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- 2016年09月12日 09:53
若年層の経済格差と家族形成格差~増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違い - 久我 尚子
1/2
■要旨
■目次
1―はじめに
2―若年層の非正規化と年収格差
1|非正規雇用者の割合の推移~90年代以降、急増
2|世代別に見た非正規雇用者の割合
~若い世代ほど同年齢でも非正規が多い、「世代効果」の負の影響
3|雇用形態別に見た平均年収
~特に男性で年齢とともに差が拡大、若年非正規は年収300万円以下
4|雇用形態別に見た年収階層別の雇用者数分布
~年齢とともに正規で2つの分布、ピークは高い位置へ
5|年収300万円未満層の人口・雇用者比率
~20代男性263万人・雇用者の過半数、非正規では約8割
3―若年層の家族形成格差
1|男性の年収と既婚率の関係
~年収300万円あたりの結婚の壁にぶつかる20~30代男性は約400万人
2|雇用形態別に見た婚姻・恋愛の状況
~20~30代非正規男性の既婚率は約5%、交際相手なしが8割
4――おわりに
本稿では、若年層の経済状況や家族形成状況について、改めて最新の数値で確認することで、雇用形態による経済格差はどのくらいあるのか、家族形成の壁にぶつかっている層はどれくらいいるのか等を把握し、若年層の雇用と家族形成に関わる課題をより明確化することを目的とする。
1 本稿では総務省「労働力調査」と同様、会社・団体等の役員を除く雇用者のうち、「正規の職員・従業員」を正規雇用者、「パ-ト」や「アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」、「契約社員」、「嘱託」、「その他」を非正規雇用者とする。
1|非正規雇用者の割合の推移~90年代以降、急増
総務省「労働力調査」によれば、雇用者に占める非正規雇用者の割合は1990年代から上昇している(図表-1)。特に若年層で大きく上昇しており、2015年では15~24歳の男性44.6%、女性52.1%、25~34歳の男性16.6%、女性40.9%を占める。この中で25~34歳の男性の値は比較的低いが、15年前と比べて3倍に上昇している。現在では家族形成期にある男性の6~7人に1人が非正規雇用という不安定な立場で働いていることは、未婚化・少子化が進行する中で大きな課題である。
一方、35~44歳では、男性は若年層と比べると非正規雇用者の割合は低いが、やはり1990年代以降、上昇傾向にある。女性はM字カーブ問題で言われるように、出産・子育てで一旦離職し、子育てが落ち着いてからパート等で再就職するケースも多いため、非正規雇用者の割合は以前から高水準だが、男性同様、やや上昇傾向にある。
なお、同調査では2013年から、より細かな年齢区分でデータを公表している。状況を詳しく見るために、5歳階級別の雇用者に占める非正規雇用者の割合を示す(図表-2)。図表2では、図表1で10歳階級別に見た傾向と同様、男性では年齢が若いほど非正規雇用者の割合が高い。また、女性では20代までは年齢が若いほど非正規雇用者の割合が高いが、25~29歳を底に30代以降は年齢とともに非正規雇用者の割合が高くなる。なお、直近3年間では、いずれの年齢階級でも横ばいで推移している。
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2|世代別に見た非正規雇用者の割合~若い世代ほど同年齢でも非正規が多い、「世代効果」の負の影響
非正規雇用者の増加要因については、2000年頃から特に若年層に注目した報告が増えており、マクロ的要因として景気変動や労働需要の変化2、個人的要因として生まれ育った社会階層や家庭環境3などの影響が指摘されている。マクロ的要因として、2008年の労働政策研究・研修機構の周氏による報告では、新卒時点の労働市場の状況が、その後のキャリアに継続的に影響を与える「世代効果」が指摘されている。
本稿でも「世代効果」に注目し、総務省「労働力調査」の最新値を用いて、生まれ年別に雇用者に占める非正規雇用者の割合を見ることで、世代(生まれ年)間の違いを確認する。つまり、年齢とともに非正規雇用者の割合は変化するが、世代によって、その変化に違いはあるのかを確認する。
