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東大の「秋入学移行」決断 もはや逡巡する時ではない

東京大学がグローバル人材の確保・育成で懸案だった「秋入学」移行について、年内に一定の結論を出す方向で問題点を詰めていることが明らかになった。急展開するグローバル化を背景に、欧米もアジア新興国の大学も優秀な人材の育成にしのぎを削っており、政府と一体となって「頭脳」獲得に取り組んでいる。日本は「グローバル30」を打ち出したものの、政府仕分けで採択13大学は進行を一旦中断させられるなど、世界の頭脳獲得競争からすれば周回後れで、政府にも大学にも危機感が薄いといわれてきた。日本企業のグローバル化のスピード感から言っても、大学におけるグローバル人材の育成は待ったなしの課題だ。日本の大学を牽引する旗艦大学の役割としても、今度はぜひとも実現して欲しい。


「秋入学」は世界標準 大学国際化の加速には不可欠



世界的に見れば、欧米の大学の約8割は「秋入学」で、国際標準となっている。海外大学との留学生交換を円滑にし、大学国際化を加速させるためにも不可欠。かねて大学国際化の“切り札”としてこの議論は繰り返されてきた。2007年の安倍晋三政権時代には「4月入学が原則」とされてきた入学時期を学校教育法施行規則の改定で、学長判断で決められるようにした経緯もある。

しかし、桜咲く頃の「春入学・春卒業」は日本人の生活様式として定着、高校教育までの仕組み、企業や官庁の「4月新卒採用」といった「厚い壁」を打破しきれず、秋入学への完全移行は実現してこなかった。

東大によれば、濱田純一総長の打ち出した「東大行動シナリオ」に基づき、清水孝雄副学長を長とする「入学時期の在り方に関する懇談会」で、(1)秋入学までの半年間、合格者にギャップイヤーとしてどのような社会経験を積ませるか (2)入学・卒業を全面的に秋に移行するか、卒業を春にして大学の修学期間を4年以上に延長するか (3)秋入学を春入学と組み合わせるか、全面移行するか――等の問題点を詰めているという。また東大が踏み切れば、他の有力大学へも影響を及ぼすし、官庁や企業の採用活動にも波紋を投げかけるのは必至で、幅広い観点からの検討が避けられない。

世界の有力大学に比べ、圧倒的に低い留学生比率



しかし、世界で進む頭脳獲得競争や日本企業のこのところのグローバル化のスピードから言っても、もはや逡巡している時ではない。どこかが先頭を切って進めなければならない切羽詰った日本全体の課題であるし、旗艦大学の役割でもある。なにより東大自体に、秋入学という国際標準に合わせないと世界の大学間競争に後れを取るという危機感もあろう。

東大の外国人留学生は2872人(2010年5月)。海外に留学中の東大生は301人。日本の大学における留学生数からすれば、早稲田大学に次ぐ規模だが、全学生に占める留学生比率は7%超で、オクスフォード大学(29%)、ケンブリッジ大学(27%)、マサチューセッツ工科大学(27%)など世界の有力大学に比べ、明らかに低い。海外で学ぶ東大生数にいたっては話にならないほど少ない。

グローバル化の進展、とりわけ中国やインドなど新興国の台頭で、世界全体の留学生は2000年の200万人から08年には330万人に激増しており、欧米もアジア新興国も留学生の送り出しや取り込みに必死なのである。世界レベルの教育による育成と人的ネットワークの構築こそが21世紀の、生き残りをかけた「国力の源泉」になるからだ。

中国は毎年5000人の大学院生を米国などの大学に送り込む計画を進めているし、IT分野で世界トップ水準にあるインドは欧米企業や大学に若者を大量に送り込み、世界とインドをつなぐ人材ネットワーク作りを構築している。韓国も凄い伸びだ。例えばハーバード大学やスタンフォード大学への留学生数はカナダ、中国に次いで世界3位へと駆け上がっているし、世界の一流スクールを済州島に呼び寄せ、グローバルエリート教育を行う「国際教育都市プロジェクト」は良く知られるところだ。

これまで世界の大学教育を先導してきた米国の大学も欧州やアジアが急追してきたとの危機感のもと改革を急いでおり、相変わらず世界から優秀な留学生を集め、欧州やアジアと結ぶ頭脳循環にかげりが見られない。アジアの人材争奪でいいポジションにありながら、産官学の足並みが揃わない日本だけが世界から置き去りにされようとしているのだ。

東大は20年度に留学生3500人



だからこそ、「世界を担う知の拠点」を掲げ、日本の知の水準を高めていく重要な責務を負う東大を動かそうとしたのだろう。留学生を世界中から集め、キャンパス自体をグローバル化すれば日本人学生を刺激するし、積極的に世界に飛び出していく誘因にもなろう。グローバル30で東大では現在2900人弱の留学生数を20年度までに3500人にする計画で、そのために英語だけで学位を取れる大学院のコースを拡充、教養学部でも12年10月に「国際教養コース」を設置する計画だ。留学生を呼び込むには入学要件から日本語をはずし、英語の授業数を増やし、魅力的なプログラムを作らなければならないし、寮施設の拡充、そして国際標準である「秋入学」も必須なのである。

一方、産業界では人口減、少子高齢化で国内マーケットが急速に縮む中、自動車、電機業界のみならず、日用品、食品、製薬、玩具、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、外食、金融と、ほとんどの業種が海外進出の強化や海外売上高比率の引き上げを計画し、凄まじい勢いでグローバル化を進めている。

こうした中で日本経団連も「グローバル30」の13の採択校と連携し、グローバル人材の養成に乗り出すほか、日本人学生の海外留学支援や外国人留学生の受け入れ促進に向け、奨学金制度の設置に動き出しており、東大の「秋入学」にも「グローバル人材の育成にプラス」と期待をかける。東大のようなトップ大学の間で、秋入学が広がれば、企業も採用活動を変えるのは必至。通年採用のような仕組みに移行する機会になるだろう。

東大にとって、具体化までに検討すべき課題は多いが、グローバル化で周回後れの日本の大学改革にとって、旗艦大学の避けて通れない選択である。

(2011.07.06)

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