測データから明確に断言できます。これらはWHOの東電福島第一原発事故に関連したページでも確認することが可能です。

10. Will future generations be affected?(次世代への影響はありますか?)

A risk of radiation-induced hereditary effects has not been definitively demonstrated in human populations.(放射線が人の遺伝に影響を与えるリスクは実証されていません)

Frequently asked questions on health risk assessment

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