図表3は、男性の1981~90年生まれでは、雇用者に占める非正規雇用者の割合は15~24歳時点では44.3%、25~34歳時点では16.6%というように見る。その結果、男性では生まれ年が最近であるほど、つまり、若い世代ほど、各年齢階級における非正規雇用者の割合が高くなっている。
女性では30歳前後で出産・子育てを機に離職するケースも多いため、男性とグラフの形状は異なるが、やはり若い世代ほど各年齢における非正規雇用者の割合は高い傾向がある。
つまり、生まれ年別に非正規雇用者の割合の推移を見ると、生まれ年が最近であるほど、新卒時点から非正規雇用者の割合が高く、年齢を重ねても非正規雇用者の割合は高水準で推移している。よって、若い世代ほど始めから非正規雇用者として働き、そのまま非正規雇用者として働き続ける者が多いことになる。景気低迷が長らく続き、新卒一括採用が主たる日本の労働市場では、若い世代ほど、負の「世代効果」が働いている様子がうかがえる。
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2 周燕飛(2008)「若年就業者の非正規化とその背景:1994-2003年」、日本経済研究、NO.59、2008.7. 等
3 西村幸満 (2006) 「若年の非正規就業と格差~都市規模開格差、学歴間格差、階層間格差の再検討」、季刊社会保障研究、42、pp. 137-148. 等
3|雇用形態別に見た平均年収~特に男性で年齢とともに差が拡大、若年非正規は年収300万円以下
正規雇用者と非正規雇用者では賃金格差があることは各所で指摘されており、現在、政府は、不合理な待遇差を是正するとして、「同一労働同一賃金」の実現に向けた検討を進めている。
ここでは、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の最新値を用いて、正規雇用者と非正規雇用者の年収差、及び年齢による変化を確認する。また、両者の比率をイメージしやすくするために、各年齢階級における非正規雇用者の割合も重ねて見る。
図表4を見ると、正規雇用者と非正規雇用者の年収差は、特に男性で大きく、その差は年齢とともに拡大する。男性の20~24歳では両者の差は70.4万円だが、45~49歳では332.9万円となり、正規雇用者の年収(645.6万円)は非正規雇用者(312.7万円)の2倍以上になる。なお、45~49歳の男性で非正規雇用者は同年代男性雇用者の8.6%を占める。
また、非正規雇用男性について見ると、20~24歳では同年代男性雇用者の39.2%を占め、平均年収は222.2万円である。25~29歳では非正規雇用者の割合は19.1%であり、20~24歳と比べて大きく低下する。しかし、前項で見た通り、若い世代ほど各年齢階級における非正規雇用者の割合は高まるため、図表4の20~24歳の非正規雇用男性が25~29歳に成長する時点では、非正規雇用者の割合は現在の値を上回る可能性がある。同様に考えると、正規雇用者と非正規雇用者で年収差が2倍以上ひらく45~49歳では、非正規雇用者の割合が現在は1割に満たないが、今後、拡大する可能性がある。
女性では、男性ほどではないが、やはり正規雇用者と非正規雇用者では年収差があり、年齢とともに、その差は拡大する。なお、非正規雇用女性の年収は、最も多い35~39歳(234.8万円)でも250万円に満たない。なお、女性では新卒時点から非正規雇用者として働き続ける層と出産・子育てで離職後に非正規雇用者として働き始める層が混在することを考慮する必要がある。
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- 長らく続く景気低迷を背景に、若い世代ほど、同じ年齢であっても非正規雇用者が増えており、新卒時点の労働市場の状況が、その後のキャリアに継続的に影響を与える「世代効果」の負の影響が見える。
- 正規雇用者と非正規雇用者の年収差は、特に男性で大きく、年齢とともに拡大。40代後半の男性では正規雇用者の年収は非正規雇用者の2倍以上。20~30代非正規男性の平均年収は300万円未満。非正規女性はいずれも250万円未満。
- 年収300万円未満層は、男性では20代で263万人(雇用者の54.6%、正規雇用者の45.2%、非正規雇用者の79.5%)、30代男性で135万人(同様に20.4%、14.5%、62.4%)、40代男性で88万人(同様に12.1%、7.5%、59.4%)と推計。
