- 2016年09月14日 17:51
「感動」するわたしたち──『24時間テレビ』と「感動ポルノ」批判をめぐって - 前田拓也
4/4「感動ポルノ批判」と「本音主義」の親和性
――前田さんは『バリバラ』の「感動ポルノ」批判をどのように観ましたか?
ここまで述べてきましたように、たしかに「感動ポルノ」は批判されてしかるべきものです。しかし、ここでわたしが危惧するのは、「感動ポルノ」批判が含んでしまっている、露悪的な、ある種の「本音主義」のようなものとの親和性です。
そうした態度は、ネット上で「建前を排して本音を語る」、あるいは、「タブーに挑戦する」というかたちを取りながらヘイトをばら撒いたり、公の場で「本音」という名の暴言をブチまける人が喝采を浴びるようになってしまうような心情と、ときに親和的であるように思えるんです。
小田嶋隆さんは、『超・反知性主義入門』(2015)のなかで、「本音」の痛快さが消費されていく現状に疑義をさしはさみます。
近年、「『学級委員長』的言説」が忌避され、「『本音』が、まさに『本音』であること自体によって免罪されるはずのものだということを、強烈に信じ込んでいる」(p107)人の声がとても大きくなってきているように感じます。
「善悪や正邪とは別に、『本音』と『建前』という座標軸が現れた時、無条件に『本音』を神聖視する考え方が力を持」ち、「『露悪的な人間ほど信用できる』という倒錯が生じ」ています(p109)。
「差別の問題でも、いつの頃からなのか、ネット論壇の流れは、差別を指摘する言説より、『他人の差別をあげつらう人間の傲慢さ』や『差別されている側に寄り添ったつもりでいる人間のドヤ顔』を揶揄する」物言いの方が、より高いポイントを稼げるようになっています(p139)。
たしかに、「文科省推薦!」的な正しさへの懐疑や、「学級委員長」的な言説へのシニシズムそれ自体は、ある程度健全なものなのかもしれません。しかし、バリバラの「感動ポルノ」批判が、「感動」の逆張りに終始するものとして解釈され、「良識」や「偽善」を嗤って「本音」の側につくという共犯意識をつくりだすことに成功しただけなのだとすれば、あるいは、「本音」の共有によって、障害者への負の感情が共通の足場を獲得していってしまうのだとすれば、やはりそれをそのまま素直に肯定することはできません。
ですから、「感動ポルノ」はあくまでも、「障害者役割」をいっそう強固にするものであるという意味において、また、「障害の社会モデル」という文脈において、批判されるべきだと考えます。
『バリバラ』は、マスメディアが障害者をどのように扱ってきたかを振り返り、自己批判、自己反省を番組内容に反映させようという努力を、今回の「感動ポルノ」特集回に限った話ではなく、それこそ毎週のように続けてきている番組です。
ですから、たしかに24時間テレビの真裏に確信犯的な内容をぶつけてくるということ自体はおもしろいなと思うものの、そこだけを取り上げてみても、彼らをうまく評価はできないだろうと思います。これをきっかけに、今後もっとたくさんの人に観られるようになれば、またはなしは違ってくるのではないでしょうか。
(注)「そういう大学生」の1人だった前田は、「じゃあ実際の福祉の現場はどうなってるんだろう」ということで、その後、社会調査/取材をはじめることになる。こうした経緯については、前田拓也・秋谷直矩・朴沙羅・木下衆編『最強の社会調査入門──これから質的調査をはじめる人のために』(ナカニシヤ出版)のなかで詳しく述べた。
【参考文献】
木ノ戸昌幸, 2016, 『Swingy days』NPO法人スウィング
北田暁大, 2005, 『嗤う日本の「ナショナリズム」』NHKブックス
アッシュ,アドリアン, 2000「米国の障害学」 倉本智明・長瀬修編『障害学を語る』エンパワメント研究所、43-58.
ダナファー,ニック, 2000「英国の障害者運動」 倉本智明・長瀬修編『障害学を語る』エンパワメント研究所、75-89.
Hevey, David, 1992, The Creatures Time Forgot: Photography and Disability Imagery, Routledge.
倉本智明編, 2010, 『手招くフリーク──文化と表現の障害学』生活書院
Grue, Jan, 2016, ‘The problem with inspiration porn: a tentative definition and a provisional critique”, Disability & Society Vol. 31, Iss. 6.
石川准, 1992, 『アイデンティティ・ゲーム──存在証明の社会学』新評論
星加良司, 2011, 「障害者は『完全な市民』になりえるか?」, 松井彰彦・川島聡・長瀬修編『障害を問い直す』東洋経済新報社: 229-257.
ゴッフマン, アーヴィング, 1963=2001, 『スティグマの社会学──烙印を押されたアイデンティティ』せりか書房
小田嶋隆, 2015, 『超・反知性主義入門』日経BP社
ステラ・ヤング: 私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく Subtitles and Transcript
著者/訳者:前田拓也 秋谷直矩 朴 沙羅 木下 衆
出版社:ナカニシヤ出版( 2016-07-27 )
定価:¥ 2,484
Amazon価格:¥ 2,484
単行本(ソフトカバー) ( 246 ページ )
ISBN-10 : 4779510791
ISBN-13 : 9784779510793
前田拓也(まえだ・たくや)
社会学
神戸学院大学現代社会学部 教員。関西学院大学大学院社会学研究科。博士課程後期課程単位取得満期退学、博士(社会学)。専門は、福祉社会学、障害学。主著『介助現場の社会学──身体障害者の自立生活と介助者のリアリティ』(生活書院、2009年)編著『最強の社会調査入門』(ナカニシヤ出版、2016)