- 男性では年収と既婚率は比例。年収300万円あたりで既婚率は上昇し、「家族形成の壁」がうかがえる。雇用形態や年収による経済格差は家族形成格差につながっている。
- 若年層の雇用環境の改善に向けては、「同一労働同一賃金」の検討に期待したいが、目の前の賃金だけでなく各種手当や、5年先・10年先の安定性も必要。「女性の活躍促進」のように何らかの数値目標を設定した上で、安定した雇用への転換を促す政策も必要。
■目次
1―はじめに
2―若年層の非正規化と年収格差
1|非正規雇用者の割合の推移~90年代以降、急増
2|世代別に見た非正規雇用者の割合
~若い世代ほど同年齢でも非正規が多い、「世代効果」の負の影響
3|雇用形態別に見た平均年収
~特に男性で年齢とともに差が拡大、若年非正規は年収300万円以下
4|雇用形態別に見た年収階層別の雇用者数分布
~年齢とともに正規で2つの分布、ピークは高い位置へ
5|年収300万円未満層の人口・雇用者比率
~20代男性263万人・雇用者の過半数、非正規では約8割
3―若年層の家族形成格差
1|男性の年収と既婚率の関係
~年収300万円あたりの結婚の壁にぶつかる20~30代男性は約400万人
2|雇用形態別に見た婚姻・恋愛の状況
~20~30代非正規男性の既婚率は約5%、交際相手なしが8割
4――おわりに
1―はじめに
近年、若年層を中心に非正規雇用者1が増加している。非正規雇用者は正規雇用者と比べて年収水準が低く、その差は年齢とともに拡大する。また、20~30代の男性の年収と既婚率は概ね比例関係にあり、経済状況の違いは家族形成状況にも影響を及ぼす。このような現状を背景に、政府は今年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」の中で、「希望出生率1.8」の実現に向けた「若者の雇用安定・待遇改善」への取組みの方向性をまとめている。本稿では、若年層の経済状況や家族形成状況について、改めて最新の数値で確認することで、雇用形態による経済格差はどのくらいあるのか、家族形成の壁にぶつかっている層はどれくらいいるのか等を把握し、若年層の雇用と家族形成に関わる課題をより明確化することを目的とする。
1 本稿では総務省「労働力調査」と同様、会社・団体等の役員を除く雇用者のうち、「正規の職員・従業員」を正規雇用者、「パ-ト」や「アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」、「契約社員」、「嘱託」、「その他」を非正規雇用者とする。
2―若年層の非正規化と年収格差
リンク先を見る1|非正規雇用者の割合の推移~90年代以降、急増
総務省「労働力調査」によれば、雇用者に占める非正規雇用者の割合は1990年代から上昇している(図表-1)。特に若年層で大きく上昇しており、2015年では15~24歳の男性44.6%、女性52.1%、25~34歳の男性16.6%、女性40.9%を占める。この中で25~34歳の男性の値は比較的低いが、15年前と比べて3倍に上昇している。現在では家族形成期にある男性の6~7人に1人が非正規雇用という不安定な立場で働いていることは、未婚化・少子化が進行する中で大きな課題である。
一方、35~44歳では、男性は若年層と比べると非正規雇用者の割合は低いが、やはり1990年代以降、上昇傾向にある。女性はM字カーブ問題で言われるように、出産・子育てで一旦離職し、子育てが落ち着いてからパート等で再就職するケースも多いため、非正規雇用者の割合は以前から高水準だが、男性同様、やや上昇傾向にある。
なお、同調査では2013年から、より細かな年齢区分でデータを公表している。状況を詳しく見るために、5歳階級別の雇用者に占める非正規雇用者の割合を示す(図表-2)。図表2では、図表1で10歳階級別に見た傾向と同様、男性では年齢が若いほど非正規雇用者の割合が高い。また、女性では20代までは年齢が若いほど非正規雇用者の割合が高いが、25~29歳を底に30代以降は年齢とともに非正規雇用者の割合が高くなる。なお、直近3年間では、いずれの年齢階級でも横ばいで推移している。
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2|世代別に見た非正規雇用者の割合~若い世代ほど同年齢でも非正規が多い、「世代効果」の負の影響
非正規雇用者の増加要因については、2000年頃から特に若年層に注目した報告が増えており、マクロ的要因として景気変動や労働需要の変化2、個人的要因として生まれ育った社会階層や家庭環境3などの影響が指摘されている。マクロ的要因として、2008年の労働政策研究・研修機構の周氏による報告では、新卒時点の労働市場の状況が、その後のキャリアに継続的に影響を与える「世代効果」が指摘されている。
本稿でも「世代効果」に注目し、総務省「労働力調査」の最新値を用いて、生まれ年別に雇用者に占める非正規雇用者の割合を見ることで、世代(生まれ年)間の違いを確認する。つまり、年齢とともに非正規雇用者の割合は変化するが、世代によって、その変化に違いはあるのかを確認する。
図表3は、男性の1981~90年生まれでは、雇用者に占める非正規雇用者の割合は15~24歳時点では44.3%、25~34歳時点では16.6%というように見る。その結果、男性では生まれ年が最近であるほど、つまり、若い世代ほど、各年齢階級における非正規雇用者の割合が高くなっている。
女性では30歳前後で出産・子育てを機に離職するケースも多いため、男性とグラフの形状は異なるが、やはり若い世代ほど各年齢における非正規雇用者の割合は高い傾向がある。
つまり、生まれ年別に非正規雇用者の割合の推移を見ると、生まれ年が最近であるほど、新卒時点から非正規雇用者の割合が高く、年齢を重ねても非正規雇用者の割合は高水準で推移している。よって、若い世代ほど始めから非正規雇用者として働き、そのまま非正規雇用者として働き続ける者が多いことになる。景気低迷が長らく続き、新卒一括採用が主たる日本の労働市場では、若い世代ほど、負の「世代効果」が働いている様子がうかがえる。
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2 周燕飛(2008)「若年就業者の非正規化とその背景:1994-2003年」、日本経済研究、NO.59、2008.7. 等
3 西村幸満 (2006) 「若年の非正規就業と格差~都市規模開格差、学歴間格差、階層間格差の再検討」、季刊社会保障研究、42、pp. 137-148. 等
3|雇用形態別に見た平均年収~特に男性で年齢とともに差が拡大、若年非正規は年収300万円以下
正規雇用者と非正規雇用者では賃金格差があることは各所で指摘されており、現在、政府は、不合理な待遇差を是正するとして、「同一労働同一賃金」の実現に向けた検討を進めている。
ここでは、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の最新値を用いて、正規雇用者と非正規雇用者の年収差、及び年齢による変化を確認する。また、両者の比率をイメージしやすくするために、各年齢階級における非正規雇用者の割合も重ねて見る。
図表4を見ると、正規雇用者と非正規雇用者の年収差は、特に男性で大きく、その差は年齢とともに拡大する。男性の20~24歳では両者の差は70.4万円だが、45~49歳では332.9万円となり、正規雇用者の年収(645.6万円)は非正規雇用者(312.7万円)の2倍以上になる。なお、45~49歳の男性で非正規雇用者は同年代男性雇用者の8.6%を占める。
また、非正規雇用男性について見ると、20~24歳では同年代男性雇用者の39.2%を占め、平均年収は222.2万円である。25~29歳では非正規雇用者の割合は19.1%であり、20~24歳と比べて大きく低下する。しかし、前項で見た通り、若い世代ほど各年齢階級における非正規雇用者の割合は高まるため、図表4の20~24歳の非正規雇用男性が25~29歳に成長する時点では、非正規雇用者の割合は現在の値を上回る可能性がある。同様に考えると、正規雇用者と非正規雇用者で年収差が2倍以上ひらく45~49歳では、非正規雇用者の割合が現在は1割に満たないが、今後、拡大する可能性がある。
女性では、男性ほどではないが、やはり正規雇用者と非正規雇用者では年収差があり、年齢とともに、その差は拡大する。なお、非正規雇用女性の年収は、最も多い35~39歳(234.8万円)でも250万円に満たない。なお、女性では新卒時点から非正規雇用者として働き続ける層と出産・子育てで離職後に非正規雇用者として働き始める層が混在することを考慮する必要がある。
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